★「1票の格差訴訟」司法の英断、それでも地方は救われない | ジャーナリスト 石川秀樹

ジャーナリスト 石川秀樹

ちょっと辛口、時どきホロリ……。理性と感情満載、世の常識をうのみにせず、これはと思えばズバッと持論で直球勝負。
3本のブログとFacebook、ツイッターを駆使して情報発信するジャーナリスト。
相続に強い行政書士、「ミーツ出版」社長としても活動中。



ファミレスで事業の打ち合わせをしている時に、携帯電話が鳴った。
岡山の山陽新聞の記者からだった。
「きょうの判決についてのご意見はどうですか?」ということだった。


僕は「正直いって、驚いた」と答えた。
広島高裁岡山支部は「1票の格差訴訟」(鳥取と岡山で3.27倍の差)で、先日行われた参院選の岡山選挙区の結果について「違憲であり選挙無効」の判決を出したのだ。


『目の前の選挙を無効とは……、よく判断したな』という思いと、
1票の価値をただ人の員数に置き換えるという、地方に住んでいる者としては合点がいかない“平等感”が、『ここまで浸透したのか』という驚きである。

ジャーナリスト 石川秀樹


1票の格差はずいぶん前から弁護士グループが提訴してきた。
はじめのうちは門前払い、
そのうち「1対いくつ」という倍率が問題とされるようになり、
最近は「1対1」にするのが当たり前で、そこに近づけるのが国会の義務、
都道府県の境界が障害要因なら区割りを変えててでも、という空気になって来た。


『裁判官を含み、よく国民を刷り込んだものだ』と感心する。
例えば09年の区割りのまま行われた昨年12月の衆院選は、今年3月の高裁判決で16件中14件までが「違憲」、うち2件は「選挙無効」という様変わりぶりである。


そして今回。
直前に(今月20日)最高裁大法廷は、同衆院選について高裁が積み上げてきた判決を大幅に後退させた。
にもかかわらず、広島高裁岡山支部はひるまなかったわけだ。
メディアは大方、ほめそやすと思う。


“勇気ある判決”であることは認める。
その上で、こうした流れ、「1票の格差はあってはならない」と国民にいきわたっている空気について、違和感を抱いていることを申し述べたい。


1票の重み、価値とは、ただ単に「員数の平等」のみで測るべきだろうか。
地域性の観点をまったく度外視していいものだろうか。
格差が生じた原因は何か。
戦後続く人口増の中で、地方から大都市への顕著な大移動があったことが主因であろう。


「1票の格差訴訟」はその是正を、員数の平等に当てはめただけのものである。
東京一極集中、地方空洞化・過疎化の現象のことは一顧だにしない。
政治・行政の不作為と、経済原理と、社会心理によって生まれた「人口移動」について何の疑問を呈することもなく、「票の価値に差が出てきた。人口割りで分配し直せ」という。
それが成れば「格差は是正された」と思い込む。
多様な問題を含んだイシューを、実に単純に割り切ってくれるではないか。


この発想を突き詰めれば、人口割りで全国を北から南まで242に割って1議席ずつ割り当てればよい。
全国を1つにして一斉投票で242位までを当選、でもいい。
もしくは議席すべてを「比例選出」にしたらいい。
それで日本が良くなるか、各地域が活性化するか、社会実験をやってほしいくらいのものだ。


気が利く人なら、「都道府県制をやめて道州制に」と言い出すだろう。
でも、そんなに気楽なことか?
自治体が合併すれば、中心都市は膨らみ、過疎地はいっそう過疎に。
すでに立証済みではないか。


「停滞する、発展に乗り遅れている地域にこそ政治の力が必要だ」と、言ってなぜ悪いのだろう。
「国全体のことを考える国会議員は、地方を厚めにしてやってよ」と言いたくなる。
それも知恵の1つではないか。


地域を1つの法人、あるいは組織と考えれば東京も地方の1つであり、「日本列島」という舞台で“成功(繁栄)”を競い合っていると言える。
東京はひところの「ジャイアンツ」みたいなものだ。
常勝で、人・モノ・カネ・文化芸術学術、政経のすべてが東京へ東京へと集まっている。
その東京に比べれば、大阪のタイガースさえ斜陽に見える。
これではゲームの醍醐味が失われる。


というわけで、プロ野球業界は新人選手の「職業選択の自由」という憲法に保障された基本的人権を踏みにじってまで、業界全体の繁栄のためにドラフト制度を導入した。
ウェーバー方式で、弱いチーム順に有望新人を選べるようにした。
それでパ・リーグは息を吹き返した。
これは「工夫」である。


今回訴訟は「岡山対鳥取」だった。
「東京問題とは関係ない]といわれそうだが、間違いなく人口移動問題の1局面である。
「員数の平等」は今後もいわれ続け、やがて最高裁も旗を降ろすだろう。
しかし、それで何も解決してはいないことを強調しておきたい。


さらに言えば、員数合わせが平等であろうが不平等であろうが、大都市のみが太り地方が(相対的に)枯れていく図式は、何も変わらない。
この問題に関心を持って、真摯に「なんとかしたい」と考える政治家、行政マンが一定の数を占めるようにならなければ、日本のいびつは治らないのだ。


司法の英断に茶々を入れるようで申し訳なかったが、地方人としては「1票の格差是正のその先まで考えてほしい」と、切にお願いしたい。




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【筆者から】
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主にFacebookページ「ジャーナリスト 石川秀樹」に投稿しています。
ミーツ出版(株)という小さな出版社の社長をしています。61歳で行政書士の資格を取り開業しました。さらにこの数年は「ソーシャルメディアを愛する者」としてFacebookで熱く語り続けています。ブログは私の発言のごく一部です。ぜひFacebookページもご覧ください。コメントをいただけたら、こんなにうれしいことはありません。


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