世は群雄割拠の戦国時代。
わしは北条氏康(ほうじょううじやす)です。
1557年6月、川中島(かわなかじま)に攻めてきた長尾景虎(ながおかげとら)の軍勢に対し武田晴信(たけだはるのぶ)の要請で綱成(つなしげ)は武田の援軍として上田に着陣しました。
綱成は長尾軍の様子を伺うために忍びを放ちました。
その夜…
綱成「今のところ動きはないようだが…美郎(よしろう)、物見に出した忍びはまだ戻らぬか?」
美郎「はい、美咲(みさき)を行かしたのですが…まさか逃げた?」
その時!
スッ!
その場に見知らぬ男が入り込んでいたのです。
綱成「何者⁈ 」
美郎「!!いつの間に⁈ 」
「我は長尾家の使いでごさいます。」
綱成も美郎もその男が忍びであると思いました。
綱成「長尾の使い…何用か?」
長尾の使い「我が主人が綱成殿とお会いしたいと申しております。無論、忍んでですが。」
美郎「我が殿に会いたいとは…罠ではあるまいな⁈ 」
長尾の使い「我が主人は罠など仕掛けませぬ。それに綱成殿が来ぬと、そちらが放った忍びがどうなっても知りませぬぞ。」
美郎「美咲!!貴様、美咲を人質に!」
美咲は長尾の忍びに捕まってしまっていたのです。
綱成「わかった。会いにいこう。」
美郎「殿、危のうごいさます!」
綱成「美咲を放っておけない。それに敵将に会えるなど、こんな機会はないだろう。」
長尾の使い「ありがとうございます。では参りましょう。」
美郎「私も参ります。」
綱成は美郎を連れて、善光寺平へ行く途中の荒れ寺に行きました。
そこには1人の武将と美咲が待っていました。そして頭を下げ、
「手荒な真似をしました。わしが長尾景虎です。」
綱成「私が北条綱成です。」
長尾の使い「では我はこれで…。」
長尾の使いはその場から消えました。
綱成「あの忍び、見事ですな。我が陣中に、しかも私の側近くまで誰にも気づかれにくるとは…。」
景虎「神がかりな忍びです。」
美郎「あの忍びは…飛び加藤(とびかとう)では?」
景虎「うむ。そのように呼ばれておるようだ。」
飛び加藤って名前は加藤段蔵(かとうだんぞう)って言うんだ。優れた忍びの技術を持ち、かえって景虎さんに警戒されるようになったんだ。後に長尾家を去ることになったんだよ。
綱成「さて、私に何用でしょう?」
景虎「援軍を退いてもらえぬか?武田とは同盟関係とはいえ、これは我が長尾と武田との戦。手を出さないでもらいたい。」
綱成「我が北条は武田、今川(いまがわ)との同盟。困っていれば援軍も出す約定でごさいます。退くことはできませぬ。」
景虎「武田は己の欲で信濃国を奪い、次は我が越後国にも手を出そうとする輩。そんな輩に手を貸すのか?」
綱成「武田の事情は私にはわかりませぬ。」
景虎「北条も関東に手を出しておる。武田と同じということか?」
それを聞いた綱成は声を荒げ、
綱成「我が北条は己の欲で戦をしておるのではない!初代早雲(そううん)公以来、民のために、荒れた関東を治めるのだ!」
景虎は綱成の目をじっと見つめました…。
つづく…
次回をお楽しみに〜
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