サンバ娘の血は騒ぐ(名盤篇) | What's Entertainment ?

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映画や音楽といったサブカルチャーについてのマニアックな文章を書いて行きます。

理屈好きが災いして、歴史の勉強のようになってしまった前回ですが、今回は実用的文章で迫りたいと思います。題して、「これ聴いとけば間違いないでしょ的ブラジル音楽名盤選」です。
ただ、本来サンバ娘からのリクエストは「サンバの曲を知りたいです!」というものだったんだけど、サンバ自体が1920年頃から現代に至るまで続く音楽、しかも踊るための音楽で僕自身がカーニバルでどんな曲がかかっているのか全く分かっていない…という困った事情があります。そんな訳で、とりあえずジャンル別に鑑賞して素晴らしいと僕が思う作品を紹介します。これじゃ、あんまり意味がないかもしれないけど(汗)
基本的には、僕が好んで聴いている1950年代後半から1980年頃までの作品になります。
それでは、Here we go!!!!!…って、ポルトガル語じゃない(笑)


○サンバ編

①CARTOLA/O Mundo E Um Moinho(人生は風車~沈黙のバラ)('76)
35mmの夢、12inchの楽園

1929年から活動を開始して80年に没したまさしくサンバの生きる伝説であったカルトーラ。しかし、彼は不遇の時代が長く、再評価されたのは1964年になってからだった。
彼の畢竟の傑作「人生は風車」「沈黙のバラ」を先ずは聴かなければ、何も始まらない。それくらい歴史的な作品である。

②ELIZETH CARDOSO/サンバ歌謡の女王
35mmの夢、12inchの楽園

日本での編集盤。1960年代の彼女こそ絶頂期なのだが、今は廃盤のためこの活動初期1950~58年のベスト盤を。1958年は、ジョアン・ジルベルトが彼女のアルバムに参加し、ボサ・ノヴァ最初のレコーディングがなされたことでも歴史的。まさしく、不世出な歌手である。

③CARMEN MIRANDA/Imperatriz Do Samba(サンバの女王)
35mmの夢、12inchの楽園

20世紀最高の歌姫の一人に数えられるまさしく「サンバの女王」カルメン・ミランダ。彼女の全盛期の録音を集めた日本編集のベスト盤。
彼女は1939年以降アメリカに渡り、女優・歌手としてハリウッド・スターへの道を歩んだ。

④V.A./Quatro Grandes Do Samba('77)
35mmの夢、12inchの楽園

ネルソン・カヴァキーニョ、カンデイア、ギリェルミ・ヂ・ブリート、エルト・メデイロスの四人のエスコーラ系サンバの大傑作。再評価されたサンバの巨人たちが集い、まさしく黄金のサンバ円熟期を迎えた70年代後半に録音された金字塔的作品である。

⑤V.A./Encontro Com A Velha Guarda(すばらしきサンバの仲間たち)('76)
35mmの夢、12inchの楽園

残念ながら現在は廃盤だが、サンバを語る上でどうしても外せないアルバムを。アルヴァイアージ、イズマエール・シルヴァ、イラシ・セーラ、エルナーニ・ジ・アルヴァレンガ等名門エスコーラの伝統の担い手たちが一堂に会してサンバ・カリオカを演奏したまさしく珠玉の1作。ワールド・ミュージックという呼称が使われる以前、このアルバムを聴いてサンバというジャンルに目覚めた音楽ファンは数知れず。


○ボサ・ノヴァ編

①JOAO GILBERTO/Chega De Saudade(想いあふれて)('59)
35mmの夢、12inchの楽園

初の本格的ボサ・ノヴァ黎明を告げた、まさしく歴史的金字塔
がこのジョアン・ジルベルトのファースト・アルバム。極限までシンプルなギター・スタイルとクールでスタイリッシュな佇まいの歌唱で、どこまでグルーヴできるのか。今日的な耳で聴けば、ボサ・ノヴァとはそういう音楽であるだろう。ヤング・ミュージック・オブ・ブラジル。カリオカたちの歓喜の声が聞えて来るような音楽集である。

②ANTONIO CARLOS JOBIM/Composer Of Desafinado Plays(イパネマの娘)('63)
35mmの夢、12inchの楽園
35mmの夢、12inchの楽園

まさしく、ブラジル最高の作曲家の一人であるアントニオ・カルロス・ジョビン。あまりに名作が多いのでどれを紹介するか迷ってしまうが、やはり最初の1枚となればこれだろう。ジョビン自身のピアノとクラウス・オガーマンの繊細にして美しさを極めたアレンジによる全てがボサ・ノヴァのスタンダードと言える決定的な作品集である。

③NARA LEAO/Dez Anos Depois(美しきボサノヴァのミューズ)('71)
35mmの夢、12inchの楽園

ボサ・ノヴァ界でもっとも有名な女性歌手ナラ・レオン。彼女が亡命先のパリで録音した意外にも彼女にとっては初の「ボサ・ノヴァ集」である。まさに原点回帰した彼女が歌い上げるのは、祖国ブラジルへのサウダーヂであったに違いない。

④STAN GETZ & JOAO GILBERTO/Getz/Gilberto('63)
35mmの夢、12inchの楽園

アメリカを代表するクール・テナーの雄スタン・ゲッツがジルベルト、ジョビンと作り上げた超有名作。ゲッツのボサ・ノヴァに対する誤解が生み出した迷盤とも言えるが、この作品の世界的なヒットで「イパネマの娘」はスタンダードとなった。ある意味、ボサ・ノヴァがジャズ・サンバであるという誤解を生んだ原罪的アルバムでもある。

⑤SERGIO MENDES & BRASIL'66/Herb Alpert Presents(マシュ・ケ・ナダ)('66)
35mmの夢、12inchの楽園

このアルバムをここに入れるのかという声も聞こえてきそうだが、やはりセルジオ・メンデスがボサ・ノヴァを世界的に広めた功績は評価しない訳にはいかない。乱暴に言えば、スタン・ゲッツが撒いた種を大きく正しく育て上げたのが彼のグループであるブラジル'66である。
今の耳で聴けば良くできたポップスだし、レーベルはアメリカのA&Mで、彼らを紹介したのはA&Mオーナーの一人でトランペッターのハーブ・アルパート。深夜放送「オールナイトニッポン」の有名なテーマ曲「ビター・スウィート・サンバ」を演奏している人である。
35mmの夢、12inchの楽園
セルメンによって、ボサ・ノヴァはポピュラー・ミュージックとして羽ばたいて行ったのである。


○MPB編

①CAETANO VELOSO/Caetano Veloso('85)
35mmの夢、12inchの楽園

1960年代から活躍するトロピカリズモの立役者である男。時代時代によってさまざまなスタイルの音楽を作って来た彼であるが、先ず1枚と言えば、自分の名前をそのままアルバム・タイトルにしたこの作品を。
ニューヨークで録音されたこの作品は、限りなく弾き語りに近い内省的な作品である。彼の音楽スタイルをまさに「ネイキッド」な状態で堪能できる素晴らしい作品集である。

②MILTON NASCIMENTO/Courage('68)
35mmの夢、12inchの楽園

ブラジルの声とまで評される素晴らしいミュージシャン、ミルトン・ナシメント。彼が、アメリカ進出第1弾としてA&Mからリリースしたセカンド・アルバム。アイアート・モレイラやエミール・デオダートも参加した疾走感溢れるサウンドと、歌声が素晴らしい。

③JORGE BEN/Africa Brasil('76)
35mmの夢、12inchの楽園

1950年代から活躍するキャリアの長いミュージシャン。セルジオ・メンデスで世界的に大ヒットした「マシュ・ケ・ナダ」はこの人の作品。
サンバをエレクトリック化した張本人であり、このアルバムを発表した70年代には、ブラジリアン・ファンクの先鋭的な傑作を次々と発表した。
特に、「タジ・マハール」は数々のカバー・バージョンがあり、日本では高中正義がカバーしている。
35mmの夢、12inchの楽園

④ELIS REGINA/Como E Porque('69)
35mmの夢、12inchの楽園

小さな体には収まりきれない激しい情熱を持った歌手、それがエリス・レジーナである。彼女の爆発するような激しい歌は、ボサ・ノヴァには収まり切らなかった。
彼女は歌手として、ジルベルト・ジル、エドゥ・ロボ、ミルトン・ナシメント、イヴァン・リンスといった優れたミュージシャンの歌を紹介してMPBの幅を大きく広げる役割を果たした。
この作品は、バラエティに富むがやはり聴き物は「ヴェラ・クルス」の凄まじいばかりのグルーヴ感だろう。こんな歌、エリスにしか歌えない。

⑤JOYCE/Feminina(フェミニーナ & 水と光)('80 & 81)
35mmの夢、12inchの楽園

最後に、僕が大好きなジョイスの名盤2枚をカップリングしたお得な作品を紹介したい。この人は1960年代後半から活動しており、ジルベルト・ジル、カエターノ・ヴェローゾ、ミルトン・ナシメント、トニーニョ・オルタといった幅広いミュージシャンとの交流が深い。
現在もバリバリの現役で度々来日もしているが、やはり代表作と言えばこの2枚だろう。アコースティックなサウンドながら見事にグルーヴする素晴らしい音楽は、クラブ・サイドからの評価も高い。

もちろん他にも紹介したいミュージシャンは山ほどいる訳ですが、とりあえず基本中の基本としてこの15枚を挙げておきます。
このガイドをきっかけに、もっともっと奥深いブラジリアン・ミュージックの世界を探求して頂ければ、紹介者としては嬉しい限りです。