さて、NGT筑波大事件の判決日が近づいてきました。

 

2024年3月27日  13:10

東京地方裁判所   631号法廷

 

ここで、事件の主な争点と今後についておさらいをしておきたいと思います。

 

事件の主な争点は

1 論文は、名誉棄損であったのか

2 大学内での手続きは適法であったか

です。

 

これは、裁判長から心象として発言されており、原告も同じ意見です。恐らく両被告とも同じ認識です。

 

で、これまでの第1審では争点2「大学内での手続きは適法であったか」については、込み入った審理がなされてきました。

が、名誉毀損の成立そのものについては、あまり踏み込んだ審理はなされなかったように感じます。

 

 

ところで、被告大学は、原告本人尋問の反対尋問で、平山教授がどの程度調査を行ったのか質問しました。

 

 
これは、一見すると、被告大学が原告平山教授を責めているようみえます。
しかし、そうではありません。この反対尋問を通じて、むしろ原告平山教授が必要な調査を尽くしていることが立証されてしまいました。
 
被告大学代理人は
 
「関係者(今村、中井、荻野の各氏)へ取材しなかったのはなぜか」
と問い平山教授は

「直接調査は警察のような捜査機関でなければ難しい」

「今村さんは説明責任を果たさずメディアに出てこない。取材拒否は明白と考えた」

 

と答えています。

 

あまりにも当然の応答ですが、ここで平山教授が可能な限りの調査は尽くしていることを証言しています。

これは、質問する前から予測される証言です。

訴訟法上しなくてもいい反対尋問で、あえてふれなくてもいい事柄です。

 

本来なら被告大学は、

平山教授が調査を尽くしていない、

と立証して、平山教授の論文の妥当性を否定する立場です。

しかしながら、実際には「調査を尽くしている」旨の証言をさせてしまったのです。

なんで、こんなオウンゴールにみたいな質問をしたのでしょうか。

 

それは 論文が名誉棄損に当たることの立証を、そう主張しているヴァ社に求めたからです。

 

もとはといえばヴァ社(当時AKS)が

 

論文が名誉棄損に当たる

 

と主張して大学と平山教授に内容証明を送ってきたことに始まった本件において、学内手続きにおいてはもちろん、裁判開始後もヴァ社から論文が名誉棄損に当たる旨の積極的な立証がありませんでした。

ヴァ社からは、

「インタ-ネット上の根拠希薄な噂によって書かれた論文で、事実と異なるから名誉棄損に当たる」

と主張はありました(消極的立証)。しかし、事実を事実たらしめるような立証(例えばAKB総選挙の投票実績の細かいデ―タやその計数過程を挙げて、世に言われるような「不正」がないことの証明)について、積極的立証はありませんでした。

 

わざわざAKSの希望どおり論文削除してやった被告大学にとっては、AKSの立証活動の弱さは、歯がゆかったはずです。

 

このことは平山教授が論文執筆にあたって「関係者」に取材したとしても、インタ-ネットの噂を否定するような素材にたどり着かなかったであろう、ということでもあります。

 

いままで、本件は平山教授と筑波大学の間の「お家騒動」の様相をていしていました。この流れのなかでヴァ社は平山教授や被告大学に比べると主張、立証をしていませんでした。冒頭あげた 事件の争点1「論文は、名誉棄損であったのか」が、あまり審理されなかったことはすでに述べました。そして、裁判長の心象によれば「コンプライアンス委員会の調査委員会」(乙4号証)から「系委員会での論文不受理決定」(乙11号証)への連続性が不明であるとされており、争点2「大学内での手続きは適法であったか」ついては裁判所の心象は良くないのです。

 

すると、大学は 争点1「論文は、名誉棄損であったのか」に賭けたくなります。争点2で負けても、争点1で勝てれば裁判に勝てます。「名誉棄損被害の救済」は、「正当な学内手続き」より法益が高いからです。

 

被告大学による反対尋問のあとヴァ社による反対尋問がありました。傍聴していた私から見て代理人はかなり感情的になっていました。被告大学がボールを原告でなく、ヴァ社に投げたからだと思います。

 

論文が名誉棄損に当たることの立証するためと思いますが、選挙結果の数値に関する質問で、ヴァ社代理人から

 

地球に生物が住める確率

 

という珍論が出てきました。ヴァ社において論文を名誉棄損とすることの「積極的立証」が困難であることが発露した瞬間です。

 

判決がどうあれ、本件は確実に控訴されるでしょう。そして、控訴審での争点は「名誉棄損の成立」となり、「選挙違反の有無」がクロ-ズアップされていきます。

 

考えてみると、大学が無理くり論文を削除したのはヴァ社から「名誉棄損である」という強い主張があったからです。

学内調査委員会で「名誉棄損でない」という結論(乙4号)がでているのに論文削除を維持したのは、とりもなおさずヴァ社が名誉棄損だといったからです。

 

一審では

原告 vs 被告大学 & ヴァ社

でした。

 

控訴審では、名誉棄損の立証に関しては、

原告 & 被告大学 VS ヴァ社

となる可能性があります。

 

被告大学とヴァ社、ともに被告ではありますが、実は

同床異夢

なのです。

 

判決日が待ち遠しいですんね。