「過去の仕打ち」に対する考え方
インドネシアが日本の新幹線計画から中国案へと乗り換えた2015年の出来事は、日本国内で「裏切り」と語られることが多い。しかし、日本政府はこの件を外交上の”しこり”として扱っていない。理由は明確で、インドネシアは東南アジア最大の人口と経済規模を持つ重要なパートナーであり、感情的対立は国益に反するからだ。
外務省や経産省の関係者の発言を総合すると、この時の日本政府の基本姿勢は次の三点に集約される。
①インドネシアは案件ごとに最適条件を選ぶ国であり、今回もその一環と理解する
②日本は長期的な信頼関係を重視し、単発の案件で関係を損なわない
③ただし、情報管理や交渉戦略の甘さは反省点として共有する
以上のような意見を発表している。つまり、政府としては「怒り」よりも「教訓」を重視している。
現在の関係はむしろ拡大傾向
高速鉄道の件があったにもかかわらず、両国はむしろ安定し、協力分野は広がっている。日本はインドネシア最大級の投資国であり、自動車産業、港湾整備、都市鉄道(MRT)、発電所などで協力が継続している。また、防衛協力や人材交流も活発で拡大している。さらに、ジャワ島横断鉄道など、新規インフラ案件で日本案が再浮上する可能性もあるようだ。とくに、インドネシア側は、中国の高速鉄道が開業後もコスト増や追加融資問題を抱えているため、「日本技術の信頼性」への評価が高まっているという。
教訓を生かした「現実外交」
日本政府は過去の高速鉄道案件を「失敗」て終わらせず、次の三つの方向で政策を進めている。
①インフラ輸出の戦略強化策として、価格競争だけでなく、資金スキームを強化するとともに、除法管理を徹底する。そして、企業・政府・金融機関が一体となったパッケージを提案する。
②インドネシアとの関係深化も課題で、経済安全保障の観点からも、インドネシアは重要拠点である。防衛装備移転や海洋安 全保障でも連携を強化し、EV(電気自動車)やニッケル資源など新分野でも協力を拡大させる。
③中国の存在を排除するのではなく、「競争しつつ共存する」という現実的な姿勢をとる。インドネシアが両国を天秤にかけるのは当然であり、日本はその中で「選ばれる価値」を高める。
まとめ
インドネシアの高速鉄道案件は、日本にとって確かに苦い経験だった。しかし、日本政府は感情ではなく国益を優先し、関係を冷静に維持している。むしろ、この経験があったからこそ未来に向けて、インドネシアとの関係が深まったと言えるのではないか。