扇子で顔を隠しましょう。
私の顔を見られぬように、
貴方のお顔を見ぬように。
秘密の恋の内容は、
秘密を持ち合う
あかさたな
烏が鳴くまで
いみしちに
酔いも覚めたら
うくすつぬ
貴方の背中が
えけせてね
紅い扇子はおこそとの
大判小判でおこそとの
扇子で顔を隠しましょう。
私の顔を見られぬように、
貴方のお顔を見ぬように。
秘密の恋の内容は、
秘密を持ち合う
あかさたな
烏が鳴くまで
いみしちに
酔いも覚めたら
うくすつぬ
貴方の背中が
えけせてね
紅い扇子はおこそとの
大判小判でおこそとの
逆回転の時計を作ろうと思いついたとき、自分の部屋でその天才的な閃きに我ながら震えた。
時間を司るそれを自分の思惑で作り変えるその傲慢さに、心臓が高鳴った。
ロマンに、妄想に、SFに、どうなるのだろう。
その日から毎日はその事一色に染まる。
友達とも遊ばなくなった。
晩御飯もそれ程大切なものではなくなった。
学校は本当に義務でしかなくなった。
一日の本番は家に帰ってから部屋に籠もって設計をし、組立て、失敗をする時だった。
そして、毎晩布団に入ってあれこれ想像しては夢中のまま夢の中に入ることが楽しみになっていた。
そんな日々が続いて、大抵の時計の仕組みは覚えたし、作る事も壊すことも自由になった。
そして、とうとう出来上がる。
逆回転の時計。
コクコクと針は時間を戻していく。
震える程の感動が身に沁みていく。
カチカチと秒針が部屋に響きつづける。
結局、何も起きなかった。
何も起きなかった。
何も起きなかった。
時計の針を戻しても、針が戻るだけだった。
「どうしたってさ俺もお前も何か食わなきゃ死んじまう。何か食ったら食った分出さなきゃ腹が破裂して死んじまう。お前がどんだけ格好の良い事を言っても、哲学やら真理やらを語っても、お前の大嫌いな、お前が言う所の、「人間の動物としての卑しさ」に帰ってくるんだよ」
「だから何」
「いいか、お前が大好きな村上春樹はデビュー作で「放って置いても人は死ぬし、女と寝る」と書いたんだ。そういうもんなんだよ人って。まさか自分が他の生き物より一段上の存在だなんて自惚れちゃいないだろうなお前は。」
「春樹は語るに値しない事の一例として書いたんだ。そして俺はそんな自惚れなんかしちゃいない。人間としての卑しさに留まる事が酷く苦痛なだけなんだ。自分が生物だということを忘れた訳じゃないが、生物のままでいいとも思っちゃいない」
「生物としても真っ当に生きれていないお前がいう事じゃないし、有名人や作家をファーストネームで呼ぶ人間はただ気持ちが悪い。コメディアンをさん付けで呼ぶよりもずっと」
「考えも無しにそうなっている人間と、考えた上でそうなっている人間を同じ棚に並べないで欲しいな」
「考えがどうのこうのは分からないが、見かけ上一緒なんだからしょうがないだろ。俺から見れば、今のお前は子供の無知な理想に大人の屁理屈を塗って乾燥させた像みたいなものだ」
「俺から見れば、お前は後は死ぬだけの動物だ。そこまで考えがしっかり固まったらあとは作業しかの凝ってないんじゃないのか」
「まさか、人生はクリエイティブな物だと思っていたのか」
「そうか、どうしたってさ、無理だな」