R・J・カトラー『BELUSHI ベルーシ』 | What's Entertainment ?

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『BELUSHI ベルーシ』


 

監督・脚本・製作:R・J・カトラー/製作総指揮:ビル・コーチュリー、ショーン・ダニエル、ヴィニー・モルホトラ、アンドリュー・ラーマン/アニメーション:ロバート・バレー/音楽:ツリー・アダムス/音楽監修:リズ・ギャラチャー/グラフィック:ステファン・ナーデルマン/ストーリープロデューサー:オースティン・ウィルキン/共同製作:ライアン・ギャラガー、カロリン・ジュリアンス/編集:ジョー・ベシェンコフスキー、マリス・ベンジンス/製作:ジョン・バトセック、ダイアン・ベッカー、トレヴァー・スミス/配給:アンプラグド
公開:2021年12月17日


人気絶頂だった33歳の時にスピードボールのオーヴァードーズで急逝したアメリカの天才コメディアン、ジョン・ベルーシの人生を追った2020年製作の尺108分に及ぶドキュメンタリーである。
本作は、妻のジュディス・ベルーシが保管していた未公開音声テープ、ジョンから贈られた手紙、関係者の証言、アーカイヴ映像、アニメーションで構成されている。

ジョン・ベルーシがアルバニア系移民二世だったことに始まり、幼少期から次第に人気ものになって行く思春期、ジュディスとの出会い、コメディ劇団での人気、ニューヨークへ赴きラジオ番組で活躍した後に「サタデー・ナイト・ライブ」への出演、ジョン・ランディス監督『アニマル・ハウス』(1978)での全米ブレイク、盟友ダン・エイクロイドと結成したブルース・ブラザースの大成功とジョン・ランディス監督による映画化『ブルース・ブラザース』(1980)の大ヒット、プレッシャーと麻薬摂取による破滅までが描かれている。
資料や証言をふんだんに集めて製作された至って真摯なドキュメンタリーで、ジョン・ベルーシの才能やパーソナリティ共々胸に迫る映画だと思う。


 

ただ、膨大な情報をそのまま羅列してしまったような編集が頂けない。情報過多で、それを字幕で見ていると正直ぐったり疲れてしまう。おまけに、その資料からジョン・ベルーシの人間性や不慮の死に至った原因を読み解き彼の人生を浮き彫りにするような方向に作られておらず、ひたすら資料や証言を繋げているだけという印象を受けてしまう。
だから、ジョン・ベルーシに関するスクラップ・ブックを見せられている感じで、その人となりが立体的に立ち上がらない。それが、本作における一番の不満である。

それから、せっかくジョン・ベルーシという稀代のエンターテイナーを扱っているのだから、もっと彼のパフォーマンス映像を見せて欲しかったように思う。
ジョー・コッカーやマーロン・ブランドの物まね、エリザベス・テイラーの悪意あるパロディ、黒澤明監督『用心棒』にインスパイアされたサムライ・コメディ、ブルース・ブラザースの演奏シーン等々。「サタデー・ナイト・ライブ」の映像も、断片的でフラストレーションを感じてしまった。


 

個人的には、如何にもアメリカンで大味な「サタデー・ナイト・ライブ」の力で捻じ伏せるような笑いが苦手で、いささかトゥー・クレバーともいえる60年代イギリスの「モンティ・パイソン」の方が好みではあった。
モンティ・パイソンのメンバーで、ニール・イネスと一緒にビートルズのパロディであるラトルズをやっていたエリック・アイドルも登場する。映画の中では、何も触れられていないが。
ダン・エイクロイドが脚本を準備していた『ゴーストバスターズ』(1984)に、ジョン・ベルーシが出ていたらなとつくづく思う。彼の代わりに主演して全米の人気者になったのが、「SNL」でも共演したビル・マーレイである。

それにしても、妻のジュディスとダン・エイクロイドが如何にジョン・ベルーシにとって重要な人物だったのかを改めて認識した。そのダン・エイクロイドが語る話の一つ一つが胸に響く。意外にも、『ブルース・ブラザース』で共演したキャリー・フィッシャーのコメントが大々的にフィーチャーされていた。
ただ、どうしてもラストが感傷的になり過ぎているのが気になった。コメディアンらしくジョー・コッカー「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」の物まねで終わらせていいじゃないかと思うのだが、そうはいかないのだ。

いずれにしても、1980年代に入るとドラッグで命を落とすアメリカ・ショービズ界のタレントはさほどいなくなっていたように思う。
それを思うと、ジョン・ベルーシが抱えていた心の闇や麻薬依存症への対処法がもう少し成熟していればと思わずにはいられないのである。