風のかたちⅡ -7ページ目

ことしの労働経済白書など

白書執筆チームのココロをワン公的に斟酌すれば、思いは、「第3章・雇用システムの展望と課題」に込められている・・・超速斜め読みで勘違いかもしれないが わんわんわんわんわんわん すなわち、


戦後日本の労使、勤労者の努力と智恵の上に生成されてきた所謂「日本的雇用システム」を再評価しつつ、新しい「日本の」雇用システムの構築に邁進しよう。新たな雇用システムとは、「雇用の安定を基盤に仕事の働きがいを通じて経済・産業活動を活性化させるとともに、経済活動の成果を適切に分配し、豊かで安心できる勤労者生活を実現する」「我が国社会の活力を養い、経済の健全な成長を生み出し、持続性をもった経済と社会の発展を実現する」ものであると。


こうした思いを述べるために、高度経済成長期から今日までの我が国経済を振り返り、特にバブル崩壊から昨年の急速な経済収縮までの雇用、賃金、物価等を様々に分析したのではないか。

我が国の90年代以降を

 ・雇用の安定的基盤が崩壊し

 ・経済活動の成果は適切に配分されず

 ・勤労者生活から豊かさと安心が失われ

 ・我が国の社会と経済が持続性をもった発展の活力を喪失した

時代ととらえ(02年以降の戦後最長の景気拡大局面も底堅い内需を欠き過度に外需に依存した歪みを抱えたものととらえて)、その上で、このような負の連鎖を裁ち切る重要なキーの一つとして、新たな雇用システムを展望しようとしているのではないか。


白書が展望しているものが、ステロタイプで受け止められている「日本的雇用システム-終身雇用、年功賃金、企業内組合」ではないことは、第2章、第3章でカギ括弧付の日本的雇用システムの変容に繰り返し言及していることからもうかがえる。


しかし、「期間の定めのない雇用」をあり得べき本来の雇用の姿とみて、それが「社会の活力を養い、経済の健全な成長を生み出し、持続性をもった経済と社会の発展を実現する」ために欠かせない要素と位置づけて、不安定就業層もできるだけ包摂していくべきとしていることは間違いない。例えば、以下のくだり。

  我が国社会は、長期雇用システムのもとで、雇用の安定と人材育成を推し進めるとともに、不安

  定就業者の正規雇用化を通じて、雇用安定機能と人材育成機能を備える雇用システムのさらな

  る拡張を図っていくことが大切である。組織の活性化をもたらすことができる人事・処遇制度のもと

  で長期雇用システムを積極的に充実・拡張・発展させていく労使の取組が期待されるところであ

  る。(216頁)


こういうスタンスは、最近の政府文書「安心社会実現会議報告」と矛盾はしていないにしろ、「長期雇用」をより重視し、その分、外部労働市場の機能やセーフティーネットへの傾きが少ない。当世ハヤリのフレキシキュリティとは一線を画しているように見える。

「安心社会実現会議報告」(2009年6月)

  日本の活力を生んできた長期雇用の保障を継承しつつも、セーフティネットの整備など、雇用を社会全体

  で支えるかたちを強めていく必要がある。わが国の積極的労働市場政策への支出(GDP比0・3%、05年)

  は諸外国に比べて小さい。長期雇用に、中途採用、職業訓練、社会人入学の支援制度などを組合わせて

  一生チャレンジし続けることができる条件づくりを急がねばならない。
  失業者や、心身の障害などで雇用から遠ざかっている人々に対しては、職業能力開発、雇用環境整備、住

  宅政策などが相互に連携しながら、社会への迎え入れ(ソーシャル・インクルージョン)を図らなければなら

  ない。自治体で質の高いワン・ストップサービスが提供されるように、国は財政的、行政的な支援をするべき

  である。

「期間の定めのない雇用」をあり得べき本来の雇用の姿とみる労働経済白書のスタンスが労働行政が一貫してとってきたものとすれば、一朝一夕に変えがたいのだろうが、今のご時世、なかなかツライものがあるなぁというのが偽らざるワン公的所感。例えば、大竹先生とかに代表される(?)ような認識とか、例えば、以下のお二人の先生のようなお話も一概に否定しがたい・・・こういう先生方が屡々もちだされる「解雇規制緩和」論は単体としては現実的帰結が分からない点が多すぎて賛成しかねるとしても、また、柳川先生の終身雇用に関するご認識の呆れるまでのラフさ、一回生起的な歴史の産物であるとしても、そこに込められていたであろう労使、勤労者の汗や叡智への無関心さには疑問を保留したいが。

 ○柳川先生@東大「終身雇用という幻想を捨てよ―産業構造変化に合った雇用システムに転換を」

  http://www.nira.or.jp/pdf/0901yanagawa.pdf

  国際的な競争環境の激化は、企業自体の寿命も大きく変化させようとしている。その結果、さら

  に雇用を支えることが難しくなってきている。バブル崩壊後の日本企業では雇用の負担が大きくな

  りそれによって国際競争力を失うことを恐れて、派遣社員や有期雇用を増やしてきたという経緯が

  ある。それらの雇用はより柔軟性があり、それによって企業は負担を抑えることができると考えた

  からである。

  今生じている非正規雇用の問題は・・・日本的雇用システムが生み出した歪みの結果に過ぎな  

  い・・・ましてや、正規雇用という名の長期安定雇用を保証させようとするのは、明らかに実現不可

  能な流れに逆行した方策といえるだろう。

  強調しておかなければならないのは、それが直ちに全ての雇用の短期化、スポット化を意味する

  わけではない、という点である。雇用の流動化を議論する際にはしばしば、それによって短期契約

  ばかりになってしまえば、長期的視野にたった投資や技能習得が不可能になる、といった主張が

  なされる。・・・当然、長期的な雇用継続が望ましい企業はそのような選択をするだろうし、簡単に

  は解雇をしないことを会社の方針とする企業も少なくないだろう。また働き続けたい従業員はその

  会社に必要な能力を身につけようと努力しようとするだろう。その意味では日本型の雇用は今後も

  続くだろうと考えられる。しかし、それは制度とは別次元の問題である。

 ○安藤至大@日大「労働ルールの再構築と新システムへの移行プロセス―雇用契約の多様化と

  新制度導入過程の明示的な検討が必要」

  http://www.nira.or.jp/pdf/0901ando.pdf  

  我が国のこれまでの雇用慣行は高度成長期に特有のものであり、意図的に長期雇用を採用した

  というよりは、結果として長期雇用となっていた企業が存在したということだ。

  高度成長期には、男性正社員を中核的な労働者として保護し、女性のパートや学生のアルバイト

  等を景気変動の際に調整可能な労働力とする考え方には一定の正当性があったのかもしれない。

  しかし現在は、男性のみが家計を支えるモデルは崩れてきているし、またその男性でも非正規労

  働にしか就けないケースも多い。また雇用が不安定であるという非正規労働の問題が指摘されて

  いる一方で、正社員は労働時間や勤務地域、そしてキャリア形成の面で使用者側にその決定を

  全面的に委ねざるを得ないことも頻繁に観察されることである。


しかし、上にあげたような議論は俗論も含めて百も承知のうえで、むこう傷を懼れずに労働行政としてのフェアウェーを行こうとしているのかもしれないとも推測。

  不安定就業者の正規雇用化を通じて、雇用安定機能と人材育成機能を備える雇用システムのさらなる拡

  張を図っていくことが大切である。組織の活性化をもたらすことができる人事・処遇制度のもとで長期雇用

  システムを積極的に充実・拡張・発展させていく労使の取組が期待されるところである。

というくだりの「労使の取り組み」には、非正規の正規化を受け入れるための新たな「人事・処遇制度」の探索、もっといえば、正規雇用の処遇の見直し、正規雇用の中での多様な雇用区分・処遇の創設などまで含めて期待しているのかもしれない・・・と思ったりもするのである。

ついでなので 二つの派遣調査

RIETIの派遣等WEB調査(鶴、大竹、奥平他)が製造業派遣について、

http://www.rieti.go.jp/jp/projects/research_activity/temporary-worker/result.pdf

「正社員との待遇格差によって製造業派遣労働者の満足度が低下しているので、製造業派遣労働者の労働意欲と能力をより引き出すためには、正社員化あるいは待遇格差の是正や自己啓発や求職活動に時間をさけるよう、有給休暇日数を増やす等の対応が望ましい。」とあっけらかんとした調子で言っていることについて。


製造業派遣について、①正社員化、②待遇格差の是正、③自己啓発や求職活動に時間をさける有給休暇増、という提言がどれほど現実性のあるものか、言い換えれば派遣先・派遣元の企業にとって合理的なものか、JILPTの小野研究員DPの製造業派遣C社ヒアリング記録から、関係しそうな部分を拾ってみた。

http://www.jil.go.jp/institute/discussion/2009/documents/09-03.pdf


①-1派遣会社の正社員登用

 少数ではあるが期間の定めのない雇用である常用型派遣労働者(正社員)として雇用されている。年間30~40 人ほど正社員として登用されており、制度として正社員登用があることは、派遣社員にも知られている。登用されるのは、年齢的には20 歳代前半~30 歳くらいまでの若者で、前職、学歴は問わず、派遣先での働きぶりを評価して引き抜く形である。職務は派遣先の指揮命令者のフォロー、ラインの生産管理等を行うリーダー職である。

 年間30~40 人の登用で、C 社の派遣・請負社員の実稼働者約4 万人の中から推薦されることを考えると非常に狭き門である。

①-2派遣先への直接雇用

 派遣先に期間工として直接雇用されることがある。ピンポイントで優秀な派遣社員が期間工として引き抜かれる場合と、製造業務派遣では同一の派遣先へ3 年以上の派遣が禁止されているため、期限切れを見こして期間工として雇用するケースである。一つの派遣先で年間数百人単位で引き抜かれる。技能評価を行っている企業(※)では技能レベルの高いものを選んで期間工に個別採用する。

 ※約2 割の派遣先では技能評価制度を導入


わんわん登録型から常用型派遣=派遣元の「正社員」になる例は皆無ではないが、確率は大きくみても4万分の40。1000人に1人の「狭き門」だ。派遣先とは期間工への転換止まりで、「正社員化」はない。期間工のほうが派遣よりも処遇はよいとは聞くけれど、需要変動へのバッファーであることに変わりはない。「正社員化」は、日本の製造業派遣の場合には現実性に乏しい話だろう。「経済学的思考のセンス」からすれば、<正社員工員の解雇規制が緩和されたらどうこう>という理屈になるのだろうが、人を雇い人が雇われる企業というものの行動に関しては、頭の中で捏ねただけの理屈のような気する・・・平野先生@神戸とか守島先生@一橋の雇用ポートフォリオ論、雇用区分論(例えば労働研究雑誌09年5月所載)のように、理論化されていてもリアリティが強いものと比べるとそう思える。


②待遇格差の是正

②-1技能評価と賃金の関係、
 C 社では一般的な製造業務への派遣に際して、特に細かな能力チェックを行うことはしないが・・・約2 割の派遣先では技能評価制度を導入しており・・・評価の内容は派遣先によって異なるが、派遣先の協力の元で技能評価のフォーマットが作られ、4段階程度にレベルが区分されている。

 技能レベルは賃金に反映される。反映の割合や金額は派遣先によって異なるが、例えばB からA に1 ランク上がると時給で200 円位上がる場合もある。同一の職場で同一の仕事をしていたとしても、技能の習熟程度によって400 円程度の時給差が出ることもある。技能評価の結果は賃金に反映されるので、当然本人に開示されている。A 以上の評価の場合には、技術レベルがさらに高い仕事、例えば設備自体の管理やメンテナンス、中間の管理職などに就くこともある。この場合は、派遣される仕事自体が変わるので当然賃金も上昇する。、派遣先の社内検定等に合格すると、派遣会社での評価が上がり、賃金(派遣料金)に反映される場合もある。これにより数十円単位で昇給する。
 技能評価制度を導入している派遣先は企業特殊技能の習熟に応じて賃金を支払うという理論的に成立する行動をとっている。つまり、労働者にとって技能評価制度を導入している職場にいる場合、経験年数に比例して企業特殊技能を身につけ賃金が上がる。派遣先を移動するより、同一の職場にいた方が賃金はあがりやすい。他社に移動すればこれまで培ってきた能力が消滅し賃金が下がり、一からやりなおさなければならなくなるため、さらなる勤続を望むというロジックになる。

 派遣先にとっては、習熟度の低い派遣社員がラインに入ることによって、品質や生産性が低下することは避けたい問題で、技能評価制度を通じてインセンティブを付け、品質や生産性の維持向上を目的としていると考えられる。また、品質や生産性の維持向上には、企業特殊技能を習得した派遣社員の定着が欠かせないという考えもあろう。また、派遣会社にとっては、賃金の上昇は派遣料金の上昇を意味する。派遣社員の技能が上がり、付加価値が高まることは利益の増進につながる。 

②-2賃金と派遣料金の決定のしくみ

 派遣社員の賃金の決定については・・・「(賃金)相場がない」・・・派遣料金についても、「基本的な基準はない」という。推測すると、例えば自動車の場合、一つのラインでの一日の生産台数が決まっており、その台数を作るにはどのくらいの人数がのべとして必要なのか、という生産計画からの計算と、一方で製品の原価計算から、何人くらいの派遣社員をどのくらいの工数と派遣料金で入れればどのくらいの利益が出るかという計算から導出されると推測出来る。同時に、ある程度の賃金相場と派遣会社のマージンを考慮していると考えられる。例えば、派遣先にすれば派遣料金2000 円で何人くらい入れたら採算がとれるかを計算する。派遣料金を100 円下げればもう1 人入れられる、下げると賃金も下がるので人数が集まるか、その兼ね合いを考えていると考えられる・・・派遣料金の決定が、派遣先の生産計画や原価計算が根底にあると、派遣会社は総額の中で計算して吸収することもあるという・・・買い叩かれる可能性も高い。

  「(市場相場がないだけに=筆者)叩かれやすいですよね。取引を続けたかったらということで、

 (現在の不況下では=筆者)相当赤字覚悟で取引をしなければならない業者も出るんだろうと思

 います。要はメーカーさん主導での価格形成になるとそういったことになるんだ思いますね」(T氏)


 T 氏は、業界もしくは公的な技能評価制度等があれば、製造業務派遣の賃金相場が形成され、安定するのではないかと話していた 


わんわん技能評価とそれに基づく賃金の(若干の)改善は、派遣労働者、派遣先、派遣元それぞれにメリットがある合理的なものだとわかるが、それは派遣料金の枠の中でのささやかな改善に過ぎない。派遣料金は、買い手優位での市場価格という様子からして、レッセフェールでの「待遇改善」は夢想と言うことだろう。

 派遣先社員との均等処遇というのは遠くの国の話だが、「業界もしくは公的な技能評価制度等があれば、製造業務派遣の賃金相場が形成され、安定するのではないか」という話は、一部の企業であれ合理性のある評価制度が存在している事実からして、根無し草の空想とはいえないだろう。問題は、誰が、そうした企業横断的なものを作るのかという点だろう。

 製造業派遣の大口受入先である自動車製造、電機といった業界はそんなことしないだろう--製造コストの一部として「安いにこしたことはない」、派遣労働者のインセンティブ管理や製造ラインの生産性の維持は、派遣先・派遣元特殊的な「技能評価」でしのいでいる(本当に凌ぎきれるのかは、別途の「ものづくり現場の踏査」みたいな試みをしなくてはみえてこないだろうが)。

 派遣元業界側はどうだろう。つくるメリットはあるのじゃないか。T氏のいう派遣先との料金交渉のネタとして、それから「現代のヒトアキンド」的な業界イメージの改善にならないか。国情は違うけれど、フランスの派遣業界が国の職業能力認定と連動した教育訓練基金を労使協同で設立、運営している例もある(労働研究雑誌09年1月号の中道麻子「フランスにおける派遣社員への職業能力開発支援の取り組み」)

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2009/01/pdf/051-063.pdf

 

 ついでに③自己啓発や求職活動に時間をさける有給休暇増の絡みで中道さん@早大の上記研究ノートから以下を引用。このくらいしておかないと、派遣労働者が有給休暇で自己啓発はできないでしょビックリマーク 何の考察もなしに「派遣職員の有給休暇増」なんて書くなよ爆弾鶴さん、というか大竹というか。わんわんわんわんわんわんにゃークマ


  訓練期間中の派遣社員の身分を保障するため, 派遣会社主導の職業訓練

 の実施期間中は,派遣社員と派遣会社の間に「職業訓練を目的とした派遣契約」 

 (contrat de mission formation : 労働法典124-21 条) といった派遣労働特有の

 契約が構築された。訓練期間中に派遣社員が最後に行った契約に基づく賃金が

 派遣会社から支払われ, 職業訓練期間に対する10%の有給休暇補償手当も支

 給される。ただし, 契約終了時手当は支給されない。

JILPTの派遣労働事例調査

RIETI経済産業研究所がWEB調査とはいえ、なかなかきめ細かい調査をしているのに対して、労働研究が本業のJILPTにも一応の中間的成果はあるようだ。はてなマーク


ディスカッションペーパー(2009.5)

「登録型派遣労働者のキャリア形成の可能性を考える―先行調査研究サーベイと企業事例調査から」

http://www.jil.go.jp/institute/discussion/2009/documents/09-03.pdf

執筆は、小野晶子研究員http://www.jil.go.jp/profile/aono.html

※RIETI調査についてのワン公的ブログは

http://ameblo.jp/hidamari2679/entry-10289073575.html


RIETI調査で浮き彫りになっている「派遣労働者のキャリア形成」という重要問題に焦点を合わせたところがウリだろう。事務系派遣、製造業派遣の派遣元企業のヒアリングも行っているが、何より先行調査・研究のサーベイの手際が実にいい(変なほめ方かもしれないが)。


例えば、メインテーマの能力開発、キャリア管理について、DPの知見を思い切り要約すれば、次のような感じになるが、分かっていたこととはいえ、派遣法第30条(派遣労働者等の福祉の増進)にある派遣元の努力義務の空文化を改めて痛感させられる-技術系常用型派遣労働者はその例外。派遣元にそのような「努力」をする合理性、必然性が乏しい現実は、DPの事例が詳しく伝えている。


○事務系登録型派遣労働者のキャリア管理(RIETI調査の「その他派遣」に近い)
 技術系の常用型派遣労働者に比べれば、事務系の登録型派遣労働者に対する能力開発、教育訓練やキャリア支援に関しては、派遣会社からすれば、投資に対する回収のリスクが高く、そのためどうしてもこれらにかける費用は抑えられることになる。

 事務系の登録型派遣労働者においては、教育訓練(OJT、Off-JT)が常用型に比べて乏しいこと、またそれによって技能形成や能力が向上しても、仕事のマッチングに反映されず、特に専門性に乏しい職務においては、年齢が上昇するに従って仕事の数が減っていくことから、登録型派遣労働を通じてのキャリア形成は難しい。

○製造系の派遣労働者のキャリア管理(RIETI調査の「製造業派遣」そのもの)

 製造系の派遣労働者は、製造過程において比較的単純作業で、OJT により技能を獲得し、主に業務は1 種類の幅の狭い技能に従事している。現場ではいわゆる「ふだんとちがった作業」は現場の工場の正社員が行い、派遣労働者は「ふだんの作業」にのみ従事する。

 自らの能力や技能が向上していることを約半数の者が認識しているものの、その技能の向上は賃金に反映されることはほとんどない。また、勤続年数が長くなったとしても、キャリア展開があまり見られず、キャリアの「頭打ち」がおこる。さらに、複数の職場を経験したとしても、賃金の上昇がみられない。これらのことから製造系の派遣労働者のキャリア形成は、かなり厳しい現状にある。

○技術系常用型派遣労働者のキャリア管理

 派遣会社は基礎的な能力で遂行出来る仕事から、より高い高度な技術を必要とする仕事へ段階的に移行させ、派遣労働者の能力の伸長に合わせて移動させていることがみられる。そこには派遣会社が労働者のキャリア形成を考慮して移動させており、派遣会社がある程度主導して行っていることもある。そして、年齢を越えて、より高度な技能を形成することにより、さらに高度な仕事のマッチングにつながっている。


 第30条 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者又は派遣労働者として雇用しようとする労働者に

   ついて、各人の希望及び能力に応じた就業の機会及び教育訓練の機会の確保、労働条件の向上

   その他雇用の安定を図るために必要な措置を講ずることにより、これらの者の福祉の増進を図る

   ように努めなければならない。

 

RIETI調査が製造業派遣について、ある種ノーテンキに

「正社員との待遇格差によって製造業派遣労働者の満足度が低下しているので、製造業派遣労働者の労働意欲と能力をより引き出すためには、正社員化あるいは待遇格差の是正や自己啓発や求職活動に時間をさけるよう、有給休暇日数を増やす等の対応が望ましい。」

といって終わっているのに対して、「そんなもんじゃない」という現実の把握から出発しているのがいい。わんわん


残念なのは、ヒアリングが事務系登録型派遣会社2社、製造業派遣会社1社で止まっているところ。アンケートでは得難い生々しい現実を伝えているが、DPの中では、先行研究の追試、曖昧な部分の明細化にとどまる印象だ。


DPの最後で、「どのようなキャリアを経て派遣労働者になり、今後どのようなキャリアを積んでいくことが見込まれるのか。登録型派遣労働の労働市場から抜け出してキャリアを積んでいる人は、どのような経緯でそこに至ったのか。紹介予定派遣の多くが契約社員であるが、契約社員を希望する者がどのくらいいるのか。派遣労働者に対するアンケート調査の他に、個人へのヒアリング調査による定性的研究を行う必要があろう。」などとしているところからして、研究は途上、DPは一種の研究ノートなのだろう。わんわんにゃー

RIETI派遣等調査

経済産業研究所(RIETI)の労働市場制度改革プロジェクトの一環として、鶴光太郎氏が主査、大竹文雄(大阪大学)、奥平寛子(岡山大学)他で企画、実施したもの。大竹先生のブログで紹介されていて気がついた。

 http://www.rieti.go.jp/jp/projects/research_activity/temporary-worker/result.pdf


派遣等非正規の就業と生活は、厚生労働省の就業形態多様化調査(最新は平19)でもある程度は把握されていたが、RIETI調査は多様化調査で手が届かないあたりまで詳しい情報を提供しているところがユニーク。

 ・日雇い派遣、製造業派遣、その他派遣の3種類に派遣を分け(多様化調査は常用型・登録型)、直用型の

  パート・アルバイトも雇用期間で3分化し、個人請負を含む「自由業」類型も設定した。

 ・生活実態について、家族形態、未婚・既婚、家計維持責任、雇用・年金等加入の有無等を詳しく把握し、さら

  に不安・ストレス・幸福度や間選好、留保賃金といった主観的データまでとっている


調査結果には、非正規類型別の特徴が明快に現れている。

非正規に起因する就業・生活の問題性が低い「期間の定めのない直接雇用(パート・アルバイト)」

=夫婦と子どもの世帯が多い。自分以外が家計を支えており、家計の足しにするべく働いている場合

  が多い。仕事における不満は少なく、ストレスや不安の程度も小さい。幸福度・生活水準は高い。

との対比でみると、製造業派遣や契約社員が抱える問題が際だってみえる。


A. 日雇い派遣労働者

 親との同居が多く、未婚比率が高い。

 小さな企業に勤め、公的保険にあまり加入していない。

 労働日数は少ない方。月収は低め、日払いや半月払いが比較的多い。

 娯楽費や学費のために、自分の都合にあわせて働いている場合が多い。

 正社員の勤務経験は他のグループよりも少ない。

 雇用の不安定さに不満があり、仕事からのストレスや失業の不安も高めである。
B1.製造業派遣
 男性比率が高く、未婚・単身世帯が多い。

 大きな企業に勤め、労働時間が長い。

 労働日数が多く、月収も多いが。睡眠時間が短い。

 自分が家計支持者であり、家計の主たる稼ぎ手である場合が多い。

 正社員として働けないため、製造業派遣を選んでいる。

 正社員になることを強く希望している。

 雇用の不安定、賃金、昇進機会、福利厚生などに対する不満が多く、失業に

対する不安が高い。

 主観的幸福度・生活水準はかなり低いと感じている。

C4.契約社員
 未婚比率は低い。労働時間が長く、労働日数も多い。勤続年数はやや長い。

 家計の主たる稼ぎ手として働いている。

 正社員として働けない、他に選択肢がないため、契約社員の職に就いている

場合が多い。

 特に、賃金が安いことに不満をもっている。

 仕事からのストレスも高めである。


考察と政策的インプリケーションも頷けるところが多い。例えば、

○日雇い派遣

 日雇い派遣労働者の主観的幸福度・生活水準は不安定雇用全体の平均より

やや低い程度である。

 自発的な選択と個人の幸福を尊重する視点に立てば、現在、一律禁止が提案

 されている日雇い派遣労働に対しても一定の評価を与えることができるだろう。

 一方、この働き方は、労働日数が少なく、勤続年数も短いことから仕事を通し

 た技能の蓄積が困難な状況にある。

 つまり、同居家族からの生活支援の下での自発的な就業選択の結果、質の

 低い仕事にはまり込んでしまい、そこから抜け出すインセンティブをもてない、

 あるいは、家族形態の変化(例えば親と死別するなど)に対応できなくなるおそ

 れもある。日雇い派遣労働に関しては、自発的な就業選択を認めつつ、就業

 選択やキャリア開発における同居家族以外の継続的なサポート(例えば、ハ

 ローワークやジョブ・カフェでの就業・キャリア開発の支援や指導)の積極的な

 活用によって、就業選択や仕事内容の質を高めていくことが重要である。


わんわんワン公として一言いわせてもらえば・・・

 経産研らしく?「日雇い派遣廃止」に対しては「自発的選択と個人の幸福を尊重する視点に立てば・・・一定の評価」と書いているが、それは楽観的過ぎるビックリマークと思える。より大きな問題があることに言及しているのだから。つまり、次のような問題。

 「仕事を通した技能の蓄積が困難な状況にある。つまり、同居家族からの生活支援の下での自発的な就業選択の結果、質の低い仕事にはまり込んでしまい、そこから抜け出すインセンティブをもてない、あるいは、家族形態の変化(例えば親と死別するなど)に対応できなくなるおそれもある。」


○製造業派遣

 正社員の経験が高く、正社員としての就業を強く希望しているが、労働時間の

 比較的短い日雇い派遣や1か月未満の直接雇用(パート等)ほどには、正社員

 の職への求職活動や資格取得・職業訓練に時間を割くことができない。

 失業への不安も強い。 

 希望労働時間も長く、労働意欲の高さが伺える。

 正社員との待遇格差によって製造業派遣労働者の満足度が低下しているので、

 製造業派遣労働者の労働意欲と能力をより引き出すためには、正社員化ある

 いは待遇格差の是正や自己啓発や求職活動に時間をさけるよう、有給休暇日

 数を増やす等の対応が望ましい。


わんわんワン公として一言いわせてもらえば・・・

「就業選択やキャリア開発における継続的なサポート」が必要なのは、親との同居型が多い日雇い派遣に限ったことではない。家計維持責任があり正社員志向が強い製造業派遣も同しだろう。そこがうまくいかない構造があることが何より問われるべきでは。

製造業派遣についての「正社員化あるいは待遇格差の是正や自己啓発や求職活動に時間をさけるよう、有給休暇日数を増やす等」という提案は、それ自体否定しないが、それらの実現を阻んでいる壁を解明する作業が必要ではないかと思う。わんわんわんわんわんわんわんわんわんわん 

季労225号/ドイツの請負と派遣

10日ほど前に届いた季労225号の第2特集「ヨーロッパの派遣労働の動向」をやっと開いてみた。印象的なのは、一つは「擬制労働関係」(ドイツ)とか「みなし雇用」(フランス)の規定の効果、もう一つは、hamachan先生が総論的に解説する「EU派遣労働指令」(2008.11.19)の最大争点だった均等待遇原則の現状。


○均等待遇原則

これは、ドイツでさえ真の実現はこれからという実情がよくわかる。知り合いから聞いてはいたが、川田知子先生@亜細亜は、ほとんどの派遣労働者が均等待遇原則の適用除外となる協約準拠の低報酬によっていること、しかも、少数派のキリスト教労働組合同盟(CGB)のダンピング的な協約締結で水準が一層引き下げられつつあることなど、詳しく解説している。


うまい話にはウラがあるということだが、DGB中心に、CGBの協約締結能力を否認する論戦が始められていることにも言及。また、派遣労働の報酬を労使自治の伝統の中に引っ張り込んだと前向きに評価できる点も上げている。彼我の雇用・労使関係システムの違いを改めて感じさせられる話だった。


均等待遇原則は、麗しい理念だが、厚生労働省の「派遣制度の在り方研報告」(2008年7月)が、「背景には、企業を超えた職種別賃金が普及していること」があると前提条件の違いをあげて、日本への導入は当面は困難としている。そのとおりで、有期契約労働問題も含めた中期課題だろう(だが、本気の議論は続けよう)。直近でより重いと思えるのは、一つ目の、「偽装請負⇒違法派遣⇒派遣先と労働者との間に擬制労働関係が成立」とする法規定のあり方ではないか(詳細な解説は大橋範雄先生@大経大)。


○擬制労働関係の成立

いわれるとおり、偽装請負だ、労働者供給だといっても、そこで働いている人をどう保護するのかという法規定が日本法にはない。いろんなひとが、法律の欠陥だみたいなことをいっている。立法時の事情からすれば、前近代的な支配関係下でのピンハネの駆逐というGHG的な「民主化」「近代化」政策の一環なので、公法的な取り締まり法であれば良くて、それ以上の効果は何も期待・想定していなかったのだろうということなのだろうが、想定外の状態になっているということ。


そんな中で、時節柄からも注目された松下PDP事件大阪高裁判決平20.4.25は、発注側(被告)と請負元の契約、請負元とその労働者(原告)の間の契約について、派遣法、職業安定法44条(労働者供給事業の禁止)、労働基準法6条(中間搾取の禁止)に違反し、「強度の違法性を有し」ているので「公序違反」で無効としたうえで、指揮命令関係、労務提供、賃金支払いの実態から、受注側(被告)と労働者(原告)との「黙示の雇用関係」の成立を認めた(ただし、期間の定めのない雇用の成立は否定)。また、その結果と有期雇用契約が反復更新された事実とを合わせて、H18年1月末日の雇い止めを権利濫用、無効とした。


裁判所というのは、何ともみごとな理屈を捏ねるものだと、法律の素人としては感心したり(正直あきれたり)するのだが、そのこと自体は個別事件ごとの司法裁定の常として仕方がない。ただ、職安法44条違反だけで公序違反といったわけではないのが、偽装請負問題に関しては弱い・・・素人なりに思うのは、話題性のわりにノビシロが少ないのではないかということ。


派遣法、労基法違反との合わせ技にしてようやく「黙示の労働契約」にたどり着いたようにみえる。こういうやり方では応用範囲は限られるのだろうなぁと感じたりする。仮に、期間3年の製造業派遣が可能な現在、請負契約の下で派遣労働類似の就労をしている人が同様な訴えをしたらどうなるのだろう。禁止業務への派遣ということにはならず、せいぜい派遣期間を過ぎてもやっていましたという期間制限への違反がありうるか。派遣法違反がないと、違反職業安定法44条違反ではあっても、「黙示の雇用契約」の成立が認められるかどうか???。


請負のように法と現実との間にアヤシイ乖離があるらしく、また、働く側に生活上の不都合、不安定が片寄せされる例が少なくないことが問題視されているときには、ワン公的には、立法論的な盛り上げが大切と思ったりする。その点で、野党3党が派遣法についてだが改正法案をまとめたなかに<派遣法違反の場合には派遣先との直接雇用みなし>が入っているのは、悪くないとおもう。ただし、どこまで本気でまじめに考えたかはしらない。派遣だけでなく請負にも波及するように仕組まなくてはいけないと思うのだが、その辺がみえない。


野党改正案には、製造業派遣の禁止という世間受けしそうな目玉を入れているが、政権交代でそれが仮に実現したらどうなるんだろうか。まじめに考えてもらいたい気がする。今は製造業派遣3年があるから、労働局も「偽装請負」に対するご指導は厳しい(邪推かもしれないが)。しかし、製造業派遣がなかったときがどうだったか。労務供給的請負が電機その他の大手製造業に広がっていたんじゃなかったか(オカミも片目くらいつぶっていたのじゃないか、ゲスの勘ぐりだが)。また、そこにはセーフティーネットが意識されていたか。


製造業派遣は禁止します、請負についてはカタイことはいいません・・・なんてことのないように。ここは、二大政党制下本邦初といっていい政権移動をねらうわけで、労務供給的請負に対しても、擬制労働関係を成立させるくらいの意気込みで、職業安定法の関連規定をを包摂した派遣法改正まで踏み込んでみい~ろろ!! とか思ったりする。こういうことは、ポピュリズム的な公約づくりじゃなくて、二大政党制に必要な哲学の違いを鮮明にする話しであってほしいわけで、同じ遺伝子のグループが権力闘争で割れただけの二大政党では困るのであって。