事態は再び緊迫してきた

先日、「石油危機は脱したのか」という記事を書きました。その時点では、ホルムズ海峡をめぐる緊張は続いているものの、サウジアラビアなどが別の輸送ルートを利用することで、何とか世界への原油供給を維持できるのではないか、という期待もありました。ところが、事態は再び緊張を増しています。

 

9月11日、サウジアラビアの東西を横断する「東西パイプライン」がドローンによる攻撃を受け、サウジ政府は安全確保のため操業を停止しました。このパイプラインは東部の油田地帯から紅海沿岸のヤンブーまで約1200キロを結び、ホルムズ海峡を通らずに原油を運び出せる重要なルートです。最大で日量500万バレル程度を輸送できるとされます。

 

つまり、ホルムズ海峡が不安定になった時の「逃げ道」が攻撃を受けたことになります。サウジ側は、攻撃に使われたドローンはイラクから飛来したと発表しており、イラクの親イラン系武装勢力の関与が疑われています。

 

ここで、もう一つ気になるのが、イエメンのフーシ派とサウジアラビアの対立です。フーシ派は、イランの支援を受けるイエメンの武装組織です。長年、サウジアラビアと対立してきました。2022年以降は比較的穏やかな状態が続いていましたが、最近になって再び戦闘が激しくなっています。

 

9月8日には、フーシ派がサウジアラビア南部に大規模なミサイル・ドローン攻撃を行い、石油施設などが攻撃されました。さらにフーシ派は紅海沿岸で攻勢を強め、紅海の南側にあるバブ・エル・マンデブ海峡に近い戦略的な島を掌握しました。これは石油問題を考えるうえで非常に重要です。

 

ホルムズ海峡はペルシャ湾から外へ出るための重要な海峡ですが、サウジアラビアが東西パイプラインを使って原油を紅海側へ運び出せば、ホルムズ海峡を避けることができます。ところが、その紅海側でもフーシ派の影響力が強まっている。つまり、「ホルムズ海峡を避ければよい」という単純な話ではなくなってきたのです。

 

バブ・エル・マンデブ海峡は紅海とアデン湾を結ぶ重要な海上交通路です。ここが不安定になれば、サウジの原油輸出だけでなく、世界の貿易そのものにも影響します。実際、フーシ派の進攻によって、この海峡を通る船舶の安全に対する懸念が急速に高まっています。

 

バブ・エル・マンデブ海峡

石油価格の高騰が人々を苦しめる

私は、この状況を見て、「石油危機は脱したのか」という問いに対して、今はまだ「脱したとは言えない」と考えています。

もちろん、直ちに日本のガソリンがなくなるという話ではありません。日本には石油備蓄がありますし、原油の調達先も少しずつ多様化しています。

 

しかし、日本の原油輸入の約94%は依然として中東に依存しています。日本にとって、中東情勢は決して遠い外国の出来事ではありません。今回の出来事で最も心配なのは、原油そのものが突然なくなることではありません。まず原油価格が上昇します。原油価格が上がれば、ガソリンや灯油だけでなく、航空燃料、電気、物流費、製造コストなどにも影響します。そして企業のコストが上昇すれば、最終的には私たちが購入する商品の価格にも跳ね返ってきます。

 

つまり、石油危機は「ガソリンスタンドに車の列ができる」という形だけで現れるものではありません。物価全体を押し上げ、私たちの生活を少しずつ苦しくすることも、石油危機の一つの姿なのです。今回、原油価格が1バレル100ドルを超える水準まで上昇していることも、その警戒感を表しています。関係筋の中にはこのまま戦闘が続けば、先では1バレル120ドルにまで上がるという予測をしているところもあります。

 

さらに気になるのは、サウジアラビアとフーシ派の対立が、単なる「イエメン国内の争い」ではなくなっていることです。フーシ派を支援するイラン、サウジアラビア、米国などの利害が複雑に絡み合えば、一つの攻撃が別の攻撃を呼び、石油施設や輸送路への攻撃が連鎖する危険があります。そうなれば、世界の石油市場は「実際に何バレル不足しているか」だけでなく、「次にどこが攻撃されるのか」という不安によっても動くことになります。私はここに今回の問題の怖さがあると思います。

日本の今後の対応

日本としては、石油備蓄を活用しながら、米国など中東以外からの原油調達を増やし、省エネルギーを進めることが必要でしょう。そして何より、中東でこれ以上対立が拡大しないよう、外交努力を続けることが重要です。

 

石油危機は、ある日突然「終わりました」と宣言できるものではありません。ホルムズ海峡、サウジの東西パイプライン、そして紅海・バブ・エル・マンデブ海峡――。いま私たちは、世界の石油を支えてきた複数の輸送ルートが同時に不安定になるという、これまでとは違った局面に直面しています。

 

だからこそ、今回の事件を単なる「サウジのパイプライン事故」として見るのではなく、世界の石油供給網そのものがどこまで持ちこたえられるのかを考える警告として受け止める必要があるのではないでしょうか。

 

「石油危機は脱したのか」。現時点での私の答えは、残念ながらまだ「いいえ」です。むしろ今は、危機がどこまで広がるのかを注意深く見守る段階にあると思います。次回はこの危機に際し、高市政権に望むことについて考えていきます。