私はあまりテレビを見ない人間だが、気に入った番組だけは見る。

 奇矯な人間がどんな番組を見るか、記録のために残しておこう。

 

 当然のように、その選択はきわめて偏っている。

 一時、ユーザーの気に入りそうな番組を勝手に録画するビデオを使っていたが、とうてい見切れない量の教養ドキュメンタリー系の番組がたまっていた。

 

 ニュース、スポーツは見ない。

 ドラマやアニメも見ない。

 バラエティーも見ないが、落語などの話芸は見る。

 

 要するに普通の人間が好む(視聴率の高い)番組を見ない。

 ゆえに、奇矯な人間なのである。

 

 最近は、ネットで検索して見たほうが早いので、予約録画する番組の数は極端に減っている。

 それでも、アタック25(テレ朝)とかダーウィンが来た(NHK)とか所さんの目がテン(日テレ)とか世界遺産(TBS)とかガイアの夜明け(テレ東)とか、そのあたりの長寿番組は、なんとなく見つづけている。

 

 見た番組は次々に消すのでハードディスクの中身はいつもすっきりしたものだが、いくつかの番組は記念に残してある。

 

 たとえば、アタック25。私の生まれた年に始まった、だれもが知る国民的クイズ番組だ。

 児玉さんの出演する最後の回だけ、記念にハードデイスクに残してあった。

 

 残したはずなのだが、なぜか、さっき見たら消えていた。

 ……まじかよ! ま、いいけど。

 

 同じくテレ東で「話題の医学(臨床科医の皆様へ)」という番組があった。

 日曜の早朝の15分番組で、だれが見るんだこんなもん、という感じだったが、ネットが普及する前は、手術の映像とかちゃんと見られるのはこの番組くらいで、楽しみだった。

 

 いまでもテレビで手術の映像が出ることはあると思うが、ほとんどが患部を見せないか、モザイクがかけられている。

 ちゃんと見せろや、と思わないか?

 

 この「話題の医学」も残念ながら、2016年に終了した。

 確認したところ、こちらの最終回はちゃんと残っていた。ちなみにタイトルは「認知神経科学よりみた心の発達と前頭葉機能」だった。

 

 ありがたいことに現在では、この手の動画は動画サイトでいくらでも見られる。

 「グロ」とかタグをつけるのは勝手だが、私のように純粋に解剖学的興味で見ている人もいるので、誤解のないようにお願いしたい。

 

 

 

 さて、そんな特殊な嗜好の私が好んで見ているのが、「高校講座」だ。

 想像してみよう。40過ぎのおっさんが、わくわくしながら高校講座を見ている。

 

 キモーッ!

 

 ご心配なく。自覚している。

 おっさんが見る番組では、もちろんない。

 

 それを見せる力を持ったEテレ。

 さすがです。

 

 もちろん全教科を見ているわけではない。

 私の脳は偏っているので、見ているのは自然科学の四科目がメインだ。

 

 物理、化学、生物、そして地学。

 

 世界史と地理も見ているが、日本史は見ていない。

 以前は見ていたが、どうしても耐えられないキャスティングがあって、見るのをやめた。

 

 それはともかく、いちばん好きなのは、やはり地学だ。

 関口隊長とのやりとりも、改編を乗り切るたびに何度も見ているが、それなりに味がある。

 

 昔、日テレでやっていた近未来番組を思い出すのは、私が年寄りだからだろう。

 特命リサーチ200Xだったか。関口隊長も年を取ったものだ。

 

 化学は、だいぶ前にケミカルシスターズというやつがいたのだが、あれはちょっと好きだった。

 番組スタート時の、やる気のない「はーい」が、たまらなかった。

 

 物理で、印象深いのは、物理家のお母さんの途中降板だろう。

 この件については掘り下げないが。

 

 生物には、あまり思い出がない。

 八田さんもサカナくんも、べつにきらいではないのだが。

 

 ともかく、この四科目はガチで見る。

 自然科学は、ほんとうにおもしろい。

 

 とくに地学。

 関口隊長とも長い付き合いだったが、これが今回の改編で刷新される。

 

 4月10日スタート!

 とても楽しみだ。

 

 地学は、宇宙も気象も地形も、地質年代から恐竜まで、おもしろいところを全部カバーしている。

 こんな楽しい科目、ほかにないと思う。

 

 

 いつからこんな感じか、考えてみる。

 高校を卒業して10年以上、たぶん30前後から高校講座を見始めた。

 

 いまさら大検とか、そういうつもりはなく、たまたま見かけて「おもしろい」と思ったのだ。

 こんな思い出がある。

 

 当時、私は大阪に暮らしていたのだが、セフレと平日の真昼間、フリータイムを楽しんでいた。

 で、ひとしきり運動を終えた昼過ぎ、テレビを見ていた私を、背後から呆れたように眺める彼女の姿があった。

 

「なに見てんの?」

「地学だよ。めっちゃ楽しいぞ、地学」

「…………」

 

 まさかEテレも、30過ぎのおっさんがラブホで高校講座を見ているとは思うまい。

 彼女の呆れたような視線が忘れられない……。

 

 

 ともかく、知的好奇心を満足させてくれる番組は、テレビだろうが動画だろうが、楽しく拝見することにしている。

 どんな科目に興味があるかと考えれば、もっぱら理科と社会だ。

 

 国語、数学、英語。

 主要三科目に対する、この興味のなさよ。大学に行けなくて当然だ。

 

 とはいえ数学は、きらいではない。

 あらゆる学問で、数学的思考は非常に重要だ。

 

 最近、毎日、寝ながら受験生用の番組を見ている。

 現役はいいな、強制的にこんな番組が見れて。

 

 で、数学も、それなりに見る。

 計算とか公式よりも、考え方を重視した見方だ。

 

 集合や行列、ベクトル、微積(の初歩)くらいなら、まだわかる。

 だが各分野、応用が進んでくると、無理。

 

 もはや問題の意味すら「なるほどわからん」となる。

 純粋数学、ちょっと別世界すぎるぞ。

 

 

 そもそも難問に取り組む以前に、教科によっては初歩すら知らない自分に気づく。

 中学高校時代、こんなことを教わっていただろうか? まったく思い出せない。

 

 年を取った方々も、中学高校の受験生を対象にした番組をいくつか、ご覧になってみるとよろしい。

 世の中、知らないことだらけだ。

 

 これらをまんべんなく知っている人が、社会の上層部にいると仮定すれば、そんなに悪くない社会のような気もするが、もちろん彼らは試験が終わったら全部忘れているだろう。

 そもそも生活するうえでは、たいして必要のない知識だ。

 

 受験生でもないのに、なんの役に立つかと問われれば、知的好奇心が満足する、としか答えられない。

 むしろ、この年で高校講座を見ている時点で、明らかに奇矯な人間だろう。

 

 もちろん、なんの考えもなく見ているわけではない。

 現役の気持ちを理解することは、高校生を主人公にした作品に生かせる、という思惑は一応ある。

 

 毎年のように見つづけ蓄積することで、知識の総量は現役時代とは比べ物にならない。

 それをかき混ぜて新しい発想を導き出してやる、という野望も捨てたわけではない。

 

 だが根っこの部分で、まっとうな「大人」になれていない。

 子孫を残すという生物の義務を果たしていない時点で、かなり低評価だろう。

 

 結論に戻ってきた。

 私は奇矯な人間なのだ。

 

 

 かといって、学究肌の研究者というわけでもない。

 どこかで道を間違わなければ、いまごろJAXAや理研でそこそこ出世していたような気がしないでもないが、結局、アカデミーの仲間には入れてもらえなかった。

 

 頭の良さを学歴で判断する人にとっては、私はそうとう頭が悪い部類だと思う。

 まあ、そんな人からどう思われても、どうでもいいが。

 

 私は愚か者かもしれない。だが、「お勉強」がきらいだったわけではない。

 結論から言えば、「先生」がきらいだった。

 

 当時の成績を思い返すと、よくわかる。

 あまりにも偏っていたのだ。

 

 

 中学校。気に入った英語の先生がいた。テストはいつも満点近かった。

 彼女が産休に入った。突然、成績が下がった。

 

 高校。代数幾何の先生は気に入っていた。成績はかなり良かった。

 基礎解析の先生には、ブチ切れていた。出席日数はぎりぎりを保ち、中間で60点をとったら期末はバックレた。それで平均30点、赤点は免れる。必要以上にその教師と顔を合わせなくて済む。

 

 ことほど左様に、好き嫌いが激しかったので、当然、まともな成績表ではない。

 で、大学も出ていないわけだが、大事なことなのでもう一度言う。

 

 きらいだったのは「教師」であって、「お勉強」ではない。

 

 私の脳は偏っているので、興味のない方向については、まったく食指が動かない。

 が、興味のある事柄に対しては、いくらでも楽しくお勉強できる。

 

 

 たまに、見かけると思う。

 この手の「厄介な」子どもを。

 

 もし身近にそういうお子さんがいたら、うまくコントロールしてあげて欲しい。

 正しい方向に転がしてやれれば、意外な結果を出すかもしれない。

 

 そして願わくは、私のような「失敗作」にはならないように。

 日本の未来、お頼み申しますぞ。