富岳三十六景・神奈川沖浪裏
「あの波は爪だ」
名声を確立した葛飾北斎が、70歳を過ぎてなお独創的表現に挑戦し、代表作を創造したことに、彼の気質が顕れる
11月登山会で登る嵯峨富士(遍照寺山)
この作品からわずか後、自然の根本をいくらか悟り得たので、百十歳になればすべてが生きているように描けるだろうという趣旨を述べている
歴史的風土特別保存地区(広沢池に影を映す)
作品への自信と、制作することに自身の存在をかける、画家としての矜持であろう。自ら画狂老人と名乗った事には、そうした自分を冷静に見つめる批判的な意識がある
京都の守護山「愛宕山」
さて、富嶽、富士山である。古代から崇敬された霊峰は、江戸時代に富士講という結社が作られるなど信仰を拡大した
中世、京都では月参りが行われた
こうした町民の生活感情が、制作の背景にあることは間違いない。北斎の独創の一つは連作という形式を選択したことで、関東から東海まで、各地から望む多様な富士山が姿を見せる
甲斐駒ヶ岳2967m
もう一つは、土地の風俗と組み合わせて、風景画に物語的な広がりを生む工夫である
高尾山の紅葉
連作をすべて見て北斎の創意の全貌は理解できるが、彼の才気は個々の作品の随所に表れる
京都市左京区鎌倉の黄葉
中でも大胆な画面構成と、自然を正確に観察し基本要素に切り詰める造形から、「神奈川沖浪裏」は屈指の出来映えである
白馬岳2932m
神奈川は東海道の宿場で、その沖で巨大な波に翻弄される、荷を運ぶ3艘の船が描かれる。遠くには富士山が悠然とそびえている
錦秋の洛北
船に襲い掛かる波を、ゴッホは「あの波は爪だ。船がその爪に捕まれている」と、弟テオに書き送った。勘所を的確に言い表している
雲海に浮かぶ赤富士
富士山がもう一方の主役であることは忘れてはなるまい。人間の営みを見守る、いわば守護神としての表現であり、それは連作全体に通じる構想でもある
京のたしなみ
自然と人間を、対立ではなく共存と捉える日本の自然観の造形なのである。現代音楽の扉を開いたドビュッシーは、北斎からの霊感を受けて、海をテーマにした「海」を作曲したと言われてきた。部屋には北斎の浮世絵が掛けられていたことが分かっている
第117回山耀会の打ち合わせを行いました
青文字は、聖教新聞「語りかける絵画」<美術史家・大野芳材>より











