10代の頃、私は憧れの人のようになりたいと思った。

20代の頃、なかなかなれないけど、頑張らなきゃ、と思った。

30代の頃、憧れどころか、人並みにもいかない自分に諦めを感じた。

40になって、自分は「ポンコツ」に乗ってることに気付いた。


人それぞれ、乗ってる車体は違う。

性能のいい車もあれば、

パワーのある車もある。

見栄えのいい車もあれば、

性能も、パワーも、見栄えも悪い、「ポンコツ」もある。


ぞれぞれの車で、人生を走る。


人よりも早くゴールを目指すものもいれば、

誰よりも重い荷物を運ぶものもいる。

人目を集めるものもいれば、

乗り心地を求めるものもいる。


ゴールについたら、それが自己満足だったことに気づく。


ポンコツを乗りこなせ!

故障し、迷い、嘲笑をあびながら、

自分の車のクセとつきあって、

かけがえのない相棒と、かけがえのない道を走れ。


やがて別れのとき、互いに手をあげよう。

それまでだ。

楽しくやろう。





目が覚めると、懐かしい部屋の中にいた。

幼い頃に行った祖父母の家のような、

懐かしいようであり、ほんの今までそこにたようでもある、不思議な感覚だ。



「おぅ、お疲れさん!」

聞き覚えのある声に振り向いた。

黒ずくめの服に、年配ながらもしっかりした体。

にこやかだが、その奥に鋭さを放つ細い眼のまわりには、

深い皺が刻まれている。



私は昨夜、赴任先の下界で息を引きとった。

40年ほどの任期中は海に囲まれた島国で、

人と同じように生き、その中で少しでも優位につく事を良しとする中、

それになじめず、かといって独自な生き方もできぬまま、

唯一大事と思った、一人息子を残し、

横殴りのような突然の衝撃と共に、任期を終えた。



「ご苦労やったなぁ。いろいろ大変やったか?」

言ってる事はつきなみだが、不思議に嫌な感じのしない男だ。


「そうですね。まぁ、もう一度やろうとは思えません」

脳みそを経由せず、口に出た言葉をそのまま発した。



ここは天の下界窓口にある一時休憩所。

空港の入国管理事務所と、故郷と、そして

人材派遣事務所を混ぜ合わせたようなところだ。


全ての下界の人々はここに所属して、ここから各地に赴任する。

声の主は私の元締めで、もう長いこと世話になっている。

しばしのリセット機関を得て、需要があればまた任地へ旅立っていく。

赴任中はここの存在と、そのシステムの事は記憶から消去されている。



「なにか心残りがあったか?」

主の声は、自然に私の腹の奥の力をゆるませ、心を柔らかくする。


「うん。まぁ、あったかもしれませんが、もう忘れました」

前の任地でのもろもろで、とにかく疲れている。

いい事も嫌なこともあったはずだが、今は何もかも忘れて疲れをいやしたい。



「はぁ、まぁゆっくり休みなよ」


「ありがとうございます」



目を閉じた。暗黒空間にそよ風がふいて、再び眠りに落ちた。




(つづく)








俺の勝負靴だが、連戦の挙句に底から浸水してきたので修理に行った。

靴底の修理は初で、ざっくりと「なるべく安く、元の見栄えに近くしたい」とオーダーするも、

店員が専門分野の話に持っていき気味で、どうもしっくりこない。



CM制作の仕事をしていた頃、この手の人種によく煩わされたのを思い出した。

自分の専門分野に話を持って行きたがって、本来の目的とずれちゃうんだ。


「それには最新の○○ってカメラで、××CGを使って・・・・」っつぅんだけど、

いらねぇよ、○○カメラ。使ってみてぇだけだろ。



再度「安く・シンプルに」を強調した結果、2万円の靴に1万2千円もかかった。






先日、3度目のバイクの試験に挑んだんだ。

3度目ともなると、試験場は慣れたもの。試験官や大型受験者(毎回顔を合わせる人もいる)等とは

そろそろ飲みに行ってもいいかな、くらいの距離感である。


こういった公的機関は雑多な人種が入り混じる、ありそうで無いところだ。

金持ちも貧乏人も、職人もサラリーマンも、「東京在住・運転(希望)者」っていうくくりだけだと、

こんなにいろんな人がいるんだな、と再認識する。

子供の頃ってこうだったな。そういえば。



ひと際目を引いたのは、日章旗がデザインされたキャップ型ヘルメットを被った少年A。

きみ、前もいたじゃん。まずそこ(キャップ)がダメなんだって。


原付を受験する少年Bは、大胆なガニ股を試験管に正されるも、抵抗。

試験官は教師のように、股を閉じさせようと熱血指導するが、何か違うと思う。


インド人と思しきおじさんは、エンジンのかけ方がわからないし、

誰も気づかない程希薄な存在感の線の細い色白女性は、驚きの大型受験。

ほぼ全員が途中でストップする中、あっけなく完走を遂げた。



周囲の珍獣たちの中、私はまさかの3タテをくらう。

さすがにため息が出る。

前回と同じ試験官は、私に劣らぬため息をついていた。




「他人様見て笑ってんじゃねぇ 俺だよ、珍獣は」




帰りに読んだ雑誌にこんな一節が。


「嫌なことがあっても、それで他人を傷つけなければ、とりあえず大丈夫だ」


自分にとどめておくと解決はできるが、第三者に及ぶと一気に難しくなる。

確かに他人を傷つけた後味の悪さは、尾を引くよな。




靴屋の店員さんに、失礼な事言わなかったか?

ちょっと嫌な顔したかもしれない。悪い事したな。



試験管に悪態つかなかったか?

我慢したよ。とりあえず良かった。





試験3タテを期に、それを学べたよ。



とでも思うしかないずら。