ある瞬間に対する人の思いは、当然の事ながら様々だ。


稀に、多くの人の思いが同じくなる瞬間がある。

新年もその一つかもしれない。



過ごし方は多様なれど、「新年」というものを多くの人が意識している。

私も多分にもれずそれを意識し、例年どおり帰省していた。


これは帰京する、新幹線車中の出来事。



私の前3席には、父親と小学生の兄に、幼少の妹。

後ろには母親と思しき女性。


父方か母方か知らないが、里帰りの帰りだろう。

独身の私には、家族と共に移動するのはとても面倒そうで頭が下がる。



走る列車。冬の早い夕暮れは夜こそが冬のような、

その夜を楽しむ事が喜びのような、そんな気すらする。

車内にも慣れ、他者との共用空間から、自らの空間へと認識がかわる兄弟。



兄妹がはしゃぎはじめる。当初は微笑ましく思えたが、声量・座席の振動ともに

あまりにエスカレートしたので、家族連れとはいえさすがに後ろから

「蹴飛ばしたろか!」と右足がうずいたところに、母親がやんわり注意。


内心、「それじゃ甘い!」と思うが、まぁ我慢。

もう一度だけチャンスをくれてやろう。



大阪を過ぎると、母が前、父が後ろに席替え。

なにゆえの行動か、少し気になったのは

何かしらの寂しさを感じたからだ。




京都にさしかかる頃、父と娘が「またね」と握手。

母も3人分の身仕度をし、夫に別れを告げる。




私:「は?・・・」




気丈な母だが、ふと目頭に手をやる。


最後まで平静を装っていた兄は、降車際にちらと父を見る。

それは母と妹を託された男の目だった。



ホームを去る列車。

車窓ごしに家族に手を降った父は、少しの間遠くを見るような・・・。

その後雑誌に目をおとしていたが、いつの間にか缶ビールを飲んでいる。


企業の技術者でもしてるのだろうか。

実直な40半ばの男の拠り所は今、家族から、小さな缶ビールとなった。





終点・東京が近づくと、網棚の荷物をおろし、身仕度をする男。

土産袋には「鹿児島名産」とある。

この正月が、家族と過ごす、貴重な日々だったか。



男は携帯をとりだす。メールを見て微笑んだようにも見え、

ホームの雑踏に消えて行った。





「あのとき蹴飛ばさなくて良かった」。