今月(23年3月)、クレディスイスが破綻してUBSに吸収された。
 劣後債の一種であるAT1債の価値がゼロになった、という話はなかなか示唆的だ。

 通常、会社が破綻したときに、まず価値がゼロになるのは株式だ。
 清算した会社価値に合わせて、いくらかもどってくることもあるが、その優先順位はきわめて低い。

 しかし今回、速やかに救済されたことで、安い価格ではあるが、株主はUBSに株式を売却する権利を得ている。
 にもかかわらず、債券の価値がゼロ。

 市場は動揺し、かなりの騒ぎになった。
 さまざまなタイプの劣後債に、影響が波及している。

 AT1債の特性といってしまえば、それまでだ。
 最初から契約条件は記載されていて、安全性の高い通常の債券に比べて、順位の低い劣後債のリスクを理解したうえで購入すべきものである。

 その分、高い配当を得ていたのだが……。
 株式よりひどいって、おかしいだろ!

 というわけで、訴訟に備え、ハゲタカファンドが価値ゼロの債券を買いあさっていたりもするらしい。
 文字どおり死肉に群がるカネノモウジャだ。


 これがクレディSであったという点にも、いろいろと思うところはある。
 あいつらなら、いつかやるとは思っていた。

 金融危機を描いた映画でもよく出てくる「金融マフィア」のお歴々。
 クレディスイスは、世界ワースト3にはいるヤクザ会社だった。

 ちなみに他の2つは、リーマンブラザーズとシティバンクだ。
 どちらもやらかしているわけだが、ついにクレディSも、その黒歴史に汚点を残すことに成功した。

 ヤクザのような証券会社の蛮行については、私も個人的に痛い目に遭っているので、とてもよくわかる。
 私は末端の金融チンピラによる小さな被害だが、大親分のような世界的マフィアになると、被害の規模が桁外れだ。


 破綻の前年、SNB(サウジ・ナショナル・バンク)から15億ドルの投資が行なわれている。
 そこからの「追加投資はしない」という発言が、結局はトドメになったようなところはある(発言者は責任を取って辞任した)。

 投資の大部分は、損失となった。
 このアラブのお金持ちは、ごく短期間に10億ドルをドブに捨てたらしい。

 この破綻処理の前後にまつろう諸々を眺めていて、その闇の深さに気づいた。
 痛い目をこうむった人々の多くが、「欧米の敵」だったりするのだ。

 巻き添えになった「味方」も、もちろん多数いる。
 しかし、ゴルゴ13に依頼して報酬を「スイス銀行」に支払うような人々が、率先して痛い目をみている印象だ。

 具体的には、親ロシアに傾倒する中近東の王室や、対ロシア制裁逃れなどにちょいちょい便宜を図る永世中立国あたり。
 これはヨーロッパの情勢を各国要人や関係者が「忖度」し、対立陣営に釘を刺したような部分もあるんじゃないかな、などと穿ってみたりもする。

 昨今のドイツ銀行への売り浴びせは、なんやかやロシアに配慮しているからか。
 もちろん信頼性問題は各国銀行にも軒並み波及しているが、アメリカはどちらかというとSVB(シリコンバレー・バンク)の影響が大きい。


 かつてユダヤが生み出した最強の矛「銀行」。
 イスラエルが誇る盾「アイアンドーム」よりも、じつのところ矛が強い。

 金融から締めつけるというのが、いちばん効く。
 戦争でも、最前線で必要なのは兵器かもしれないが、基本的には軍資金がすべてを決する。

 中露の会談でロシアが得た最大の成果は、お金の流れを確保できたことが大きい。
 プーチンさん個人としては、体制への支持が大きかったかもしれないが。

 タイミング的に、そこへウクライナ訪問をかぶせた岸田さんへの評価が意外に高い。
 真綿で締めるようにロシアを窒息させようという決断を、「闇の政府」が下したのかな、ディープ・ステートこわいな……。


 などと陰謀論的な想像をたくましくすると、けっこう暇つぶしになる。
 スマホをいじる感覚でQアノンをたしなむアメリカ人の気持ちを、すこしは理解しやすい。

 巷間流布されている陰謀論は、だいたいそういうことなんだろう。
 そこに一抹の真実が含まれている……可能性もある。

 信じる信じないは、あなたしだい。
 そして私自身は、自分自身すらあまり信じないようにしている。