私、足利尊氏の妻・登子です。
又若のことがあって以来、私は夫とも茜とも会っていません。
会いたくなかったのです。しかし、茜は許しを得ようと毎日のように訪ねてきました。
1ヶ月経って、ようやく茜には会いました。
茜「御台様、又若のこと…隠していて申し訳ありませんでした。」
私「茜、又若の母…茜の妹のことを聞かせておくれ。」
茜「妹の桔梗は戦とはいえ人を殺す武士を嫌っていました。それゆえ武士の家を飛び出し白拍子になったのです。」
茜「桔梗は亡くなる前、打ち明けてくれました。又若の父親が『足利の殿』であること、そして又若は武士にはしたくないと…。」
私「それで又若をお寺に預けたのですね。」
茜「はい。又若は父親が『足利の殿』と母から聞いたと言っていましたが、私と桔梗が話しているのを聞いたのでしょう。」
皮肉な運命だと私は思いました。桔梗が又若を武士にしたくないのに、又若自身は武士になりたいとは…。
茜「御台様、又若は僧の玄恵様のところに身を寄せていますが…玄恵様が直義様に又若を合わせたようです。」
私「直義殿に⁈」
直義殿は事情を聞き、又若のことを不憫に思ったようです。
その後、直義殿は夫に会いに来ます。私も同席をしました。
直義「兄上、又若殿にはお会いになってないようですね。」
夫はチラリと私を見て、
夫「会ってない。」
直義「武士になりたがっていました。…お願いがあります。又若殿を私の養子に頂けませぬか?」
夫「直義の養子にと⁈」
直義「庶子とはいえ、兄上の子。又若殿がその気になれば他家へ仕官することも可能でしょう。それなら足利の家に入れるべきです。」
夫「…しかし、わしの子とは認めるわけにいかん。」
直義「そう思い、私の養子にと思いました。兄上の子を家臣にするわけにはできませんから。」
夫は返答を避け、数日考え…直義殿の願いを許しました。
直義殿は又若を養子とし、元服させました。
そして名を直冬としました…。
つづく…
