風のかたちⅡ -8ページ目

コメントいただきました re:アメリカの解雇法制

忙しさにかまけて、メンテナンスも満足にできていないヘタレブログに、アメリカの解雇法理という話題をまじえたコメントをいただきました。コメント欄ではリプライも不便なことから、以下、久しぶりのつれづれ日記。


>「米国における解雇」by米国における解雇さん
>
>誰だよ、「アメリカは解雇自由」なんて言ったのは…。というか、これを解雇自由と言うなら
>解雇自由であったとしても、池田信夫の場合も定年前なんだから正当な事由なくして解雇できないんじゃ

>ね?
>「民法の原則に戻れ」って、こういうことでしょが。素人池田信夫以外にも、嘘つきがいた訳だ。専門家のね
>小倉さんのことじゃないです
>

>> 契約による例外

>> ハンドブックやマニュアルに「従業員は正当な事由なくして解雇されることはない」、
>> 「従業員の解雇の際にはしかるべき手続きがとられなければならない」などと記載されている場合、それは
>> 任意の雇用を否定しており、そうした記載に則った経営側の行為が求められることになるのかどうなのかが
>> 裁判の論点となってきた。80年代おいて、こうした記載がある場合、それは片務的契約を形成しており、
>> 任意の雇用ではないとみなすべきであるとする判例が主流を占めるようになった。
>>
>>米国における解雇
>>http://myoshida64.hp.infoseek.co.jp/Doc-dir/000129.pdf

>>


ワン公の頭では、実に分かりづらいのですが、ワン公流に趣旨を要約すると
1)解雇自由であったとしても、(契約に基づく例外条項があるので?)池田氏の場合は解雇できない。
2)解雇自由原則に契約に基づく例外を認めるアメリカの考え方は、(日本に対しては)「民法の原則に戻れ」

 というインプリケーションになる。アメリカはやっぱりスゴイ、正しい。

3)こういう話にほっかむりする嘘つきの(労働問題の?)専門家がいる。

ということでしょうか。


RE:1)と2)

池田先生が遭遇された事件のことは何も知らないのでコメントしようがないのですが、解雇規制撤廃を持論と

されるご自身が解雇事件の当事者になるというのは、皮肉な巡り合わせというほか申し上げようがありません。


○それにしても、日本の事件になぜアメリカまで持ちだすのやら。日本の労働契約法には「解雇は、客観的

 に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無

 効とする。」(第16条)と明記されているのだから、アメリカの話を持ち出すまでもなく、「先生の契約はこうだ

 から、日本の法律でみて解雇は自由にできない」といえば足りるのでは。米国まで持ちだす理由を推測する

 のに苦労しますが、強いて言えば、


○「民法の原則に戻れって、こういうことでしょ」と続く部分からの推測ですが、<契約ベースの立派なやり方>

 をしている国と持ち上げたかったのか。もっというと、雇用契約は「完備契約にしているアメリカこそ麗しい」と

 か(思いこみでしょうが)。邪推かもしれませんが、池信先生同様の解雇自由論者たる福秀先生が、契約と

 組織の経済学のテーゼもものかわ、無期雇用にも完備契約が望ましいみたいな質問を規制改革会議TFの

 ヒアリングでなさっていたのが議事録でも印象的だったもので。


○アメリカにおける解雇自由原則の例外を形成した判例法理がそんなものではないことは、引用している吉田

 誠教授の文書を読んでも分かるはず。コメントの方の我田引水型引用というか誤読ではないかと愚考。


○ワン公のがさつな理解は、アメリカでは、集団的労働関係は別として、解雇自由の原則が非常に強固なル

 ールとして支配的だった。その中で、限定的ながら同原則の例外となる判例法理を形成してきた--①憲法

 や法律に根拠をもつパブリックポリシーに反する解雇は無効、②当事者間の契約の中に明示又は暗黙の解

 雇制限が含まれる場合は、契約に反する解雇は無効、③契約上の信義則に反する解雇は無効など。


○いずれも、解雇自由の一般原則そのものは大原則としたうえでのささやかな例外のように見える。③のよう

 に、一般原則を揺るがしそうな可能性のある考え方もみられるが、この法理を認める州裁判所は極めて少

 ない。一方、日本の裁判所は、民法627条の解雇自由に対して、より明確な制約を解雇権濫用法理として

定式化し、そのエッセンスが紆余曲折を経て労働契約法16条としてリステートされた。それぞれに、固有の

 社会的・文化的背景や歴史的経緯の中で形成されてきたもので、どっちがよい悪いと一概に言えるもので

 はない・・・個人的には、解雇自由の原則に対する例外の認め方が極めて限定的にみえるアメリカは先進

 国中でもやはり異質。ちょっとついていけない感じです。



RE:3)「素人池田信夫以外にも、嘘つきがいた訳だ。専門家のね>小倉さんのことじゃない」

○どこのだれがアメリカの解雇法理についして嘘をいったのか、ワン公がみているブログ界では思い当たらな

 いが、強いて言えば、中窪先生@一橋の「<解雇の自由>雑感-アメリカ法からの眺め」を引いて、それも、

 解雇自由原則の例外のうちでも最も広範な州の裁判所で認められていた「パブリック・ポリシー原則」に該当

 しそうにみえる事件(しかも、日本人なら「公序違反」と受け取って当然の事案)で、使用者の解雇が認められ

 た判例をあげ、「解雇規制撤廃と言うけれど、解雇自由原則つうのはこういうもんなんですぜ」と親切に教え

 てあげた例くらいしか知らない。


>世界で唯一、一般原則として解雇自由であるアメリカではどういう風になるかというと、これは中窪裕也先生

>が中嶋還暦記念論集に書かれた「解雇の自由雑感」の例ですが、

>>カレンは・・・D社のスーパーマーケットに勤務する、勤続26年のアシスタントマネジャーである。彼女の夫

>>地元の警察の巡査部長であるが、1997年の6月上旬、飲酒運転の取り締まりの際に、ある女性ドライバ

>>の呼気検査を行った。検査の結果、基準を超えるアルコールが検出され、女性は逮捕された。その女性は

>>D社のオーナーの妻であった。8月末、カレンは解雇された。

>もちろん、この解雇は正当です。正当な理由があろうがなかろうが、道徳的に間違った理由であっても、解雇

>は正当です。解雇自由とはそういうことです。アメリカ並みになるというのは、そういうのを当然のこととして受

>け入れるということです。もちろん。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/post-ba7f.html  


○解雇自由こそ労働生産性のためになる風の言説を、アメリカモデルで始めたのは、別に池信先生ではなく

 先生以前から主張されていた大家はいらっしゃったのではないか。尻馬組でも官邸の権威を背景にブイブイ

 やっていた先生もいらっしゃる。それに対して、労働法の常識、アメリカ労働法に詳しい方々は、嘘ではなく、

 事実を仰っていただけだろう。--ちなみに、コメントの方が引用している吉田教授は存じ上げなかったが、

 当時横濱市立大、今香川大の方だとしたら、労働法ではなく労働社会学が専門。

 http://myoshida64.hp.infoseek.co.jp/

 規制改革マンセイビックリマーク アメリカへ~とぉ~草木もなび~く~よ音譜の風潮の中で、解雇規制撤廃万歳とは

 全く逆の問題意識で調べられたもののようにみえる。よくもここまで詳しくと驚いたしだい。予想もしないとこ

 ろで、予想外の引用をされたのを知ったら驚かれるのではないか。


ブログの流れは絶えずして・・・派遣、請負、労供立法の罠

仕事に追われていると、ブログ世界の話題は、かつ消えかつ結んで久しくとどまりたるためしなし、って感じだけど、中止になった労働法学会でのhamachan先生報告予定稿とキャノン・タイマーの話題が気になっていた。

hamachan先生のいう請負法制のネガ⇒ホジ転換、労務供給法制としての再編というのは、労働者にとってどのような意義があるのか、予定稿では正直ピンとこなかった。派遣法の欺瞞とか、有期契約の反復更新は「偽装有期」というあたり、総じていえば、現在の労務供給サービスや有期契約に係る労働法の体系が奇形化しているという点はすんなり理解できるのだが。


「労働法学会大会中止」など

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/post-5bca.html
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/post-8e1d.html

「不良事故が多発する理由、製造請負依存の死角(上・下)」 

http://www.toyokeizai.net/business/strategy/detail/AC/523d7307d7465dc8c5293f541b6a0e3c/
http://www.toyokeizai.net/business/strategy/detail/AC/44dfb22fc8e7ad2fba4e5ebd41f5e9fb/


 キャノンのレポートは、「偽装請負」と指摘されるのが怖くて「現場に入って指導を行うことはできない」、だから「クリーンルームの上部の窓から・・・週1回程度お偉いさんがガラス越しに視察する」「現場には請負しかいないから、普段の管理はいい加減」という。要は、不良品や現場の事故は「請負」のせいというストーリーで、派遣にすれば良いわけでも請負なら全くだめというわけでもないということには、所詮はジャーナリズムだからか、触れていない。

 

 たしかに、請負労働者への元請け側の指揮命令を認めれば、生産管理のなにほどかは改善されるかもしれない。しかし、元来が景気変動への対応や人件費コスト抑制という動機をもつ元請け側に、請負労働者の技能・経験の向上やそれを通じた雇用の安定といった動機を期待するのは無理だろう。


 hamachan先生の「弊害のない労供を正面から認めるべき、むしろ労組労供をモデルに三者間労務供給関係を整理し直すべき、等々」の正直ブットビモノと思える提案は、労務供給的請負の法認、派遣と請負と契約形態は違っても、低技能で労働条件の低い、職業生活の安定や発展を期待しがたい新たな労働者グループを公然化するだけではないのか(と、最初に小耳に挟んだだけならたいていの人がいうのじゃないか)。


 不確実性の増大とかメガコンペティションとかいう企業環境の厳しさと、労働者福祉と、どっちも等閑視できない課題を両にらみするなら、請負企業側の経営能力の向上、請負労働者の技能・経験の向上やそのめたの人事管理ノウハウの向上を求める方が先ではないのか。そうした点が担保された上で、hamachan先生がいうような安全衛生上の元請け側の「指導」(指揮命令と謂わないところがニクイところだが)と同様に、労働者保護の観点で必要な範囲の元請け側の指揮命令or指導を認めるという順序ではないのか。


 上のキャノンのレポートは、請負=悪というオリエンテーション付だが、仮に事実を含むとしたら、製造業現場の堕落じゃないか。どんな経営戦略にしろ、品質管理とか不良品率のコントロールは製造現場の鉄則でしょ。そのために、直接の指揮命令が必要なら、それに合った管理体制にするのが必定では。少なくとも派遣に切り替えれば直接の指揮命令はできる。労務供給的請負であれ製造業派遣であれ、経験・技能レベルに差があるとは思えない、いずれも同じような労働者から募集・採用されているのだから。


 産業に固有の生産工程の特性とか、正社員側の派遣職員管理の負担とか、あるいは同じサービスなら請負の方が割安とか、派遣は3年後には雇用申し入れ義務があるからとかいった下世話な理由か、事情は分からないが、派遣ではなく請負方式を選択するのなら、記事のような腰の引けた請負ではなく、元請け企業としてかっちりした委託管理をするしかないのではないか。


 「立派な」製造業請負の例は、鉄鋼、造船では一般的ではないのか。他に比べても大規模な生産設備、生産工程をもつ産業特性とか、固有の歴史的な経緯とかがあって、他でも簡単に同じようにできるわけじゃないとは推測するが、腰の引けた請負とは違う製造業請負の事例は存在するということだ。そうした産業は、60年代以降、構内協力会社への純化を進めたわけだが、2000年代の景気回復のなかで上のような「中途半端な」請負=労務供給的請負や派遣に転換したという話は聞かない(コスト削減等元請けの要求はきついだろうし、構内協力会社の中に派遣はいないか?といえば、実はいましたという話は耳にするが、それは、元請け側の委託管理の的確性、請負企業側の自立性・独立性要件とは別次元のことだろう。)

 政策的に大切なのは、労働者にとって職能向上や職業生活の展望が望みにくい現行の労務供給的な製造業請負を看過ごさないこと、当面は製造業派遣と「まっとうな請負」とに分化させていくこと、それから、世界同時不況で吹っ飛んでしまった「2009年問題」が(次は何年になるのかしれないが)五月雨で起こるときに、キムタク先生(木村琢磨さん@法政)のいう、4つの選択肢--1.クーリングオフ、2.派遣労働者の配置転換、3.期間工化、4.完全請負化--のなかで、もういちど「まっとうな請負」路線に誘導していくこと、なのじゃないのか。


※それにしても、学会ミニシンポが開かれていたら、われわれ素人には無縁の労働契約理論とか労務指揮権といった小難しい話も含めて、議論沸騰したのかも。アップ残念といえば残念なり。わんわんわんわん



ど~この誰かは知らないけれど♪♪♪

ブログ界では高名らしい経済学部の先生がこんなことを・・・・


 先日の北欧モデル について、もう少し調べてみた。

 北欧をひとくくりにするSachsの話は少し荒っぽく、最近はスウェーデンとデンマークは

 区別して論じるようだ。


「北欧をひとくくりにする・・・話は少し荒っぽく」とか書くあたり、やはり、

「スウェーデンは解雇自由」

とやってしまった、恐るべき"早とちり"、"知ったか"炸裂への反省でしょうか。兎にも角にも正しい認識をもたれたようでなにより。しかし、


 週刊東洋経済 が昨年、特集していたが、EU でも"flexicurity"というスローガンを掲げ、

 雇用の柔軟性(flexibility)と保障(security)を両立させることを目標にしている。


と、"flexicurity"を今頃「発見」されたような調子でおっしゃるのには、正直、爆ロケットロケットでした。

これで、EUの雇用労働政策の専門家と相対していたとすると恐ろしい。

しかしですよ、フレキシキュリティーを「発見」されたのは結構なのですが、それとの比較で


 厚労省の進めている派遣規制の強化などの「官製失業」を生み出す政策より

 いいことは間違いない。


とか続ける当たりが、さすがというか、雀百まで何とやら・・・というか。

派遣法改正法案とか雇用保険法改正案の中身をみて仰っているのか疑問です。どうみたって、独走してきた「フレキシビリティー」に「セキュリティー」を、ささやかに控えめに(何に対してといえば、市場、産業の現実にとでもいうのでしょうが)、対置しようとするものだと思うのです。


それなりに読者がついている先生なのだから、「派遣規制の強化などの官制失業を生み出す」とか、決めつけ口調で仰るには、もっと正確に調べてからの発言をお願いしたいです。hamachanと聞くだけで脳圧が上がるのならば、労務屋さんの最近の連作とかをよくかみしめるとかしてですね。


労務屋さん
http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20090217

http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20090213

http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20090209#p1


できれば、やっぱりhamachanも

デンマークの解雇規制

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/02/post-c511.html

スウェーデンの解雇規制

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/02/post-26ec.html


できれば、学理や社会・人間観に違いはあるかもしれないけれど、

水口先生の「スウェーデンが解雇自由だって?」とその続編も

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2009/02/post-1479.html

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2009/02/post-0148.html

テレビ2題・・・雇用失業問題

派遣法・・・設計ミスの建造物をどうする。

85年法と現派遣法を比べてみると、コンセプトの違う増改築を重ねた建物をみるような感じがする。もともとが事業者規制、労働者保護、労働力需給調整の3面性があるのだが、需給調整の部分が肥大する一方で、労働者保護の側面は等閑に付されてきたというべきだ。


09年改正法案について

日雇い派遣の原則禁止のような話題性の高いところはおいといて、地味目なところでいえば、派遣労働者の雇用の安定、待遇の改善のために

・常用型を安定的な派遣類型としたうえで、「期間の定めのない雇用」として整理することを派遣元

 の努力義務とした点

・派遣先労働者の賃金決定に当たって、従事する同種業務の賃金水準を考慮要素の一つとする

 ことを派遣元の努力義務としたこと

・違法派遣について派遣先に雇用申し入れ勧告をなしうるとしたこと

など、評価してよいのではないか。労使それぞれの主張を考慮した慎重な対応になっているのは、労働行政の常套手段、努力義務に基づく行政指導という漸進的な対応として理解するほかない。


製造業派遣の禁止とか85年法当時への回帰といった手法は、派遣労働者の失業等、危険性もある(現下の雇用情勢の急速な悪化もある)だけに取りえないことだと思う。均衡処遇の推進は、ようやく緒に就いたところ、労働側がもとめた「法律上での均衡処遇原則の明記」にはほど遠いが、その方向を確信をもって進めてほしいと思う。


オランダ型へ一気にというわけにはいかないことは百も承知だ。しかし、例えば、自動車生産ラインの正社員、契約社員(期間工)と派遣労働者の間にある賃金格差は、従事している仕事、従事した期間からして正当な格差だろうか。疑問である。欧米のような職務給の世界ではないといいながら、製造業のライン労働は、今回派遣切りで話題になったような大手企業ならば、自動車であれ電機であれ、産業内での業務の類似性、賃金水準の相場性があるはずだ--正社員には蓄積された企業特殊技能やそれをベースにした判断、対応能力等のプラスアルファ分があるとはいってもだ。そのほかにも、業務内容や賃金水準に類似性がある業種、業態が見いだせるのではないか。実際にどのように「均衡」を指導するのか難問かもしれないが、労働者の処遇の向上という重要な目標がある。


事業規制の点では、今週のエコノミストで業界側から許可基準の厳格化の提起があったのは傾聴すべきだ。

①派遣免許の厳格化が必要。具体的には資本金の規模による規制だ。

②派遣契約が切れても労働契約はなくならないから、派遣会社は賃金を支払わなくてはならず、

  財務体質が弱い企業は賃金補償が出来ない。

③雇用保険の未加入や労災保険の適用逃れも財務体質の弱さに原因がある。


大手にとっては結構なお話しと冷ややかになれないのは、過当競争がダンピングやコンプライアンス軽視・無視を生み、競争コストが専ら労働者側に転嫁される結果になっていると考えるからだ。寡占化とまでは言わないが、一定範囲の体力のある事業者による派遣事業に誘導することが、雇用の安定や待遇の改善などにつながるのではないか。市場競争重視の立場からは唾棄される提案だが、どんなものだろう。

 

こう考えるのは、派遣法の四半世紀を頭の中で整理してみようとして(実は全然できないのだが)の暫定的思いからだ。ワン公程度の頭では整理がつきにくい複雑な法構造だ。


○85年法の柱は大きくは次の二つと理解。
(1)13業務を政令で指定するポジティブリスト方式
(2)業者規制としての届出制と許可制、これと表裏の類例としての常用型と登録型


政令13業務は、①専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務、②就業形態、雇用形態等の特殊性により特別の雇用管理を行う必要がある業務。職業別の外部労働市場が形成されており相対的に高賃金とされた。また、労働側の危惧はあったとしても、常用代替は業務の性質上ありえないという認識だった(国会での協議を通じて運用上では常用代替防止のための期間制限が設けられたとしてもである。この制限も2003年には廃止された)。

この建前は、一部に実態と異なるものが紛れ込んでいたとしても、破綻はしていない。法制定時のことだから当然だが。

 ※ファイリングのように、理屈と実態が合わないものが紛れ込んだのは、均等法以前の
  女性労働者の就業構造(いわゆるM字型)と絡んだ事務処理請負の存在を反映した
  ものと理解。警備、港湾、建設という3業界・3業務についてネガティブリスト化している

  点は、個別業界事情に起因する別次元のエピソードだろう。


○99年法から03年法/異質のものが入り込み、法を奇形化した。商取引を雇用の根拠とする派遣労働の不安定性を増幅した
(1)政令13業務が96年には26業務に拡大しているが、ポジティブリスト方式と、その理屈に変わりはないが、
(1')原則自由化=ネガティブリスト化という別思想が入り込み二重構造になった。


自由化業務は、85年法の政令業務が想定する<職業別労働市場が形成され相対的に高賃金>という性格は、当然ながらない。常用代替も危惧されて法律上に派遣期間の上限1年が明記されたのは当然のことだ。

<職業別労働市場が形成され相対的に高賃金>ならばこそ、<派遣事業者も高収益、良好かつ健全な派遣市場の形成>も期待されたはずだが、こういう前提条件が崩れれば、需要側(派遣先)と供給側(多数の零細な派遣元)との力関係の差によってダンピングが起こる、遵守すべき法規定の潛脱が広がる、などの結果として、商取引のリスクが労働者側に重く転嫁される・・・賃金が低いだけではない、途中解約なのに残余期間分の賃金支払いも解雇予告手当もない、雇用保険にも未加入だった等の話はこうしたことの結果だろう。


自由化と抱き合わせのようにして、

(3)直接雇用促進の思想がはいってくる・・・派遣期間経過後の派遣労働者への雇用契約の申入れを努力義務化。2000年12月創設の紹介予定派遣もこの派生系・・・が、自由化=不安定性の増幅に対してはあまりにささやかな補償である。


(3)直接雇用の促進は、「自己の雇用する労働者を他の者の指揮命令下で使用させる」という85年法の基本からの逸脱、木に竹を接いだ措置であるだけでなく、実効上も、派遣先(需要側)は、<必要なときに必要な質量の労働力を(募集採用コストなしに)調達し必要でないときには速やかに解約できる>ところにメリットをみているのだから、派遣労働に直接雇用への移行ルートを開いても、その道幅が広がることは期待できない。紹介予定派遣のような周到な制度を設けた場合でも直接雇用に結びついた労働者数は32,497人と、派遣労働者数約381万人に対して1%にみたいないのだ(19年度派遣事業調査)。


(4)ILO181号条約に基づき派遣労働者の保護も強化されたが、個人情報保護、苦情申立による不利益取扱の禁止、社会保険の適用関係の徹底等は、需要側(派遣先)と供給側(多数の零細な派遣元)との力関係の差のもとでは、コンプライアンスの点で問題のある事業者が跡を絶たず、保護の実効性の面で甚だこころもとない。


03年法・・・(1')製造業派遣の解禁、自由化業務の派遣上限期間の3年への延長等で自由化を一層すすめたは、99年法の徹底であり、一つの到達点。規制改革会議は当時一層の緩和措置をもとめていたが。これに対して、(3)直接雇用の促進・・・雇用申入れの義務化、紹介予定派遣の事前面接解禁、(4)保護措置の拡充、(5)派遣先労働者との均衡処遇として、福利厚生の均衡に係る努力義務を規定、などは、自由化=不安定性の一層の増幅に対しては極めて不均衡な手当にとどまる。