非正規問題の取組み/あるいは労働組合が「壁を壊す」 | 風のかたちⅡ

非正規問題の取組み/あるいは労働組合が「壁を壊す」

京都市女性協会のような事件は、憲法17条、労基法3条の「社会的身分」ではないが、野村正實先生のいう意味での「会社身分制」というものが日本の雇用管理の基底に存在し続けている中でのものだ。

●京都市女性協会事件・・・特段変な判決ではないのだが

 http://ameblo.jp/hidamari2679/entry-10299754378.html


こうした現実のもとで働く人の間で「不合理な労働条件格差」と感じ取られているものがあることは間違いなく、それは、法律論風に言うならば、「およそ人はその労働に対し等しく報われなければならないという均等待遇の理念・・・・人格の価値を平等と見る市民法の普遍的な原理」(丸子警報機事件長野地裁上田支部判決)に反するもの、「労働者の人格的利益としての職業能力やその実現の成果を侵害する」(浜村彰先生)ものなのだろう。しかし、そうはいっても、


特定の労働がいかなる価値を有するかを評価する基準が確立し・・・いかなる賃金が支払われるべきかの判断基準が確立しているとはいえない、年功的要素を考慮した賃金配分方法が違法視されているとまでは言い難い等、京都地裁が上記事件判決で示した認識はまさにそのとおりで、賃金処遇の格差を「均衡処遇の原則に照らして不法行為を構成する」ためのハードルは実定法や判例法理の現実から見て、決して低くないと思う。


大上段にふりかぶって言えば、「人格の価値を平等と見る市民法の普遍的な原理」、「均衡処遇の原則」というものに至る道筋はいくつかあるのだと思うが、どれも、当事者の人たちの営みの積み重ねで開かれるものだ。労務屋さんからの孫引きで恐縮だが、ゲンダ先生の一節「根本的な問題があることくらい、わかっている。一朝一夕には解決しないから、根本なのだ。本当の関係者は、一歩ずつ解決策の積み重ねを、地道に模索している。」なのだ。わんわんわんわんわんわん



当事者にとって--労働者側にも使用者側にも--精神的、肉体的、金銭的、時間的コストの極めて大きい訴訟という道筋も「一歩ずつの解決策の積み重ね」として無くてはならないものだが、労働者の集団と使用者の間での考え方や利害の差をねばり強く調整する労使関係の道筋も依然として有効かもしれない、と中村圭介先生の『壁を壊す』(H21.5.29、第一書林)を読んでみて思った。正直なところ、連合が非正規組織化の方針を打ち出し取り組みを強化していく、とかいうニュースに接しても、所詮は画餅と思っていたのだが、日本の企業別組合の地道な努力という道筋も捨てたモノではないと思った。

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職場に非正規労働者が量的に増えて、労働組合の代表機能、発言機能が危うくなっているという現実に目を向けて、なんとかしなくては!と思い立ち、かつ頑張って結果を残した10の労働組合の組織化の事例だ。


中村先生のことなので、のっけに「連帯、友愛、団結」といった理念だけでは人も組織も動かないと熱冷ましな台詞を言っておいてから、それぞれの組合がどんな已むにやまれぬ事情で非正規の組織化にとりくまざるを得なかったのか、会社側はどのような事情でそれに「理解」をみせるようになったのか--中には、非正規労働者が企業外ユニオンに駆け込んで裁判闘争に発展なんていう、企業と企業別組合にとっては苦い事情も混じっていたりするが--、それから、クミアイってナニ?どんなメリットがあるの?と率直に聞かれることもあるなかで、どのようにして非正規の人たちの加入にこぎ着けたのか・・・などを書く。


坦々とした中村圭介調にしようとしているようにみえて、組織化に成功し、非正規の人たちの処遇にささやかだが着実な改善が現れるあたりを書くときの調子には、先生、のってませんか?みたいな感じもあったりする。が、それは、それでいいのだ。「電報文のような文体」とか、ドーア先生にいわれていた(と記憶する)中村先生でも、こういう、世の中にとって良い話を多くの人に広めようというときには。


小さな新書を開いてみようと思ったのは、家のお嬢が持っていたからという以上に、上の京都の事件で、原告・女性嘱託職員が他の嘱託職員と一緒に賃金の改善の要望書を出して集団のボイス機能によろうとした一面もあったのに、既存の労働組合との支援関係とか判例からは全く読みとれず、これがもう少し労使関係的なベースにのっていたらどうなっただろうか、とか、丸子警報機では労働組合の全面的なバックアップがあったのじゃなかったか・・などと思ったせいだ。


中村先生の本には、組織化した後、正社員だけではない利害も一様とは思えないグループを含めた組合運動の難しさとかみたいなところの話は、実は出てこない。


異質な集団を加えたことで組合組織が活性化していくというメリットだけでなく、本当はいろいろとありうるのではないか--組織化以前の組合討議とかで出たと紹介される、正規と非正規の利害のトレードオフの問題、賃金や、もっと深刻な雇用そのものに関わってそれが出たときに組合としてどう対処していくのかなど、これからの問題なのかもしれないが、前途は平坦だとは思えない。


ただ、それにしても、「本当の関係者」が「一歩ずつ解決策の積み重ねを、地道に模索している」話を教えてもらうのは、日本の社会の未来も捨てたモノではないな、なんて思えたりして全く悪くない。わんわんわんわんわんわんにゃーにゃーにゃー