いつものように、夜間に移動する。
観光先で、現地のおいしいものを食べないスタイルなので、食事は途中スーパーで。
セコマ以来、現地特有のお店に興味がある。
今回はイオンとかマックスバリュというつまらない選択肢が多かったが、エレナという初見のスーパーマーケットに心惹かれ、何度か買い物した。
たかた社長が、なぜか店内放送で長崎県警の広報をしていた……。
さて、まだ暗いうちに長崎市内へと入り、最初に稲佐山の展望台を目指すなかで、トラブル発生だ。
結論から言えば、勘弁してくれよグーグルドライブ、という話。
まず午前5時過ぎには平和公園あたりに着いていて、そこから稲佐山までは30分もかからない。
コンビニで朝食を買いがてら、ルート検索する。
そこで、細い道へと誘導される。
そもそも住宅街自体が、山の斜面に張り付いているように、密集して建てられている。その隙間を縫うように、車がぎりぎり入れるような細い道が入り組んでいる。
入り組んでいないルートをたどろうと思えばたどれるはずなのだが、グーグル先生は、子どものように「最短経路」を探求したらしい。
素直に従った私は、すぐに「行き止まり」に気づいた。
2次元的に見れば道がつながっているようにも見えるのだが、3次元的に、私の進んでいる道と、先生の指示する道とのあいだには、数メートルの距離がある。
それも横方向ではなく、縦方向に。
まさに「越えられない壁」だ。
なぜグーグルが、当初この道へ誘導したのかはわからない。
再検索すると、みごとに引き返す道を指示された。
私は、かろうじてUターンするスペースを探し、頼むぜグーグル、とぶつぶつ言いながらも、もう一度だけ信じることにする。
新たに提示された道の突き当たりには、学校があった。
校門にはチェーンが張られ、すくなくともこの時間は、通り抜けはできないと思われる。そもそも通り抜けたらダメだろ……。
私は静かにルート検索を終了し、バックで道を引き返した。
もうグーグルは信じない。
1時間以上かかって、稲佐山山頂展望台にようやく到着する。
そろそろ午前7時という時刻、まだ暗い。
日本の標準時は明石だが、千葉と長崎のあいだには、30分以上の時差があることを実感した。
7時すぎて暗いことなど、関東に住んでいると、あまり実感できない。
ともかく、7時前に山頂にいたことで、夜景と日の出の景観美を、同時に堪能することができた。
もちろん、展望台にはだれもいない。
こうして無人を楽しむ時間は、残念ながら終了だ。
7時を過ぎると、道路にも車が増え始める。
次に目指したのは、オランダ坂。
ダッチスロープのたもとの駐車場は、軽専用の3個だけが空いていた。
細い山道を行き来したときにも思ったが、今回はほんとうに軽を借りて良かった。
周囲には女子大や共学高校、中学などもあり、多くの若者たちが登校していくスロープを、40過ぎのおっさんが混じって登る。
たしかに情緒はあるが、ほんとにただの坂だな……。
次に向かったのは、鍋冠山公園。
稲佐山の対岸から、長崎を見下ろすことのできる、夜景スポットとしても有名なところだが、私としては心霊スポットの側面を求めて行った。
公衆トイレで暴行事件があったとか、展望台の道にお地蔵さんが並んでいて、薄く透けた人がいたり、声が聞こえるとか……。
とはいえ、昼間に心霊もクソもないので、単に見晴らしのいい高台の公園でひとやすみ、といった趣だった。
先に、夜のうちに訪ねておくべきだったと反省しつつ、次の目的地。
グラバー園。
人のいない場所を目指して観光する男としては、内心忸怩たるものがあるのだが、今回は行かせてもらうことにした。
ただ行くのも癪なので、安い駐車場を探した。
グラバー園の名を冠する直近の駐車場は、1時間500円。
高すぎて怪しい、という声もあるらしい。
なにしろグラバー園の入園料が、610円なのだ。
そこで発見したのが、100メートルほど離れたところにある、松が枝ターミナル駐車場。
なんと30分50円という激安価格だ。
客船の入港するタイミングなどでは使用できないこともあるので、注意が必要らしいのだが、それにしても安すぎる。
いや、グラバー園のほうが高すぎるのか……。
そんなに長時間、とめるつもりもないのだが、とりあえず安心して観光地を楽しむことにする。
ともかく外人ばかりだった。
受付のおばちゃんから、そもそも外人だ。
「イラシャイマセー」
たぶん中国人観光客用のスタッフだろう。
まさに永遠の出島、長崎。
金曜の午前なので、だいぶすいていた。
団体さんは、だいたい中国人。
ゆっくりと、建物を見学する。
かつての住人が、どんなふうに生活していたか、考えながら、感じる。
ほんの150年前だ。
ここで、いくつもの「歴史」が刻まれた──。
驚いたのは、園内に民家があったこと。
もとからあったとはいえ、安田さんも大変ですな。
帰りがけ、さりげなく通過させられる伝統芸能館というところで、ひさしぶりに日本人らしい女を見かけた。
女の一人旅というやつだろうか。
階段を降りると、薄暗いホールに山車が並んでいて、その奥で祭りの映像などが流されていた。
すこし疲れたので、なんとなく眺めながら、前列端の椅子に座った。
ふと、横に気配を感じた。
2人掛けのベンチが横に3つ並んでいて、さっきの女が真ん中のベンチに座ったのだった。
そちらを見ると、目が合った。
私は軽く会釈して、立ち上がった。
もちろん彼女は、ただ真ん中のベンチで映像を見たかっただけに違いない。
そのままグラバー園を出て、4車線の国道を渡って駐車場を目指した。
信号が点滅し始めたところを、小走りで渡りだした私を追いかけるように、黒いコートのアジア系のねーちゃんがついてきた。
渡り切ったところで、呼び止められた。
「Excuse me, Where is the Glover Garden?」
ちょうどグラバー園から離れているところだ。
私は冷たい目で背後を振り返り、
「Go back」
言い放った。
「Oh…」
ねーちゃんは苦笑いで嘆息しつつ、なんて冷たい日本人だろう、と思ったに違いない。
わざわざ追いかけてまで訊いてくれたのに、失礼しましたな。
ま、ゴーホームと言わなかっただけマシということで……。
さて、本番はここからだ。