私はカネを転がして得たあぶく銭で、しばらく息をしていた。
 生きる価値のない人間だと思うので、死ぬときがきたらおとなしく死にたい。

 とはいえ現在、まだ生きている。
 おおむね昔のあぶくを吸って生きているが、それだけではむずかしい。

 そこで、このあぶくというやつが、たまに「吸ってくれ」といわんばかりに膨らむチャンスを、淡々と待っている。
 いや、もうそういう取引をするほど心が健康ではないのだが、習慣的にマーケットの動向を追ってしまうのは、己が業の深さゆえだろう。


 というわけで、ビットコインの売買はしていないのだが、一応、主要な暗号通過としてウォッチはしている。
 で、ボーッと映画を観ていた土曜日の午後、チャートがすごいことになっていた。

 1時間足らずのあいだに、1万ドル以上、下落。
 この間、清算されたビットコインは、およそ13億ドル相当。

 またしてもショーターの勝利か、と回想モードに浸りつつ、いろんなことを考える。
 よくあることだが、この値動きに反応している人々の姿を想像するだけで、じつにおもしろい。

 なかでもおもしろかったのが、エルサルバドルだ。
 ご存じのとおり、法定通貨としてビットコインを保有している。

 この大統領が、暴落に合わせて150ビットコインを買い増した、とツイートしていた。
 えらいバカ買っとる、エルサルバドル。

 この時点では、なんでこんなに下げたのかさっぱりわからなかった。
 週が明けても、あまりしっくりくる理由はわからない。

 地合いが悪化していた、構造的な問題がある、など漠然とした説明はできる。
 米国株の下げで資金余力の乏しくなったヘッジファンドの損失覚悟の売りが、週末の真空地帯に重なって起こったフラッシュクラッシュ、という分析がどうやら正しいらしい。

 ビットコインやリップルについては、大規模ロスカットを巻き込んだいつものオーバーシュートか、と受け流してしまいそうな事態ではある。
 ただ個別銘柄では逆行高している暗号資産もあり、入れ替えが起こっているのかな、という気もする。


 同じころ、トルコリラもおもしろいことになっていた。
 あいかわらずFXでは死人が出ているようだ。

 トルコリラの暴落は、だいぶまえから着々と進行していた。
 さすがにもう下げ止まるだろ、という昔の私のような逆張り日本人の大量参入を促してもいたようだ。

 が、あまりにも下げすぎた。
 昔の私のような輩が泣く泣く「投げた」結果、現在、円建ての買いポジションは往時の半分以下まで減っているらしい。

 正解だと思う。
 どこまで下がるのか、まだよくわからない。

 トルコの大統領と中央銀行がケンカしているニュースは、よく流れてくる。
 このまま利下げをつづけるつもりらしいので、まだしばらくは安値更新するだろう。

 で、先週、耐えかねたトルコ中銀が「不健全な価格形成」に対して介入した。
 あまり効果はなかったようだ。

 為替の「急激な変動」に対しては各国の中銀が動くことになっているが、よほど大規模な「協調介入」でもなければ効果は期待できない。
 この手のニュースで、いつも思い出すのはイギリスの惨事だ。

 いわゆる「ポンド危機」というやつで、ジョージ・ソロス率いるヘッジファンドに、イングランド銀行が負けた。
 国家よりヘッジファンドのほうが強いことを、このとき多くの人々が思い知った。

 自国通貨を買い支えようにも、「外貨」には限度がある。
 しかも今回、トルコはもっと大きな「世界」を敵にまわしている。

 勝ち目はない。
 政策転換するまで、行きつくところまでは行くだろう。


 ……とはいえ、さすがにそろそろ買いだろ、という気はしないでもない。
 ファンダメンタルズを冷静に分析できるほどの情報と知識があれば、世界のどこかには判断できる「天才」がいるのかもしれない。

 私は凡才だが、代わりに蛮勇があった昔なら、たぶん買っていただろう。
 いまは、怖くて無理だ。

 中銀が介入した水準から、さらに数割は下げる、というのが現在の私の経験則だ。
 ポンドは、たしか5割以上下げて数年間、変動相場にさらされたはずだ。

 スイス中銀も、「禁じ手」である「上限」を撤廃してから現在に至るまで5年以上、異例の価格水準に苦しみつづけている。
 自国通貨の価値を見誤った中銀に、マーケットが「お仕置き」する姿を想像すればいい。

 なのでトルコリラも、上昇に転じてから買いにはいる、くらいで遅くはないだろう。
 安値で高金利通貨をつかめれば、その後長くスワップ金利を楽しめる。


 ビットコインもそうだが、政府とか国が参入した場合、下手な価格を出すとしばらく「お仕置き」されることが少なくない。
 エルサルバドルの平均取得価格「以下」の水準で、しばらく調整する可能性は高いように思う(現在は回復しているようだが)。

 ことさらに悲観シナリオを好む、日本人的傾向で言っているわけではない。
 厳しい現実として、トルコリラともども値動きには注意を払ったほうがいいだろう。

 そして私は静かに映画を観る。
 お金なんて汚い話だ……。