大谷さんが、がんばっているらしい。
 芸能・スポーツに興味がなく、グーグルのおすすめ記事も「スポーツに興味がない」をタップして軒並み消しているにもかかわらず、なぜか表示されてくるオオタニサン。

 もはや社会現象だから、知っとけよ、という意味だろうか。
 たしかに、先発ピッチャーでホームランバッターというのは、マンガみたいで人々の食いつきがいいのもわかる。


 口幅ったいことを言うようだが、私は大谷さんに世話になったことがある。
 かつて千葉に住んでいたときだ。

 北海道日本ハムファイターズの二軍本拠地兼練習場・ファイターズスタジアムという施設が、鎌ヶ谷にあった。
 その関係で、たぶん入団した最初のころ、大谷さんの現住所は鎌ヶ谷だったと思われる。

 で、だいぶ給料が上がってきて、たくさん税金を納めてくれるようになったらしい。
 鎌ヶ谷市長が、こんなことを言っていた。

 アメリカに行ってほしくないですね、高額納税者ですから。
 スポーツに興味のない私は、当時、完全に聞き流していたのだが。

 タックスペイヤーは、タックスイーターを支えている。
 考えてみれば、低額納税者の私を含む下層市民は、高額納税者である大谷さんなどによって支えられていた(という側面もある)。

 当時、鎌ヶ谷図書館で借りた本の何冊かは、大谷さんの納税によって賄われていたかもしれない。
 世話になったね、ありがとうオオタニサン!


 そんな大谷さんも、現在はMLBを代表する大物選手だ。
 彼に対して下手なことを言ったりやったりすると、たいへんな炎上騒ぎになるらしい。

 ちょっと乱暴な口をきいた選手や評論家などが、軒並みバッシングされていて、多少の哀れさえ催した。
 通訳をつけているのはいかがなものか、英語を話せない選手は困るな、みたいなことを言ったコメンテーターも、たいへんな差別主義者に仕立て上げられていた。

 しかし、考えてもみるがいい。
 彼らにとって、その程度は差別ではないのだ。

 現在のアメリカを築き上げたスポーツ文化の創始者である一部の人々にとって、アジア人とか、英語を話せない外国人とかは、ただの「出稼ぎ労働者」なのだ。
 そんな連中に、アメリカ文化の代表選手づらをされると、不愉快なのだ。

 当人は差別主義者ではないと弁明しているようだが、私もそうだと思う。
 彼らにとっては、あたりまえの「常識」にすぎない。

 アメリカがどういう国か学んでおけば、彼のような意見が「ふつう」であることは察しがつく。
 なにしろトランプを大統領にする国なのだ。

 おそろしい国は、おそロシアだけではない。
 彼らアメリカ人の育んできた、偉大な映画文化からも察しがつく。


 アメリカで「ゾンビもの」が流行る理屈を、私なりに考えてみた。
 主人公たちはゾンビに襲われ、しかたなく「敵を倒す」。

 客観的には、動きの遅い、倒しやすい「標的」だ。
 接近されると危険だが、銃なら安心安全、多くの人類がアフリカで野生動物をトロフィーにしてきたように、狩猟本能を満足させられる。

 そうしてプレイヤーは、ターゲットを破壊する。
 たいして抵抗できない「物体」を次々と。

 バン!
 ユー、ウィン!

 しかも、それは殺しているわけではなく、ただ危険なので排除しているだけだ。
 人の形をしているが問題ない、なぜならゾンビだからだ。


 さて、敷衍しよう。
 人間には思考力や想像力があるので、脳内で「象徴」や「仮定」を取り扱うことができる。

 それは殺してもいいもの、壊してもいいものだ、なぜなら人間ではないから。
 こういう心理状態で、彼らの祖先は黒人やインディアンを虐殺したんだろうな、と理解すると、とてもわかりやすい。

 黒人やインディアンは人間ではないので、いくらでも殺していい。
 司祭、牧師はそう言って、マニフェスト・デスティニーを肯定した。

 虐殺者と略奪者の子孫たち。
 そのなかに、色濃く祖先の行動原理を受け継いでいる人々がいても、おかしくはない。

 事実、彼らはそうやって、現在そこに住んでいる。
 彼らの祖先は、そうやって彼らをその地に残したのだ。

 なるほど、ありがたい!
 じいちゃん、サンキュー!

 すべてのアメリカ人がそうだとは言わないが、多くの既得権者は該当すると思う。
 侵略者たちの子孫による、祖先の行動に対するオマージュ、それがゾンビ愛なのだ!


 私はべつに、これを「わるい」と言っているわけではない。
 そもそもすべての子孫は、先祖に対して感謝と敬意を払うように、遺伝子レベルでプログラムされている。

 祖先に対する敬意は、失ってはならないものだ。
 その遺伝子に基づいて、現在の行動がある程度支配されることには、蓋然性もある。

 そういうリスペクトが、アメリカ人のゾンビ愛を支えている。
 という理屈を、思いついてしまったのだからしかたない。


 無抵抗で縛りつけられたゾンビ、わけのわからないうめき声を発している死体、放っておくと危険なので殺してしまえ。
 殺す、いや、壊すことが正義であると自分に言い聞かせて、彼らは無抵抗のゾンビを破壊する。

 先祖もやってきたことを、子孫が喜んで模倣する。
 彼らが生きた黒人にやったことを、死んだゾンビに対してやっているだけだ。

 人類は、そうすることが楽しくてやっている。
 奴隷を売買したり、ヒトの形をした、しかし人間ではない物体を壊すことは、それほどの罪ではない、むしろ正しいことなのだと。

 正しいことをやっているのだ。
 ゾンビ狩りの映画を観ていて、彼らが言いたいことがよく伝わってくる。

 人類は、自己正当化しなければ、なかなか生きづらい。
 そういうことだ。


 そんな「日常」がある国で、味方を増やしている大谷さんは、すなおにすごいと思う。
 現に、彼に噛みついたような感じを見せただけで、軒並み炎上しているということは、そういうことだ。

 古い略奪者、殺戮者の血は、それなりに薄まっていることは事実なのだろう。
 既得権者に対するペイバック、という意味合いもあるのかもしれない。

 もちろん100年前の常識は、現在の常識ではない。
 とはいえ、そういう地盤の上に多くのアメリカ人が立っている事実も、けっして忘れてはならない。

 アメリカの本質は変わらないと、私は思っている。
 大谷さんの無事な帰国を祈るばかりだ……。