6/4(火)、同門の樋口一朗さんのリサイタルへ。

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1曲目のバッハ。
一音目から引き込まれました。
深淵、闇、絶望、慈しみ、希望、光…それらが押し寄せてくる。
深い深い闇-海の底なのか宇宙なのか地の果てなのか-の中での孤独。
一向に光は射し込まないけれども何か蔓のようなものを手繰り寄せながら、或いは攀じ登りながら、ある方向へと向かって辿々しくも歩みを止めず導かれるように進んで行く。
その道筋こそが一筋の光に見えてくる。

そんな世界(音楽)の中にいながら、私にはふと砂が見えた。
フッと風が吹きサラッと舞い上がる砂。
刻々と変わる風紋。
"刹那"という言葉が浮かんだ。

その後休憩中にプログラムに目を通していると、ご挨拶のところに詩のようなものが書かれていました。


砂…
終演後にご本人に聴いてみると、この詩はご自身が書かれたものだそう。
私が見た砂は、彼の人生観、世界観だったのだなぁ。。。

普段、一朗さんとお話しする時の柔らかくおおらかな雰囲気とは違う、張り詰めて研ぎ澄まされた面が垣間見れたバッハ。
バッハに続くラヴェル、グノー=リスト、後半のスクリャービンは、楽器の可能性を活かした響き(様々な質感や表情)、そして"計算通り"ではなく敢えて"即興性を加える余白を残した計算"(←これ伝わる⁇)が聴いていて楽しくワクワクした。
響きが渦のように円を描きつつ、円の下から上へと勢いをつけて跳ね上がるエネルギーとか(←これも伝わるかな〜⁇)、そういう緩急が引力を伴い、聴いている者は吸い込まれていく。

最後のアンスピは今までのプログラムのどれとも違う、やはりショパンらしい響き。
バッハ、ラヴェル、グノー=リスト、スクリャービン 、ショパン、それぞれ全く違う。
バッハを聴けば「あぁこの方のバッハ良いなぁ。この方はバッハが向いているなぁ。」と思うし、次のラヴェルでは「いやラヴェルも良いなぁ。ラヴェルも向いてるよね。」と思うし、全部そんな感じなのである。

アンコールのアヴェ・ヴェルム・コルプスは涙が溢れた。

全体を通してピアノの可能性を活かした様々な響きが紡ぎ出され、そして素晴らしい色彩感!
絵画が好きでご自宅にも沢山絵を飾っているそうで、筆圧を変えるような表現や色を混ぜて空間に描いていく色彩溢れる演奏は絵画的でもあった。

詩的というか文学的な演奏でもありつつ、フッと絵画的な表現に移ったり…
色々なものを聴かせて頂いた、だけでなく、見せて、読ませて?頂いたような感覚になる素晴らしいコンサートでした。
ブラボー!!

終演後の樋口一朗さん


この日のピアノ、柴崎幸平さんによる調律も素晴らしかった。
ピアニストが実現したい事を見事にサポートされた調律師さんの陰のお力にも拍手!!



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