「もう十一時だよ」
私は彼を起こす。奥さんの居る家へ彼を帰す為に。
彼はシンデレラ。十二時には魔法が解けて元の姿に戻ってしまう。
「あぁ、もうそんな時間なんだ」
ネクタイを締め、見せ付けるように指輪をはめて上着を羽織る。
実際、ように。なんてものじゃなく私に見せ付けている。私が分不相応の願いを持たないように。
釘を刺す代わりに、指輪を差す。
でも、しっかり線を引いているようで彼は油断している。じゃなきゃ、私を目覚まし代わりに使ったりはしない。
油断なのか、安心なのか、その両方なのか知りたくも無いけれど私は私のランキングを知る。彼の中での。
まるでジャニーズ、今ならAKBのように。覆らないランキング。護られて、作られて、虚構を事実と勘違いするまで完璧に造られたランキング。
私は、私は、私は。
私は儚い願いなどとは思わない。
恐ろしい願いを抱えている自覚がある。
いつか願いは叶う。というか叶わせる。
手を繋いで歩きたい。堂々と。
そして、欲求はエスカレートすることを知っている。
そして、私にはその覚悟がある。
自分の行為の代償を、罪を、意味を、知っている。
友人は、そういう私を知ると、じゃあいいんじゃない。と言う。
責任を取れるならいいんじゃない。と言う。
本当は、そんなの責任とは呼ばないけれど。
寝顔を見ていると、このまま起きない様にしてしまおうか迷う。
他人の顔をして玄関を出て行く彼を見て、震える程の寂しさに酔う私が居る。
私が欲しいのは彼ではなくて、お手軽な不幸なのでは無いかと思ったりもする。
けれど、
全身で寂しい。
底なしで、全身で。
私は街を歩く夢を見る。