我は北条泰時(ほうじょうやすとき)が妹、竹子(たけこ)です。
泰時と家臣の尾藤弥助(びとうやすけ)、長崎次郎(ながさきじろう)は上野国の新田荘(にったのしょう)で新田氏(にったし)を仕切る新田尼(にったのあま)に出会い、土地の開墾を手伝っていました。
新田尼「皆、少し休憩にしましょう」
新田尼の呼びかけに皆、手を止め休み出しました。
新田尼「先ほど、近くの川で汲んできた水です。ひと息つきましょう。」
泰時「これはありがたい。頂戴致します。」
一緒に働いていた新田の当主、新田政義(にったまさよし)も水を飲み、
政義「いやぁ〜、生き返る〜」
皆、休憩をしていると、近くの茂みが揺れました。
その揺れに誰も気づきません。
すると…
グゴォォォ〜!!
威嚇するような鳴き声が響き、茂みからイノシシが飛び出してきたのです。
イノシシは休憩している泰時らの方に向かってきました。
政義「うわぁ!イノシシだぁ!」
泰時「くっ!弥助、次郎!尼御前様を守れ!」
泰時は持っていたこん棒を取り、構えました。
すると、
「どけぇぇ〜」
泰時らの背後から声が響き、馬に乗った1人の男が飛び出て、
イノシシに向け矢を放ちました。
矢は見事にイノシシの額に命中したのです。
泰時らは呆気に取られていました。
「尼御前様、ご無事ですか?」
新田尼「…あなたは泉親衡(いずみちかひら)殿!」
その男は信濃国の武将で鎌倉の御家人でもある泉親衡だったのです。
親衡「間に合ってよかった。ちょうどこちらに向かっているところ、茂みが揺れているのが見えたので駆けてきました。」
新田尼「助かりました。」
親衡「…おっ、こちらは?」
新田尼「諸国を旅してる修験者の方々です。開墾を手伝ってくれていたのですよ。」
泰時「お初にお目にかかります。金剛坊(こんごうぼう)と申します。」
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新田尼「親衡殿は信濃源氏(しなのげんじ)。同じ源氏で親しくさせてもらってます。親衡殿、今日はどうされたのですか?」
親衡「鎌倉に行く途中なのです。鎌倉殿に出仕しなければなりませぬゆえ。」
新田尼「そうですか…」
親衡「また信濃に帰る時にでも、ご挨拶に参ります。では!」
親衡は馬を走らせて行きました。
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泰時は親衡とこの時が初めての遭遇でした。
泰時『泉親衡…勇ましい武将だな』
新田尼は孫の政義の姿が見えないことに気づきました。
新田尼「全く、あの子は…政義殿は逃げたのですね。」
泰時は同じ源氏でも逃げ出す政義に呆れていました。
泰時「さぁ、開墾を再開しましょう。切株を片付けねば!」
泰時らは夕刻まで新田荘に滞在し、新田尼らと別れました…
泰時「弥助、次郎、鎌倉へ戻ろう!」
弥助、次郎「はい!」
つづく…
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