世は争乱…
我は室町幕府、第9代征夷大将軍・足利義尚(あしかがよしひさ)である。
「義忠(ぎちゅう)を処刑せよ」
文亀2年(1502年)8月4日…
将軍、足利義高(あしかがよしたか)は細川政元(ほそかわまさもと)、伊勢貞宗(いせさだむね)に要求書を突きつけた。
政元宛の要求書に実相院(じっそういん)の僧、義忠の処刑が書かれていたのだ。
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政元「御所様(義高のこと)はいずこにおられる!?」
僧「今はお会いいたしませぬ。」
政元「これでは…埒が開かぬ!致し方あるまい!」
政元は金龍寺の僧を押し除け、寺院内を入って行った。
政元「御所様!御所様!いずこにおられる!?政元にごさる!申し上げたい儀がありまする!」
政元は大声で叫んだ。
すると一室で人の気配を政元は感じた。
政元は障子を経て、語りかけた。
政元「御所様、何もしておらぬ義忠様を害するなど…天魔の所業にござりまする。他の要求は何とかできても、これは出来ませぬ!」
すると…障子の向こうから義高の声が聞こえてきた。
義高「ここまで入ってきおって…義忠は将軍の座を狙っておる義尹の弟ではないか。義尹が生きておる今、いつ義忠が反旗を翻すかもしれん。」
政元「されど義尹は周防で何もできませぬ。」
義高「…果たしてそうか?義忠を担いで我を将軍の座から追い落とすものがおるかもしれん。」
政元はその時、ドキッとした。政元には、義高との対立が酷くなれば義忠を将軍にと内心思っていたからだ。
政元「京にわしや貞宗がいる限り、そんなことはあり得ませぬ。」
義高「ならば、その証として義忠を処刑せよ。できなければ、我はここから帰らぬ!」
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翌8月5日…
義忠は義高が病と聞き、金龍寺に見舞いに来た。
そこで…
ザクッ!
政元は義高に障子越しに声をかけた。
政元「御所様…義忠様を処刑しました。」
義高「…よい、明日には御所に帰る。」
その日の夜…
政元は1人の僧の見送りをしていた。
義忠「政元殿…我が命を助けてくれて礼を申す。」
政元「いや、礼は金龍寺の僧におっしゃってください。ちょうど亡くなった僧に義忠様の身代わりにと言ってくれたのは金龍寺の僧ですから。」
政元は義高に見せた亡骸は義忠ではなかったのだ。
義忠「なぜ、私を助けてくれたのだ?」
政元「……罪のない方を斬りたくありませぬゆえ。」
義忠「そうか…ありがとう。」
政元「この先は自由な身です。どこに行かれても、お体をお大事に…。」
義忠は京を去った。
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政元はつぶやいた。
『争い事はごめんだ。』
そんな思いから、9月、政元は自らの嫡男を聡明丸(そうめいまる)に決めたのだ。
しかし、これがさらなる争いを生んだのだった…。
つづく…
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