イングロリアス・バスターズ (INGLOURIOUS BASTERDS)
監督:クエンティン・タランティーノ
出演:ブラッド・ピット(ベンジャミン・バトン 数奇な人生)、メラニー・ロラン(PARIS(パリ))
クリストフ・ヴァルツ(アッシャ 洞窟の女王)、ダニエル・ブリュール(パリ、恋人たちの2日間)
イーライ・ロス(デス・プルーフ in グラインドハウス)
ダイアン・クルーガー(マンデラの名もなき看守)、ジュリー・ドレフュス(キル・ビル)
ロッド・テイラー(鳥)、マイク・マイヤーズ(オースティン・パワーズ)
<あらすじ>
1944年、ナチス占領下のフランス。
かつて、“ユダヤ・ハンター”の異名をとる冷血な男ハンス・ランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)によって家族を皆殺しにされた少女ショシャナ(メラニー・ロラン)は、ただ一人逃げ延び、現在はパリで映画館主として身分を隠しながらナチスを根絶やしにする壮大な 復讐計画を進めていた。
同じ頃、アルド・レイン(ブラッド・ピット)中尉率いるユダヤ系アメリカ人を中心とし た連合軍の極秘部隊“イングロリアス・バスターズ(名誉なき野郎ども)”がナチスを次々と虐殺、その残虐な手口でドイツ軍を震え上がらせていた。そんな 中、ドイツ人女優になりすました英国スパイと共に、打倒ナチスの極秘ミッションに参加する。
ショシャナの映画館でナチスのプロパガンダ映画「国民の誇り」のプレミア上映が決まり、ヒトラーはじめナチス高官が一同に集結することに。この千載一 遇のチャンスを逃すまいと、ショシャナ、バスターズそれぞれが行動を開始するが…。
<キャッチコピー>
悪名こそ、彼等の名誉(グロリアス)
<マメ知識>
○クリストフ・ヴァルツは2009カンヌ国際映画祭で男優賞を獲得。
○1976年のイタリア映画「地獄のバスターズ」(The Inglorious Bastards)を下敷きにしています。
○クエンティン・タランティーノの監督映画で最大のヒット作となりました。
○2009年11月20日から11月23日の4日間、本作を観てつまらないと感じて上映開始後1時間以内に退席した観客には鑑賞料金を返却するという「面白さタランかったら全額返金しバスターズ」キャンペーンが約300館の劇場で行われます。
<感想など>
大幅にUPが遅れてしまい、すでに公開されています。忙しい日々は当分続きそうな気配が・・・
クエンティン・タランティーノ監督と言えば
作品を発表する度に、映画界に衝撃を与え続けてきました。
過去の作品に対するオマージュ満載、斬新な演出、凝った脚本。
映画オタクぶりを最大限に発揮した映画愛に溢れる作品を創り出してきました。
今回の「イングロリアル・バスターズ」
第2次大戦下のヨーロッパを舞台にした戦争アクションと謳われていますが、そこはタランティーノ監督です。
一体どうなっているのでしょうか?
第1章「その昔 ナチ占領下のフランスで・・・」
タランティーノ風「マカロニ・ウエスタン」の幕開けです。
のどかな田園風景の中ナチのジープが、ある農夫の家に向かってやってきます。
これから起こる何かを予感させる様な緊張感が良いですね~。
ジープから降り立ったのは、ユダヤ人ハンターと呼ばれるハンス・ランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)。
この家にユダヤ人が匿われていると確信しているランダ大佐と農夫の、静まりかえった部屋での一対一のやり取り ―
ユダヤ人家族を守ろうとシラを切ろうとする農夫を徐々に追い詰め―
「相手と同じ立場で考えるから、私には分かる」と農夫の目を覗き込む様に穏やかに語りかける仕草。
重要なことは英語で会話し、聞き耳をたてているユダヤ人を欺く狡猾さ。
紳士的な態度の中にある冷徹さ。
それは狂気をも内包している様なキナ臭い雰囲気を醸し出していて、クリストフ・ヴァルツの超絶とも言える演技が光っています。
ギリギリと音が聞こえる程に高められた緊張感の末、部下に機関銃を一斉掃射させます。
一人難を逃れた少女ショ シャナ(メラニー・ロラン)は、血まみれになり泣きながら草原を走って逃げます。
この一連の流れは、手に汗握る展開で鳥肌モノでした。
第2章「名誉なき野郎ども(イングロリアス・バスターズ)」
アルド・レイン中尉(ブラッド・ピット)がバスターズとなる野郎どもに向けて放つ号令から始まります。
「イングロリアス・バスターズ」
それは、対ナチの特殊任務部隊の事。
彼等の任務は ―
「“ナチ”を殺ること!」さらに
「1人あたり100人のナチの頭の皮を俺に持って来い!」と畳み掛けるように言います。
先祖がインデアンだと言うレイン中尉のキャラだからそこの台詞です。
実際に頭の皮を剥ぎ取っている場面や ―
襲撃し捕らえた将校を尋問し、バットで撲殺させる場面など、かなりエグイ演出もタランティーノの真骨頂ですね。かなりブラックです。
冷静沈着で理性的にユダヤ人を狩るランダ大佐。
衝動的、破壊的な人間の情動に訴えかけるような方法でナチを狩るレイン中尉。
この二人の違いを際立たせています。
レイン中尉が常に特大ナイフを携帯し、ヒゲ面で顎を突き出しゴモゴモと喋る様は ―
タフガイを極度に誇張したキャラクターを確立させていて、ブラッド・ピットの演技も冴えていて印象的です。
第3章 「パリにおけるドイツの宵」
少女だったショ シャナは、名を変え映画館の主となって生き延びていましたが、ナチ占領下では、ナチ宣伝の映画を放映するしかない状況。
ある日の夜、ドイツ軍の若い兵士フレデリック(ダニエル・ブリュール)に声を掛けられる事から運命は大きく動き出します。
成長したショシャナ役を演じたメラニー・ロランの美しには目を奪われますね。
フレデリックが執拗に言い寄るのも分からる様な気がします。
もっとも、このフレデリックは250名の連合国軍兵士に囲まれ、たった1人でその戦いに勝利するというアクション映画のスター並みの武勇伝を持つドイツのヒーロー。
自分が邪険に扱われていることにすら気付かず、得意顔でグイグイとショシャナに迫る有様は自信過剰な男の独りよがり的な滑稽さもあり笑えます。
フレデリックは「ショシャナに気に入られたい」その一心で、自分を主人公としたプロパガンダ映画「国民の誇り」のプレミア上映(ナチの幹部が全員集まる)をショシャナの映画館で開催する様に宣伝相のゲッペルスに働きかける訳ですが―
そこで、ランダ大佐とショシャナは再会。
思わぬ事態に遭遇することになったショシャナに浮かぶ ―
恐怖、動揺、興奮。
あらゆる感情の入り混じった複雑な心境。
それを現すまいとするショシャナとランダ大佐との言葉のやり取りはスリル満点です。
第4章 「映画館作戦」
「国民の誇り」のプレミア上映にナチの幹部が全員集まるという情報は、連合国側にも伝わってバスターズに指令が下ります。
ここで、ショシャナの映画館放火計画とバスターズの計画が同時進行していきます。
バスターズに課せられた作戦。
それは、プレミア上映が行われる会場をイギリス軍を中心に襲撃する事。
そのための重要な会合は二重スパイドイツ人女優ブリジット(ダイアン・クルーガー)の手引きで、場末のバーで行われます。
バスターズのメンバーとナチ将校になり済ましたイギリス人将校は打ち合わせを始めようとしますが ―
偶然バーに居合わせたのは、ナチ兵卒の集団と将校。
ブリジットを巡る会話やゲームのやり取り。
本題に入るに入れない焦燥感。
ドイツ語の訛りを指摘され、上手の誤魔化そうとする心理戦。
逃げ場の無い閉鎖的空間の中での神経の擦り減るような台詞の応酬がこのシーンの要です。
進退極まった状況。
机の下からお互いに拳銃を向けて発砲と同時に ―
激しい銃撃戦に!
ブリジットは辛くも難を逃れますが、足に銃弾を!
レイン中尉に救出されますが、運んだ先は動物病院。
ブリジットを怪しいと睨んだレイン中尉は、銃弾の入った痕に指を突っ込み詰問(拷問?)します。
弾痕の跡に指を入れる様子とブリジットの呻く姿のエグさは正視できない人もいるのでは?と思います。
ブリジッド役のダイアン・クルーガーの敵とも味方と見える怪しげな魅力を放つ演技も冴えています。
最終章 「ジャイアント・フェイスの逆襲」
いよいよ、「祖国の誇り」のプレミアの幕が開きます。
引っ張るだけ引っ張った緊張の糸を、絡み合った人間関係を一気に解き放ちます。
レイン中尉とバスターズがイタリア人記者になり済まして(?)ブリジッドの手引きでプレミアに潜入。
ブリジットに ―
「だいたいアメリカ人は外国語が話せるの?」
と言われ、イタリア語ならと答えたレイン中尉の発案ですが、当日のセキュリティーを担当するランダ大佐に呼び止められてやり取りは思わず吹き出しそう。
流暢にイタリア語も操るランダ大佐に対して、片言しか喋れないレイン中尉。
脇で固まる連れの2人と、焦るブリジットの構図が最高です。
ショシャナは、時は来た!
とばかりに興奮を隠しきれないように深紅のドレスに身を包み艶やかに登場。
助手と練り上げた計画に沿って復讐劇を完璧な形に仕上げる為にフィルムを差し替えますが、その時に ―
フレデリックが!(また、お前か!)
復讐に邪魔が入るのを嫌い、ショシャナはフレデリックを撃ち、フレデリックも・・・
戦争の英雄フレデリックも、復讐の鬼と化したショシャナも息絶えます。
ショシャナは息絶えますが、彼女の怨念の籠ったフィルムと助手によって復讐は成し遂げられます。
スクリーンに大きく映し出された、ショシャナの顔とナチを恐怖の底に陥れる台詞。
燃え上がるスクリーン。
足首に爆弾を巻いた状態で、鍵を掛けられた出口に殺到する人達を機関銃で撃ちまくるバスターズの2人。
ハチの巣になるヒトラーを始めとするナチの幹部。
そして映画館は大爆発を!!!
映画による戦争のプロパガンダを映画によって葬り去る。
これぞタランティーノ監督!と言える最高のカタルシスを味わえます。
下手なイタリア語で正体のバレたレイン中尉と部下ですが ―
別の場所に連れていかれ、ナチの命運は尽きたと判断したランダ大佐は、連合国側に交渉。
映画館作戦は全て自分の手柄とし、アメリカで悠々自適の生活が送れるように話をします。
何処までも狡猾で抜け目が無く、強欲で臆病な完璧な悪役です。
当然、そのまま逃げ切れる訳なく ―
レイン中尉によって、額にナチの証としての「卍」を刻みつけられます。(劇中では3人目?)
「軍服を脱いだら、ナチなのか分からなくってしまうし、それでは困る」
そう言いながら、卍を刻み
「最高傑作だ!」
と満足げに語るレイン中尉の台詞は、言外にタランティーノ自身が、この作品は「最高傑作だ!」と言っているのかな~なんて思いました。
当然、それ以外にナチの悪行に対する、一生消えない烙印の意味もあるのでしょうけど・・・。
戦争映画を謳いながら、戦闘シーンは劇中映画の中にしか現れないという点。
各章での絶妙な緊張感の高め方と会話劇の妙は特筆できます。
それらを最終章に向けて、収束させ、歴史的な事実を全く無視したファンタジックとも言えるラストの展開はタランティーノ・マジック!
圧巻の映画賛歌としての作品に仕上げようとしている意図を感じることができました。
戦争のもたらす狂気を描きつつ、映画の力を表現した快作かな?
ただし、ストーリーにブツ切れ感がある部分も見受けられ、152分は長く感じる人も多いかな?と思いました。
タランティーノ好きの貴方。
映画愛を持っている貴方。
台詞が織りなす、心理劇が好きな貴方。
お勧めです。
<最後に>
作品に求めるモノを間違えると ―
大きく肩透かしを食らうか?
思わぬ掘り出し物を見つけた喜びを得られるか?
どちらになるのでしょうネ。