★メディアの情報操作とは言わないまでも…… ちょっとピンぼけ、ご用心! | ジャーナリスト 石川秀樹

ジャーナリスト 石川秀樹

ちょっと辛口、時どきホロリ……。理性と感情満載、世の常識をうのみにせず、これはと思えばズバッと持論で直球勝負。
3本のブログとFacebook、ツイッターを駆使して情報発信するジャーナリスト。
相続に強い行政書士、「ミーツ出版」社長としても活動中。



言葉は“魔物”だなぁと思う。
けさの日経新聞1面のトップ見出し
『「尖閣前に戻らず」3割』
日本企業の中国での売上高が、回答企業の3割で尖閣諸島をめぐる日中対立以前の水準に戻らない、というのである。
反日気運、今なお―といいたいのだろうか。


調査は約150社。
もう少し詳細に読むと、
直近の売上高、4割が「問題発生前まで回復」
2割弱が「問題発生前を上回る」とある。
ならば見出しはこのようにも書き換えられる。


『6割「尖閣前水準かそれ以上」に』


これだと「反日気運」はどこか遠くの印象になる。
23日の日経新聞が意図的に見出しを付けたとは思わない。
調査1つでも、切り出すポイントの選び方でニュアンスはいくらでも変わる、ということである。


別の例を出して説明しようか。
例えば各国首脳が集まるサミットの報道――
日本の新聞では、G20の首脳がひな壇にズラッと並び談笑している姿が1面トップを飾る。
これが定番、日本人はなんの違和感ももたない。
サミットの外側で環境NGOなどの過激なデモが行われていたとしても。
アメリカの新聞などは「ひな壇写真」は中面に追い出し、もしくはまったく使わず、
「デモで騒然」の写真を好んで1面に使う。
このニュースで何が大事かの判断が、日米マスメディアで、かくまで違うのだ。
日本の新聞は、デモ自体に触れない社が多い。


どちらがジャーナリズムとして正しいのか、とは問わない。
記者の資質も新聞社の体質も、それをつくりだしてきた事情も日米で違うのだから。
ただ、同じ事件や事象を扱っても見方はかように違ってくる、ということだけはわかっていた方がいい。
個メディアならともかく、マスメディアの報道はそれによって世間の空気そのものが造られていくから、うんと用心が必要だ。


この夏の猛暑はイカレている(と思うほどだ)。
例年の夏より平均で2℃~4℃も高いそうだ。
電力需要もさぞ上がったことだろう。
でも、電力が足りない、の声は聞かない。
原発が2機稼働しているから、あとは(世論など)どうにでもなると思っているのかもしれない。


それよりマスメディアは「尖閣」話の方がお好きらしい。
あおればいくらでも世論を沸騰させることができる。
いや、今の新聞やテレビが意図的な報道をしているわけではないだろう。
でも、サミットのデモと同じだ。
報道しなければ国民に何のさざ波も起きない。
事細かに報じていけば自然、国民の中に「中国、何するものぞ」の感情がたぎり立つ。


なにしろ「マス」というのは尋常な数字ではない。
視聴率1%は100万人。
1紙で何百万部などという新聞があるゴロゴロある国なのだ。
彼らは意図しなくても――
というか、この際、はっきり言っておこう。
どの記事、どんなマターについても“判断”しないメディアはない。
プロである以上、何をどう扱うかについて「意図をもたない」などということはない。


ただし“判断”は多くの場合、その場限りであって、大きな意図をもって世論をどちらかの方向に導こうなどと日々、操作を駆使しているとまではいえない。
そうではあるけれど(つまり新聞・テレビ「性悪説」を僕は説いているわけではない)
私たちは心にとどめておいた方がいい。
世間の常識、自分の常識も、知らず知らずのうちにマスメディアによって刷り込まれているということを。
僕らは「原発のこと」で、まざまざとそのことを知ったわけなのだから。