日本3大がっかり観光スポットめぐりの旅。

 北海道札幌の時計台、九州長崎のオランダ坂をクリアし、今回、ついに最終目的地となる。

 

 

 雨と強風のなか、家を出る。

 今回の旅の波乱を予感させるようだ。

 

 さっそく、電車が遅れていた。

 世界一、正確なんじゃないのかい、日本の鉄道よ。

 

 私は、電車というものは数分間隔でやってくるものと思っているので、ふつうは時刻表など見ないで駅に行くのだが、空港への乗り入れに特化したアクセス特急という都合のいい電車の場合、昼間は30分間隔でしかやってこない。

 というわけで、最悪30分待つハメにならないように、時刻表に合わせてすこし早めに駅に向かった。

 

 10分前集合だわーい、と自分を褒めたちょうどそのとき、アクセス特急がやってきた。

 事情を説明する駅構内のアナウンスを聞き流しながら、電車に見入る。

 

 おお、京急の赤ダルマ(600形)ではないか。こんなところで会うとは。

 北総線は、京成、京急が乗り入れている標準軌一家の構成員なので、こういうこともよくある。

 

 こうして私は都合よく、20分遅れの1本前の電車に乗ることに成功した。

 車内のアナウンスで、北総線は悪くないんすよ、京急のやつが混雑とか強風とか言いやがりましてね、というような内容を丁寧な言い方で説明していた。

 

 で、絶賛回復運転中だ。

 走り屋京急の車両を駆る以上、北総のウテシも気合を入れてくれるだろう。

 

 と思いきや、120キロの最高運転速度を順守している。設計最高速度の130キロには達していない。

 私のスマホのGPSスピードメーターによれば、最高速度は122キロどまりだった。

 

 ただ回復運転なので、駅通過もほぼ100キロと、なかなか飛ばしよる。

 20分遅れだったダイヤが、成田時点では15分遅れにまで短縮されていた。

 

 そんなこんなで、必要以上に早く着いた。

 時間が余る。

 

 そういうものだ。

 急いでいるときにはのろのろして、どうでもいいときにはテキパキ進む。

 

 搭乗まで1時間以上ある。

 さて、ラウンジにでも行くか、いや、それほどの時間はない、近ければいいけど、遠い、めんどくさい。

 

 というわけで、素直に貧民窟へと向かう。

 貧乏人が使う第3ターミナルは、そもそもラウンジと縁がない。

 

 だいたい、そういうつもりはなかったので、プライオリティパスも持ってきていない。

 なんのために作ったのか意味不明だが、ゴールドカードすら不携帯だった。

 

 現金を入れた財布は外出時に使うが、カードはネットの買い物で汎用する。

 というわけで、財布には入れない。

 

 この癖が、地味にいろんな旅や契約で悪影響をもたらしている。

 まあ、たいしたことではない。今回も、べつにラウンジなんか行きたいわけではないのだ。

 

 

 さて、4月の嵐に見舞われ、飛行機も軒並み遅れていた。

 もっとも飛行機については、5分や10分ごときは遅れたうちに入らない。

 

 以前、1時間近くディレっ(遅れ)た便に乗ったが、上空で飛行機の運ちゃんがハッスルしたらしく、かなりの遅れを取り戻して成田に着いたことがある。

 おかげで私も最終の電車に間に合い、運ちゃんグッジョブ! と思ったわけだが、そのくらい飛行機は、空の上で時間の取り返しがつきやすい。

 

 それに天気は西から変わる。

 たしかに千葉は今日いっぱい雨のようだが、飛行機は雨雲を突っ切って西の晴れ間を目指す予定だから、それほど心配はしていない。

 

 アシアナとかバニラはなんか騒いでいたが、ジェットスターは我関せず。

 さほどの遅れもなく、ほぼ定刻通りに飛んだ。

 

 千葉県人として最後のフライトになるだろう。

 高知(龍馬)空港へ。

 

 

 

 龍馬ってなんだよ、と思いながら地元愛の塊、高知空港にランディング。

 タラップから降り立つ、と書きそうになって、ボーディングブリッジだった、と思い返す。

 

 なんでBB3基もあるんだよ、高知のくせに……などと思っても言わない。

 タラップとバスで移動する、昔ながらの成田(第3)に見習わせてやりたいものだ。

 

 ぶっちゃけ高知は、LCCが就航している空港のなかでは、乗客数はかなりの下位だ。

 同じ四国でも、松山や高松に及ばない。唯一、徳島が下にいるが、私の愛用するジェットスターは就航していない。

 

 

 無駄話が長引き過ぎたようだ。

 空港の話はどうでもいい。話を進めよう。

 

 今回は一泊の計画なので、手ぶらで飛行機に乗った。

 懐中電灯は持ってきた。行動の目的上、ライトは欠かせないのだ。

 

 と、一応の目的があるとはいえ、計画はない。

 行き当たりばったりだ。

 

 私は「旅」に際して、事前にやっておくことといえば、グーグルマップにいくつかスターをつけておく、ということだけだ。

 あとは現地でレンタカーを借りて、気が向くままにスターを拾っていく。

 

 なににも縛られない、まさに「旅」だ。

 で、とりあえず手近なところから、路面電車をたしなんだ。

 

 

 とさでん。

 私は、歌った。

 

 とさでん坊やが未来を運ぶ~電気の世界を駆け巡り~♪

 路電いろいろ阿波のそば、とさでん~♪

 

 とあるCMの替え歌だが、気づいた方は私と話が合うかもしれない。

 〇〇電という全国の電鉄会社で応用可能なので、ご利用されたい。

 

 ちなみに〇〇線の場合は、たとえば土讃線なら、こういう歌もある。

 

 確かめよう見つけよう素敵なサムシング、カモン!

 あなたの近所の讃岐から、土讃線♪

 

 私はいつも脳内で、こういう変なことばかり考えながら旅をするので、とても楽しい。

 (アホやでこいつ)

 

 

 日本一短い駅間距離、清和学園前と一条橋に乗る。

 駅間わずか63メートル。

 

 後方乗車、整理券を取り、ドアが閉じた瞬間、例の赤いボタンを押す。

 そう、自爆スイッチだ。

 

 ……次とまります。

 降車は前方、透明な箱に整理券と120円を入れる。

 

 ああ、この手のやつか、と運転手さんも慣れたものだ。

 1メートルあたり2円の運賃なので、悪くない商売だろう。

 

 こちらも、たった120円で満足したので、お互い幸せだ。

 てくてくと歩いて車に戻り、これぞ一条戻橋(※)だな、はっはっは、と笑う。

 

(※)京都市上京区の、堀川に架けられている一条通の橋。近くにある晴明神社で有名。

 

 昼間の運転にしては、それなりに客数もいたことには驚いた。

 迷惑なやっちゃで、という乗客たちから向けられる視線については、気づかないふりをした。

 

 

 車に戻り、次なる目的地を目指す。

 こちとら1泊しか時間がないのだ。路面完乗など、している暇はない。

 

 電車に比して、やたら立派な道路を走りながら思う。

 それにしてもすごいな、龍馬推し。

 

 道を走ってるだけで、何度も龍馬に会う。

 そういう看板だったり、そういう店名だったり。

 

 気持ちはわかるが、龍馬とアンパンマンはもういいよ……と、私すら思ったのだから、地元民がいちばん思ってるんじゃないかな、と忖度してしまった。

 司馬遼太郎も罪深いことをしたものだよ。

 

 

 そのまま高知市内へ向かい、はりまや橋を堪能する。

 この場所については、いずれ作品に生かす予定だ。

 

 観光客らしいおっさんに、シャッター切ってくれと頼まれたりした。

 しょぼい橋だが、名前だけは有名なのだ。

 

 ちなみに、ここにもアンパンマンがいた。

 ほんと、どこにでもいる……。

 

 

 さらに西を目指そうかと思ったが、太陽の高さを考えて方向を転じる。

 とりあえず南、桂浜を目指す。

 

 マイナーな場所をめぐることを楽しみにしている私としては恥ずかしい限りだが、有名な龍馬像を見てきた。

 いやべつに恥ずかしがることもないが、ポケモンをゲットするくらい、私には不似合いな行為だった。

 

 強風とか高波の影響とやらで、龍王宮は立ち入り禁止になっていた。

 行くつもりはなかったから、それは良い。

 

 ただ、波が高くて迫力あって、かっこいいな、とは思った。

 この先にアメリカがあるじゃきにばってんたいのう、と思う気持ちもわからないこともないかもしれない。

 

 

 すでに夕刻、西の目的地のひとつ、猿田洞は営業時間に間に合いそうもないので、方向を北に転じる。

 目指すは……。

 

 見返り橋。

 麓宝園跡。

 藤宮神社。

 五台山。

 住吉海岸。

 菜園場劇場。

 ホテル皇邸。

 

 マップに星がありすぎて、最短距離を見つけるのに「巡回セールスマン問題か!」と突っ込みそうになったが、べつに最短じゃなくてもいい。

 とりあえず明日の朝、洞窟の開園(8時)に間に合うように、高知の夜をうろつく。

 

 心霊スポット巡りには、ちょうどいい時間帯だ。

 だれもいない道路を、静かに走る。

 

 人がいない。すばらしい。

 私は観光に来ている。人のいない場所に。

 

 孤独を愛する毒男に、霊すらも寄り付かぬ。

 はっはっは。

 

 

 順不同で心霊スポットを巡ったわけだが、いちばんヤバかったのは、見返り橋だ。

 ここは、ちょっと思い出してもゾクっとする。

 

 たぶん、昼間行けば美しい山間の景色を堪能できる場所だと思う。

 豊かな田舎の風景に浸り、ホーホケキョとか鳴いてみるのも、いとをかし。

 

 しかし夜は、別世界だ。

 転がり落ちたら一巻の終わりの崖路、ガードレールもあったりなかったり。

 

 ハイビームの先も、暗闇に溶けて果てしない。

 左右から張り出して傾いた木が、鳥居のような形を作っていた……。

 

 キャー!

 

 内心、悲鳴。耳鳴りがひどくなっていく。

 そういえば北海道でも感じたな、この感覚。

 

 最後の道を曲がって、この地区に入ってから、一台の車も、人間の姿も見ていない。

 平日の夜の田舎とは、こんなものなのか。

 

 地図を見る。カーナビはちゃんと表示されているが、スマホのほうがやばい。

 ……圏外。

 

 まじかよ!

 この国にドコモの電波が入らない場所とかあんの!?

 

 オフラインデータを使えば、目的地が確認できなくなることはないが、それでも「圏外」という表示のほうが恐ろしい。

 たしかに人はいないから、ここが圏外でも人口カバー率には影響しなさそうだが。

 

 やだなー、怖いなー、あれー、妙に変だなー?

 脳内の稲川さん、うるさいですよ。

 

 異常な興奮状態がピークに達したころ、目的地に着いた。

 ストリートビューで見たことのある、見返り橋だ。

 

 橋の上に車を乗り入れ、停止する。

 その前に、ぴったりと閉ざされた鉄格子。

 

 「立入禁止」

 

 半ば安堵し、半ば残念に思う。

 この先こそが本番、と思っていたのだが……。

 

 内心のチキンが叫んでいる、さっさと引き返せと。

 一方、内心の勇者は、よく見ろ、鉄格子の横から入り込めるぞ、なろうぜ、命知らずの勇者に、と唆している。

 

 いやあ、違法行為ですから!

 橋だけ見られれば、まあ満足ですから!

 

 というわけで、橋の周囲だけ写真に撮り、とっとと引き返した。

 興味のある方は、ご自身の責任で行かれるがよろしいぞ……。

 

 

 次回、高知編最終回。