毎度おなじみ、ネット配信の映画を見ていた。

 動画サービスを見ていると、「あなたにおすすめ」というレコメンドをよく見かける。

 

 たいがいは視聴履歴からの類推であり、納得できるのだが、ときおり違和感を覚える。

 一度もアニメを見たことがないのに、劇場版ワンピースを勧められたりするからだ。

 

 B級映画を多く見ているので、クソつまらない映画を紹介されるのは理解する。というか、当然だ。

 しかし一度も見ていないアニメ系を推薦するのは、「あなたにおすすめ」ではなく「このサイト利用者全員におすすめ」か、単なる「おすすめ」ではないか?

 

 なぜ「あなたに」おすすめするのだろう。

 「あなたのためなんですよ」という恩着せがましい表現で、趣味と無関係の作品を押し付けてくるのは、やめてくれまいか。

 

 視聴履歴と明らかに関連性がないのに、なぜ「あなたに」なのか?

 それは、一度もアニメを見ていないあなたに、アニメの良さを理解してもらうために、あなただからこそ有名なアニメを推薦しています!

 

 なるほど、それなら「あなたのため」かもしれない。

 が、それを言い出したら、なにを紹介しようと「あなたにおすすめ」になってしまわないか?

 

 一度もB級映画を見たことのないあなたに、B級おすすめします!

 一度もアダルトを見たことのないあなたに、アダルトどうぞ!

 

 ふざけんなと。

 そんな文脈が許容されたら、なにを紹介しようがOKになってしまうではないか。

 

 キリストにしろなんにしろ、あなた方のために死んだ、などと、わけのわからない理屈を押し付けてくるやつらには、ヘドが出る。

 相手のためと言い条、事実は、自分のために過ぎないからだ。

 

 自分のために、だれかが死んだことを利用している。

 自分のために、映画を紹介している。

 

 それを「あなたのために」おすすめする。

 おためごかしは、気持ちが悪い。

 

 

 が、落ち着いて考えてみると、彼らは「商人」だ。

 信者を集め、動画を見せて、お布施なり広告料なりで利益を得ている連中だ。

 

 社会は商行為で成り立っていることは認めざるを得ないので、最低限、順応しなければ生きていけない。

 無料で動画を見ているときには、広告を見せられることも耐えている。

 

 そこで短い広告を見て、彼らとの言語感覚のちがいを噛みしめる。

 商人は言う、ご奉仕、と。

 

 猛烈な違和感。

 というより、嫌悪感。

 

 この「奉仕」という言葉の使い方。

 正しいのか?

 

 グーグル先生に訊いてみる。

 奉仕の意味1は「国家・社会や目上の者などのために、私心を捨てて力を尽くすこと」とある。

 

 いわばボランティアだ。

 もちろん無償とは限らないが、実費のみなど最低限の報酬で労働力を提供する、といった意味だろう。

 

 意味2として「商人が客のために特に安く売ること」というのがある。

 なるほど。ということは、商人がこの言葉を使っても、意味としては、まちがっているわけではない。

 

 しかし、だ。

 自分で「これは奉仕活動だよ! 俺は奉仕してるよ!」と言いながら、ボランティアをしている人間を見て、われわれはどう思うだろう?

 

 いいことしてるよ俺、という自己主張。

 正直、気持ちが悪い。

 

 奉仕活動というのは、もっと静かに、謙虚にやるものなのではないか?

 もちろん奉仕そのものを否定はしないのだが、自分からそう言ってくる人間に対しては、どうしても嫌悪感がつきまとう。

 

 俺、奉仕してる!

 えらい俺!

 褒めろ、おまえら!

 

 

 で、商人。

 ただでさえキライな職種が、奉仕してやんよ、感謝しろクソ客が(悪意ある表現)と言っている。

 

 「あんたのために奉仕してやる」という上から目線の言葉を平然と使えるのは、商人の性根が腐っているからだと思う。

 テレビの通販番組などで聞くたびに、正気だろうか、と思う。

 

 売る気あんのか? いや、ない。

 私のようなタイプは、最初から彼らの眼中にないのだ。

 

 私のような少数派には顧客対応しない、というのが彼らの選択だ。

 「奉仕してやるから感謝しろ」と押し付けてくる相手に対して、素直に「ありがとうございます!」と承るタイプの人間だけが、彼らのターゲットとなる。

 

 この手の通販番組が衰えないのは、そういうターゲット層が一定数、確実に存在してくれているおかげだろう。

 社会から弾き出されている私などは、たかが商人ごとき連中からも弾かれている。

 

 弾かれて幸いだと思う。

 私たちの価値観が噛み合うことは、金輪際ないだろう。

 

 

 サービス業は、サービスをするのが当然なのだ。

 当然のことをやっておいて、恩着せがましい態度は控えたまえ。

 

 と思った、ある台風の一日。