先日、日本国債の価格についてちょっと書いた。

 またぞろ日銀VSヘッジファンドの戦争がはじまる、とても楽しみだ、というようなオチをつけた気がする。

 

 それにまつわる話で、アメリカの債券市場でも、ちょっとおもしろいことがあった。

 備忘録的に、すこしだけ書いておきたい。

 

 今月上旬の話で、ぼちぼち情報も出そろいつつあるが、結論からいえば真相はよくわからない。

 というより、どこの投資家が、どんな理由で買ったのか、売ったのか、あきらかになることのほうが、むしろまれだ。

 

 インサイダーやよほどの事情通でもないかぎり、私のような「ただのウォッチャー」には永遠の謎である前提。

 そのうえで、いくつかの予想はできているので、自分の気に入るシナリオで納得してみようと思う。

 

 

 ちょうどトランプ政権が「相互関税」を発動するタイミングだった。

 その約1時間前、債券市場である出来事があった。

 

 時間外取引で米国債が突如、売られはじめたのである。

 ニューヨーク・タイムからトーキョー・タイムにかけて、およそ1日足らずの間に、利回りが急騰(価格は下落)した。

 

 同時に日本国債も超長期債を主体に大きく売られていたが、タイミングの面でやはり米国債が核心だ。

 どうして、どこが、なぜこの時間に、日米の国債を売却したのか──ストップロスなのか、期初の売りなのか、この時点ではまったくわからなかった。

 

 リアルタイムで米国債の利回り変化を追っていた人の記事を読んだが、かなり頻繁にレートが変わっていて、売買はそうとう活発であったらしい。

 通常、この時間に米国債が頻繁に売買されることはないので、かなり目立っていたようだ。

 

 

 ざわざわ……という感じがトーキョー・タイムにも伝わってきて、東京の昼の米債売りでは、一部の邦銀が売却したのでは、との観測も出ていた。

 具体的には「農林中金」という名前が出たようだが、農林中央金庫の理事長はすぐに、米相互関税導入時の米国債大量売却について「事実はない」と否定した。

 

 翌週以降に財務省が発表した「対外及び対内証券売買契約等の状況」では、4月6~12日の1週間に、国内投資家が売り越した海外の国債など中長期債は5120億円。

 規模はわかるが、売買主体まではわからない。

 

 日経新聞によると、大規模売却に動いたのは国内勢ではないようだ。

 そうなると、やはり当初から騒がれていた「中国勢による報復」の売りが、本命視されざるをえない。

 

 

 これに対して、当事者の片割れであるアメリカのベッセント米財務長官は、その憶測を否定してこう言った。

 「非常に大きなレバレッジをかけた取引をしていたプレイヤーがおり、彼らが損失を被ってデレバレッジを余儀なくされている」。

 

 ヘッジファンド出身らしい物言いだが、要するに米国債の投げ売りは一時的なもので、大きな流れにはなりえない、と言いたいらしい。

 たしかにその後、ある程度、価格は落ち着いているように見える。

 

 問題はタイミングだ。

 あの日、トランプ大統領はどうしたか?

 

 そう、「相互関税の上乗せ部分について、一部の国・地域に90日間の一時停止を許可する」と発表したのである。

 どうやら債券の価格変動を受けて、ベッセント財務長官とラトニック商務長官が、関税を一時停止するよう大統領に呼びかけたらしい。

 

 発動したばかりの大統領令をその日のうちに撤回するという、あまり見たことのないレベルの朝令暮改。

 おかげさまで、一時的に株価などは持ち直したりもしたが、ある意味ではひどいボラティリティ(変動率)にさらされることにもなった。

 

 

 世界経済にとっては最悪の事態を回避させた、という見方をする人々もいる。

 たしかに90日間の延命は、多くの企業にとっては「助かる」ことではあったろう。

 

 それだけに深読みする人々は少なくない。

 個人的にも、ある種の陰謀論さえ組み立てたくなってくる。

 

 演じるキャストにも、それなりの説得力がある。

 ベッセント財務長官は、かつて「日銀を打ち負かした男」とまで言われた、ウォール街の「静かな殺し屋」だ。

 

 彼がアベノミクスの円安で大儲けしたのは事実──とはいえ、べつに負かしてはいないだろう、とは思っている。

 だがすくなくとも、かつて「イングランド銀行を負かした」ジョージ・ソロスの薫陶あらたかである点、疑う余地はない。

 

 

 この金融市場に精通している人物は、今回の事象について以下のように説明した。

 「このたびの米国債の大量の売却は、海外のヘッジファンドがアセットスワップの大きなポジションを、一気にアンワインドしたため、との観測が出ている」。

 

 その意味を完全に理解はできないが、だいたい雰囲気は伝わってくる。

 債券市場はやっかいですよ大統領、というハッタリは、ただのハッタリでは済まないくらいの説得力があった、ということだ。

 

 その後、アメリカの株価はじりじりと下げている。

 トランプ大統領が方針を変えそうもないことが理解されてきて、徐々に折り込みが進んでいるようだ。

 

 大山鳴動して鼠一匹なのか、それともこれから世界が変わるのか。

 株価や債券はもちろん、いろいろな見方から推測、理解することで、同じニュースでも興味深く、おもしろくなる。

 

 最初に書いたとおり個人的な備忘録にすぎないが、この記事が世界を理解できる一助となれば幸いだ。

 マーケットには、魔物が棲んでいる──。