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天下を競望せず…
わしは吉川元春(きっかわもとはる)の三男、広家(ひろいえ)です。
天文19年(1550年)残暑の時期に毛利(もうり)領内に不穏な噂が流れていた。
『吉川興経(きっかわおきつね)が密かに尼子(あまこ)に書状を送っているらしい』
『興経が密かに武具を揃えているらしい』
安芸深川に幽閉された興経に関する噂ばかりだった。
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興経は、
興経「なぜこんな噂が流れてるのだ⁈わしは何もしておらぬ!」
興経は弁明の書状を元就(もとなり)に出した。
しかし、元就は興経粛清の決意を固めていたのだ。
元就「興経と子の千法師(せんぽうし)を討て。」
全ては元就の謀(はかりごと)だった。
噂を流したのは元就の忍びであり、それを命じたのは元就なのだ。
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9月、元就は元春の義父、熊谷信直(くまがやのぶなお)、天野隆重(あまのたかしげ)らに興経の館を奇襲させたのだ。
興経はたいした抵抗もできず、捕らえられた。
興経「何だ!この騒ぎは!わしは、わしは何もしておらぬぞ!」
隆重「吉川興経、今さら見苦しいぞ!また密かに尼子と通じているのはわかっておる。」
興経「知らぬ!わしは通じておらぬ!」
信直「興経、千法師は斬首に処す!」
興経「くっ!千法師は何も知らぬのだ!せめて千法師は助けてくれ!」
信直「問答無用!隆重殿、あとはわしが処理しておく。」
隆重「おっ、そうか。では、わしは先に引き上げよう。」
隆重は先に兵を引き上げた。
信直は自ら太刀を抜き、
信直「興経…さらばだ!!」
バスッ!!
興経「!!?」
興経の首は斬れておらず、髷と縛っていた縄が斬れていた。
そこへ元春が現れた。
興経「元春!」
元春「今、吉川興経は死んだ。見事に死んだのだ。」
興経「…どうゆうことだ?」
元春「興経殿に言われた鬼吉川(おにきっかわ)、わしはまだ作れておらぬ。興経殿には、それを見届けてもらわねばならぬ。それには興経としては死んでもらい、流浪の民として生き抜くのだ。」
興経「鬼吉川か……元就が許さぬのではないか?」
元春「万一、流浪の民としてではなく、武士に戻るようであれば、その時はわしが興経を斬る!千法師ともども安芸から去り、生き抜かれよ!」
興経「元春…吉川家を頼むぞ、わしは民として見させてもらうぞ。」
興経は千法師を連れ、闇に消えていった。
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元春「義父上(信直のこと)、無理を言って申し訳ごさりませぬ。」
信直「なんの、元春殿の心、わしも通じました。」
後日、元就は元春と会った。
元就「元春、興経もなく、これで吉川家の居城、小倉山城(おぐらやまじょう)に入るがよい。」
元春「かしこまりました。」
そして元就は小声で
元就「…元春、わしもそなたの心、ありがたいぞ」
元就はニコッと微笑みました。元就は元春が興経を逃したこと、わかっていたのでしょう。
元春は妻、優(ゆう)を連れて小倉山城に入城したのです…
つづく…
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