そんな言葉はないが、群馬の田舎に引きこもる前に、千葉でできる(やりやすい)ことを、いくつかやっておこうと思い立った。

 成田が近いことを利用した飛行機の旅は、まとめてぶちこんでいる。

 

 北海道四国九州、まだ行ってない空港がいくつかある。

 来月は四国の龍馬空港へ飛ぶ予定だ。

 日本一短い区間、路面電車、楽しもう。

 

 その間隙を縫うように、東京圏も埋めておきたい。

 

 私が住んでいるのは、いわゆる東葛地域なので、東京へは、がんばれば泳いでも行ける。

 もちろん私はがんばらないタイプなので、駅までは徒歩で行く。

 

 いつもはそうなのだが、今回はすこしだけがんばることにした。

 そうだ、本八幡までチャリで行こう。

 

 イエス、アイキャン!

 きょうは狭軌に乗らない!

 

 

 私は市川市民ではないが、市境まで歩いて5分のところに住んでいる。

 

 本八幡くらいまでなら、がんばればチャリでも行ける。

 いや電動だし、あまりがんばってはいないか。

 

 で、まったりとチャリを漕ぎ、本八幡へ向かう。

 市営の地下駐輪場に100円を払って、馬車の日開始だ。

 

 東京はJRに浸食されているので、狭軌が多い。

 そんななか、我が道を行く標準軌の京成、京急、浅草線には敬意を表する。

 

 同様に狭軌と互換性がなく、とても中途半端な印象の馬車軌道。

 軌間1372ミリ。

 

 今回の目的地のひとつ、京王電鉄。

 路線記号KO……まんまやな。

 

 新5000系。2017年グッドデザイン賞。

 京王で初の座席指定列車として話題になった。

 

 日中は新宿線への直通運用が多いとか。

 ぜひ乗ってやりたい。

 

 

 私は引きこもりなので、なるべく家から出たくない。

 出るとしたら、目的がいくつか重なることが望ましい。

 

 たとえば手紙を出す、食料品を買う、ごみを出す、という三つの目的が重なって、はじめて玄関を出る、という感じだ。

 

 今回は、じつは仙川にちょっとした用事がある、というのが大きなきっかけだった。

 仙川は東京の西のほうだが、京王の駅がある。

 

 京王といえば、馬車軌道だ。

 都営新宿線とも直通している。

 

 チャンスだ。

 

 

 というわけで、とりあえず仙川へ向かった。

 午前中に用事を済ませ、午後から馬車の日、再開。

 

 下高井戸まで戻り、東急世田谷線、軌間1372ミリ。

 三軒茶屋までの5キロ、10駅をたしなむ。

 

 先頭車両、運転席の後ろに立って前方を見つめた。

 指差喚呼しそうになったが、そこまでするとヤバイので耐えた。

 

 ほどなく三軒茶屋に到着。

 田園都市線の駅まではやや遠いが、そこには現実的理由があるので許す。

 

 

 ここからは徒歩だ。

 いくつか見たいところがある。

 

 大きな声では言えないが、防衛省防衛装備庁電子装備研究所をスパイする、という目的もあった。

 小さな声で言うと、私はものを書いているので、取材だ。

 

 光学迷彩で身を隠し、潜入する。

 国家機密のテクノロジーを盗み出すぜ!

 

 と、アホな想像を巡らせつつ、世田谷公園の横を歩く。

 SLを発見したので、思わず写真を撮った。

 

 そのまま蛇崩川緑道へ。

 いま書いている話では、防衛省をめぐって地上と地下からスパイ大作戦な展開になる予定だ。

 

 グーグルストリートだけでも書けるといえば書けるのだが、やはりこの目で見るのは大事だと思う。

 世田谷公園でスケボーをしている若者たちの雰囲気も、直接見るとよく伝わってくる。

 

 で、中目黒まで歩く。

 ここからは東京メトロで江戸川橋へ。

 

 

 狭軌には乗らないんじゃなかったの!?

 いやその……メトロは地下だから……地下鉄はOKってことで。

 

 護国寺まで行ってもよかったが、講談社に近寄りたくなかったので手前で降りた。

 

 ここで見たいのは東京カテドラル。

 物語に出てくる、ある組織の拠点となっている。

 

 とはいえ、かなり架空要素を入れるので、じっさい見る必要はないと言えばない。

 正直、近くに早稲田がなければ、来なかった。

 

 せっかくなので音羽の雰囲気をたしなみつつ、いくつかの場所を取材する。

 もちろん目的地は早稲田停留場だ。

 

 

 これが都電荒川線だよ、おっかさん。

 三ノ輪橋停留場まで、30駅、12.2キロ、軌間1372ミリをたしなむ。

 

 途中、荒川車庫前には都電おもいで広場がある。

 寄りたいところだが平日は開いていない。遠くから眺めて楽しむ。

 

 ちなみに関係ない話だが、東京エリアでは、早稲田と浅草には不満がある。

 同じ駅名なのに離すんじゃないよ、と。

 

 乗換駅と呼べないほど遠いのに、同じ駅名。

 利用者の利便性を、なんだと思っているのか。

 

 離れているのわかってて、同じ名前つけたやつ、ほんといや。

 まあ都電は駅じゃなく停留場だが……。

 

 

 さて、三ノ輪橋だ。

 ここは見るべき場所が多い。

 

 死者の積もりし巷、千住。

 私は個人的に「ベルゼブブの国」と呼んでいる。

 

 山谷(ドヤ街)、吉原(遊郭)、小塚っ原(刑場)……。

 吉原神社、大門、見返り柳、泪橋、首切り地蔵、そして隅田川駅へ。

 

 くりかえすが、グーグルストリートでもいいっちゃいい。

 しかし、見るんじゃない、感じるんだ、と昔の強い人も言っている。

 

 

 吉原にお参りをする。

 遊女の方々に思いを馳せる。南無八幡大菩薩。

 

 順次、各地で「感じた」ことについては、作品に反映したい。

 で、作品には比較的どうでもいい(笑)貨物駅が、じつに楽しい。

 

 さすが東京の二大貨物駅。

 中に入って見たいところだが、きょうは貨物フェスティバルじゃない。

 

 静かに眺めていると、カメラを構えている怪しげなおっさんを発見した。

 まあ、私もじゅうぶん怪しげなおっさんなので、仲間だと思われないうちに退散した。

 

 

 東京は、取材したい場所だらけだ。

 個人的には東京復活大聖堂を見たかった。

 

 東京復活……。

 

 ほんとは浅草や月島にもめぐってみたい場所があったのだが、夕方になってしまった。

 とりあえず馬車軌道は堪能したことだし、帰るとしよう。

 

 帰りも、もちろん狭軌なんか乗らない。

 そのために本八幡までチャリを漕いだのだから。

 

 帰着駅、京成八幡。

 京成線の軌間1435ミリは、ほんとうに安定感があって好きだ。

 

 こんどは標準軌の日を設けて、新京成からスタートするのもいいな!

 

 

 

 で、一日の総移動距離、150キロくらい。

 料金、2000円くらい。

 

 安い!

 

 とは思うが、電車の移動に限界も感じた。

 地方から東京にやってきた人々のよく言うところだが、とくに群馬からくると、よくわかるべ。

 

 まあ歩く、歩かされる。

 

 たしかに地方に較べれば、駅は近くにあるっちゃある。

 だが、電車以外の移動をすべて徒歩で、と考えたら大変だ。

 

 乗り換えだけでも、かなり歩く。

 新宿など、どこまでが駅かわからんくらい、広い。

 

 一方、田舎だと、どんなに近い場所に行くにも車に乗るので、ドア・トゥ・ドアだ。

 最低限しか歩かない。

 

 エコじゃない、という理由で田舎のように車を使わないことに意味があるとすれば、タクシーを使っては本末転倒だ。

 私もできるだけ徒歩で移動したが、ちょいちょい思った。

 

 東京、歩かせすぎだろ。

 これが電車というものの限界か。

 

 構造上、人は駅に集まらなければならない。

 面的かつ効率的に、駅を配置するにも、限度がある。

 

 とすれば、技術的にどのような「次の段階」がありうるか、私ごときの脳みそでも想像するにあまりある。

 

 自動運転レベル4公共タクシー。

 そういう時代が、必ずやってくる。

 

 悲しいけど、これ現実なのよね。

 電車の役割は、いずれ近いうちに終わるだろう……。

 

 

 そんな悲しい結論だが、まあ、私の生きているうちは大丈夫だ。

 死んでから世界が滅びるなら勝手にしろ、とどこかの偉い王様も言っていた。

 

 つまり、生きているうちに楽しもう、ということだな。