最近、日帰り入院をしてきた。
どうでもいいが、病名は痔だ。
すこしまえに治療したことを書いた気がする。
またぞろ再発したわけだが、寒い田舎でえんえん座り仕事というのは、やはり尻には障るらしい。
この田舎は寒冷地であるため、室温はかなり下がる。
しかし私は基本、暖房を使わない。
古来より頭寒足熱というように、頭は冷えていたほうが冴える。
また個人的にも脳が発狂気味なので、冷やしておかないと暴走するリスクが高まる。
ゆえに暖房は禁忌なのだが、かといって全身を冷やすと命の危機に陥る。
そこで、とくに腹だけは温めるようにしていたものの、どうやら尻も温めておく必要があったようだ。
先の手術の効果で2年弱は快適だったが、3年目から徐々に悪化していた。
指で押さないと肛門がもどらないというのは、非常に不快である。
ウォシュレットの水圧を弱くしないと痛い、というのも萎える。
私は強めが好きなのだ。
というわけで前回と同じ病院へ行き、再手術を依頼した。
医師的には、このくらいなら薬で管理しているひとも多いですよ、という所見だが私はちがう。
かのバチスタ手術で有名な医師も言っていたではないか。
医師は患者の願いに応えるべき存在だ、と。
軽いうちに手術したほうがいいと思う、QOLの問題だ、ぜひ早急に。
訴える私に医師は苦笑して、患者の強い希望により、とカルテに書いていた。
もちろん予後不良のリスクをとって「生きたい」患者と、ローリスクで「快適に生きたい」だけの患者を比較してはいけない、とは思う。
そういう「特殊医療」と「生命倫理」の問題については、また別途語りたい。
ともかく、そんなわけで手術適用としてはだいぶ軽い。
今回も日帰りだ。
これまでも入院のエピソードについては何度か書いた。
残念ながら病院には縁があり、交通事故や骨折などで、たまに数日間の入院をすることがあった。
そして不謹慎ながら、毎度おもしろい経験をさせてもらっている。
じつは目的の半分は、この病院エピソードの追加だったりする(言い過ぎ)。
今回も、いきなりエアだらけの点滴刺して、結局漏れて刺しなおしてくれた看護師との出会いからはじまった。
廊下にはやたら音の高いスリッパで往復をつづける老婆がいたが、それはあまりオモシロくはない(私の視点はまちがっている)。
病院は全体的に空いていて、4人部屋の病室にも相方はひとりしかいなかった。
今回いちばんおもしろかったのは、その唯一の相部屋患者と看護師との会話だった。
くわしいことは書かないが、彼は下半身(腰椎)麻酔で手術予定の患者だった。
局所麻酔の私とはレベルがちがう。
それ以前に看護師が、カテーテル入れますか?
などと確認していたが、下半身きかないんだからどう考えても入れたほうがいいだろ、と素人ながら思っていた。
まあ麻酔が切れてからトイレに行けばいいわけだし、尿瓶もある。
カテーテルを入れない選択肢はあっていいが、そもそも麻酔の残った下半身から排尿するのは困難なのだ、と腰椎麻酔の経験者は語る。
そもそもその説明と質問、朝もしてたよな、と隣の会話を聞きながらニヤニヤしていた。
私の点滴を刺しなおしてくれたその見習い看護師は、どうやらだいぶドジっ子らしい。
はやくもオモシロ(失礼)の気配が増していた。
病院ネタの提供元では、もちろん患者が一番だが、看護師もそれに匹敵する。
午後、手術の時間は、おそらくいちばん軽いだろう私から。
書くほどのこともなく、あっさり終わって二時間休憩中、隣の患者が手術室へむかった。
しばらく本を読んでいると、下半身麻酔された患者が仰々しくもどってきた。
くだんの看護師がついて、足の感覚がない、動かせないなど、術後の管理手順どおり確認を進めている。
私にも同じ確認をしていたが、こっちは局所麻酔なので最初から感覚はあるし、ふつうに動けるレベルだ。
ドジっ子看護師の相手は、自分ではなく、できれば他人に任せたい。
そんなわけで隣の患者のようすを、隣から静かに聞いていた。
いよいよ尿カテを入れる段であるが、どうやら尿が出ないらしい。
おかしいなあ、と頭をひねる看護師(女)。
患者(男)に向けて、こんなことを言っていた。
看護師「男性は出る穴ひとつだから、ふつうはこれで出るはずなんですけど」
患者「はあ……」
うまく返せない患者に代わって、カーテンを隔てた隣から、いや女だって尿の出る穴はひとつだろ!
と、代わりに突っ込んでおいた、内心。
感覚のない患者を相手に無茶してるらしい看護師の姿を想像するほど楽しくなって、声が漏れそうになるのを必死でこらえた。
あまりにもおもしろかったので、看護師つかまえて本意を問いただしたいとすら思った。
おまえには何個穴があるんだ?
そのうち何個から尿を出すんだ?
まあセクハラで訴えられる気がするので口にはしないが、妄想は膨らむばかりだ。
もしかしたらこれは、病院関係者のあいだだけで交わされる、なんらかの隠語なのかもしれないとも考えたが、答えはわからない。
隣の患者のもとへは、二度ほど看護師がもどってきて導尿やりなおしていたが、日帰りの私が病室を出るまでには、答えも尿も出なかった。
結末は永遠に謎だが、いまでも想像して楽しんでいる。
さて、最後に私の手術についてだが、効果はてきめんだった。
費用はたったの3万数千円、病院に3回行くだけで治った(手術日前日にPCR用の唾液を届けただけの日を除く)。
再発したらまた入院しよう。
いや、こんごは生活に気をつけます……。