★「成年後見」という制度、普通の家族が使ってはいけない! | ジャーナリスト 石川秀樹

ジャーナリスト 石川秀樹

ちょっと辛口、時どきホロリ……。理性と感情満載、世の常識をうのみにせず、これはと思えばズバッと持論で直球勝負。
3本のブログとFacebook、ツイッターを駆使して情報発信するジャーナリスト。
相続に強い行政書士、「ミーツ出版」社長としても活動中。


<★使ってはいけない!「成年後見」。認知症対策の切り札にはならない>
http://yuigonsouzoku.net/how-to-use-an-adult-guardian/


成年後見人の制度は、世間であまり知られていません。
ふつうの人が知らないのは仕方のないことです。
しかし、
「成年後見人」というのは、意思能力・判断能力が欠けた人のために”本人”を代理してくれるという制度です。
今日のように「超高齢社会だ」「認知症1000万人時代だ」と言われる環境下では、なくてはならない制度。


考えて見て下さい。
意思能力がない、判断能力が失われているという状態を。
あなたは不安ではありませんか?
まず、あなた自身の身の上が心配になるはずです。
そして買い物は? お金の管理は?
これも心配になりますよね。
だからこそ「成年後見」という制度があって、意思能力・判断能力を失くした人の身上監護と財産管理をやってくれます。


どちらにしろ、成年後見人は「本人を守るため」にいます。
ところが実際にはおかしな使われ方がしているんですよ、この制度。
下に出ているグラフは最高裁判所がまとめた「成年後見開始の審判を申し立てた理由」を並べたものです。
ダントツ1位は「預貯金の管理・解約」です。
要するに「本人の通帳のお金をなんとかしたい」ということ。


「保険金の受取」というのもあります。
「不動産の処分」「相続手続き」という理由も。
みんな財産を何とかしたい、そして一時的なニーズであり、必ずしも「本人を守るため」でもありません。
この統計は毎年、こんな感じの理由ばかりです。




奇妙だと思いませんか?
「本人を守る」というのが制度創設(2000年4月からスタートした比較的新しい制度です)の目的が、本人以外の家族の一次的な便宜のために使われているのです。
注意深くこの統計を見なければなりません。
法定後見制度をこのように使うのは「悪い家族だから」ですか?


そういう人が中に入るかもしれませんが、多くは「人から指摘されたからやむなく」なのだと思います。
誰が「成年後見人を使え」というのでしょうか。
最も多いのは金融機関の窓口でしょう。
「(通帳の持ち主である)本人の意思能力がないなら、通帳や印鑑があってもお金は引き出せません。成年後見人を付けてください」


もし成年後見制度が窓口の人が想像しているように「一時的に本人の代わりをして手続きをしてくれる便利な代理人」なら、この助言は的を射ています。
しかし、ぜんぜん違うんですよ、成年後見人というのは!


成年後見人が引き出したお金は、本人にも、家族にも渡りません。
ではお金はどこに行くのか?
「本人を守るため」の目的のために使われるのです。
例えばそれが「介護施設に入居するため」なら、介護施設の口座に振り込まれるのです。


それだけではありません。
いったん成年後見の事務が始まれば、本人は「制限行為能力者」ですから、本人の財産は後見人が管理することになります。
預貯金の通帳も、実印も銀行印も、年金手帳も家の権利証も、大切な財産は後見人が預かり、家族は以降、触れることもなりません。
後見事務は1円の単位まで明らかにする明瞭なもので、日常に本人が使う生活費以外の「お金がかかること」の金銭の出し入れはすべて家庭裁判所と相談して、その許可を得なければなりません。


本人は意思能力がないのですから、そこまで厳重な管理をして当然です。
簡単にポイントだけ説明しましたが、かなり重々しい制度であることがおわかりいただけたと思います。
それなのに現実的に「後見開始を申し立てる理由」のダントツ1位が「預貯金の管理・解約」だとは・・・・・。
コレ、銀行が引き出させてくれないからやむなく、ですよね。


本人の預貯金を(家族が)おろしたいのは、本人のために使いたいから、例えば療養の費用に充てたいなど”正当な事由”が多いかと思います。一方、”悪い家族”が引き出す場合は(本人ではなく)下ろす人が自分のために使いたいのかもしれません。その場合は「流用」であり、犯罪です。
引き出す意図はいろいろ、その真偽も確認することは難しいでしょう。


ではだからと言って、現にそこにある本人のお金を引き出すためだけの理由で「成年後見人」を付けなければならないのですか?
金融機関のその対応はどうなのでしょう。
「悪用を防ぐのだ」という意図はわかります。
しかし成年後見人を付ける(本人を制限行為能力者の立場にする)ということは本人にとっても、家族にとっても非常に重要な意味があること。
そこまで知って「成年後見人を付けてください」と言っているのですか?


本来、通帳から金銭を引き出す行為というのは、本人の自由です。
銀行の許諾を求めなければならない事由ではありません。
しかし本人に意思能力がなくなってしまうと・・・・・。
この場合に「代理」を務められるのは確かに成年後見人だけです。


しかしこうも考えられるはずです。
お金をおろしにきているのは「使者」である。
あるいは「事務管理者」である。
本人が生活を営む上でお金は欠かせない。
そのお金を本人は引き出すことができない。
だから善意の管理者がその行為を代行する。


その行為を認めるか否かは金融機関の判断です。
ひとつひとつ事情を聴いて、目的と使者の身分を確認し、信用するか否かを決めるのは金融機関の判断力の問題です。
金融機関にとってはやっかいな”お客様”でしょう。
しかし窓口で法定後見制度に誘導する行為は、客の立場から言えば、自分は判断せず「判断するという責任」を制度に丸投げしているのと同じだ、ともいえるのです。


簡単に「成年後見人」を持ち出さないでいただきたい。