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ヒズモのブログ

本好き、映画好き、落語好き、卓球好きのパート社員です。

東 直子 著 『とりつくしま』  (2011年5月)

ちくま文庫  定価:660円(税込)

 

2007年発行単行本の文庫版です。この本、WOWOWオリジナルドラマ『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年のこと 』を観ていて書店員さんおすすめの本に出てきて知りました。

ふしぎな本でした。こういうこと、本当にあるかもしれないな、と思いました。その時が来て、とりつくしま係さんが自分にも来てくれたら、私の「とりつくしま」は何だろうと想像しました。

 

 

筑摩書房の紹介文です。

『死んだあなたに、「とりつくしま係」が問いかける。この世に未練はありませんか。あるなら、なにかモノになって戻ることができますよ、と。そうして母は息子のロージンバッグに、娘は母の補聴器に、夫は妻の日記になった…。すでに失われた人生が凝縮してフラッシュバックのように現れ、切なさと温かさと哀しみ、そして少しのおかしみが滲み出る、珠玉の短篇小説集。』

 

番外編も入れて11の物語です。主人公はこの世に強い未練を残して亡くなった人。あの世からこの世にモノになって戻ることができるという設定がすごく新鮮でした。11篇とも、心に響く物語でした。生きている人間はこんなこともあるかもしれないと思って毎日を大事に過ごさないといけないなと思いました。

 

文庫版あとがきに著者がこう述べておられます。

「「とりつくしま」を考えるということは、死んで間もない人のことを考える、ということになります。誰でもその身に潜ませている「死」を考えることでした。実際に書きはじめる前に、頭の中で、なんらかの未練を残して亡くなった人を想定し、さらにその人が生前一番大事に想っていた人のことを考えました。物になって、大切な人に再会した死者たちが、どんなことを呼びかけたいと願うのかを。」

 

そして、それぞれの物語のラストシーン、じんわりと温かい気持ちになりました。特に私が好きだったのは「名前」と「日記」でありました。

この本を教えてくれたWOWOW出演の書店員さんに感謝です。

 

お読みいただき、ありがとうございます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

工藤勇一・青砥瑞人 著 『最新の脳研究でわかった!自律する子の育て方』 (2021年5月)

SB新書  定価 : 990円 (税込)

 

2019年9月26日放送のカンブリア宮殿は「学校教育の「当たり前」を変えた!驚き公立中学校」であり、当時、千代田区立麴町中学校の校長、工藤勇一氏が出演されておりました。宿題や中間・期末テストの廃止等を行い、「子供の自律」を学校の最上位目的として改革をすすめる工藤校長と自律していく生徒の姿を観て、本当に驚きました。

この本は、工藤氏の実践と、青砥氏による脳神経科学からの理論補強がされており、「自分で考え行動する人間」になる為に何が必要か、大変勉強になりました。

 

 

SBクリエイティブの紹介文です。

ほめるか?しかるべきか? 子どもの自律を阻む教育の新・常識とは?
キーワードは「心的安全」と「メタ認知」だった!

学校の当たり前を覆し、全国が注目する学校づくりを実現した麹町中の工藤校長。
手をかけるほど子供の自律を阻むというメッセージは驚きと共感を持って、多くの人に広まりました。
今回、脳神経科学の世界で注目を集める、青砥瑞人先生との、「麹町研究」によって、脳科学的にも正しい子どもの育て方があることが立証されました。
これは既存の教育の思い込みを正し、「未来の教育」を模索していくために、旗となるべき成果です。

今回、教育と脳神経科学という異ジャンルの二人が共著として、教育・学力・子育ての大誤解を解きながら、未来を創る「当事者意識のある子ども」を育てていくためにどうしていけば良いか、それをわかりやすくまとめました。

全国が注目した、麹町研究の衝撃的な中身とは?
全国の保護者・教育関係者のバイブルとなるべき1冊!

 

目次は次の通りです。

序章 … いま、教育現場で何が起きているのか(工藤)

第1章 …心理的安全性とは何か-ストレスと脳機能のメカニズム(青砥)
第2章…子どもが安心できる環境をつくる(工藤)
第3章…メタ認知とは何か-自己成長に不可欠なスキル(青砥)
第4章…子どものメタ認知能力を鍛える方法(工藤)
巻末特典…心理的安全性をメタ認知するワーク(青砥)
おわりに(工藤)

 

私の心に響いた言葉を本の前半部分からご紹介します。

 

「このような激動の時代において最優先されるべき個人の資質は、自分で考え、判断し、行動できることではないでしょうか。私はこれを「自律」と呼んでいます。」(P10)工藤

 

「学校の最上位の目的が「子どもたちに社会で生きていく力を身につけてもらうこと」だと考えれば、教育目標は時代の変化に合わせて常にアップデートされていくのが正しい姿です。」(P11)工藤

 

当事者意識をもった子どもたちが社会にでていくことで、はじめて幸福な社会が実現する。これがこれからの世界標準の教育目標なのです。」(P12)工藤

 

「「学び」と「幸せ(ウェルビーイング)」。私はこの2つこそが教育の究極的なゴールではないかと思っています。すなわち子どもたちの脳を「率先して自分を成長させられる脳」かつ「率先して幸せな状態をつくることができる脳」に育てることです。」(P29)青砥

 

「同じミスを繰り返す子どもがいたとすれば、「子どもに問題がある」と考えるのではなく、「大人がそれをどう伝えているか」にも意識を向けてみてはいかがてしょうか。」(P59)青砥

 

「私が感じている日本の教育の課題は、ドーパミン性のモチベーションを活用できる場面がほぼ皆無だということです。子ども本人の「やりたい」または「どうしたいか」という気持ち大人の都合で無視される場面があまりに多いことが、子どもたちの学びの弊害になっているのではないかと考えています。」(P74)青砥

 

「周囲からいつもダメ出しをされたり、問題児のレッテルを貼られたりしている子どもは、ネガティビティ・バイアスによって自己否定に陥っているケースが多いわけであり、その状態から自己肯定感を育んでいくには、自己肯定感が高められる環境にどっぷり身をおき続ける経験をしないといけません。具体的には次のような環境です。

・否定されない ・自分の意志が尊重される

・失敗が咎められない・他人と比較されない

・できていることをちゃんと評価される

・成功体験を積むことができる  

・自分の成長を実感てきる。

まさに工藤校長が麹町中学校で実現した環境です。」(P77-78)青砥

 

安心できる環境をつくることと、ストレスに強い脳をつくることが同時にできる魔法のような言葉があります。麹町中学では「3つの言葉がけ」と呼んでおり、子どもに何かトラブルが起きたとき、全教員がその対応方法の指針としているものです。もちろん、保護者にもできるだけ家庭で使ってもらうよう紹介しています。その言葉とは以下の3つです。

 

1. 「どうしたの?」 (「なにか困ったことはあるの?」)

2. 「君はどうしたいの?」 (これからどうしようと考えているの?)

3.  「何を支援してほしいの?」 

  (「先生になにか支援できることはある?」)

 

これは全国の学校や家庭、職場ですぐに使うことができます。

(P91)工藤

 

その他、常識と思っていたものがそうではないという内容がいっぱいで、大変興味深く読みました。おすすめです。

 

 

 

 

 

 

 

桜木紫乃 著 『ふたりぐらし』 (2021年3月)

新潮文庫 定価:649円(税込)

 

書店で文庫の新刊コーナーでカバーの夫婦の絵と表題が目に留まりました。桜木紫乃さんの本、初めての読書でした。信好、紗弓の夫婦それぞれの視点から描かれる心情に自身を重ねたり、夫婦というものを考えたりしながら読みました。

 

 

裏表紙にある新潮社の紹介文です。

元映写技師の夫・信好は、看護師の妻・紗弓と二人暮らし。映画脚本家の夢を追い続けて定職はなく、ほぼ妻の稼ぎで食べている。当の妻は、余裕のない生活で子供を望むこと、義母との距離、実母との確執など、家族の形に悩む日々だ。幸せになるために生涯を誓ったはずなのに、夫婦とは、結婚とは、一体何だろう。夫婦が夫婦になっていく“家族のはじまり”を、夫と妻交互の視点で描く連作短編集。

 

夫婦それぞれの視点からの連作短編集という形がとても新鮮な感覚で読みました。信好の視点で5編、紗弓の視点で5編の10編が時系列で交互に語られる小説です。

 

ふたりの出会いのシーンが印象的です。

「放っておれば踏まれて死ぬだろう一匹の虫と、虫を踏んだことでひとつ心に蓋をする人間の、両方を同時に考えられる女の心根がたまらなく愛おしく思えた。」(「こおろぎ」P22)

 

悩む紗弓への父の言葉が心に響きます。

「思い煩う時間があったら、もっと自分の喜べる方向へ頭を使いなさいと言ってるんだよ。そういう点では、うちのお母さんは見習うところが多い気がするんだ。彼女、怒っているわりにはなんだか今を楽しんでいるようにも見えるだろう」(「家族旅行」P63-64)

 

信好と一緒に励まされます。

「必要じゃない仕事なんて、ないと思います」「そうですかね」「だって、みんな映画が大好きな映画のひとじゃないですか。好きな道には必ず先が用意されているって、わたし最近そんなことを考えるんです」(「映画の人」(P89)

 

このシーン、好きです。

「紗弓は鼻をすすらぬよう気をつけながら、めいっぱいの笑顔でビールを手渡した。「ごめん、好き」「なんですか、急に」 この目でひとことの先を知ることが出来る幸福を見ながら、紗弓はもう一度、今度はゆっくりと夫に告げた。―ごめん、どうしても好き。」(「ごめん、好き」P117)

 

自分と重なりました。

「一年前、自分はテルが死んでも涙ひとつこぼさなかった。なのにいまごろ、母が「そうしき代」に貯めた金を見て胸が苦しくなっている。」(「つくろい」P142)

 

このシーンも好きです。

「短期のバイトではなく就職だということを、受かってから報せる小心さには蓋をする。コンソメスープを温め始めた信好の背に、紗弓がセーターの上からでも伝わるほど冷えた体を押しつけてくる。背中で「おめでとう」の声がこもっている。」(「ひみつ」P185)

 

「こおろぎを逃がす女の、白い指先を思い浮かべた。隣に紗弓がいるあいだ、自分は真のかなしみにには出会わずに済む気がした。ふたりでいれば、親の死でさえ流れゆく景色になる。」(「理想の人」P246)

 

「ちらちらと細かい雪が舞い始めていた。心も積もりそうな夜だ。家の前までやってきたところで、紗弓はタキに訊ねた。「幸福なんでしょうか、わたしも」「もちろん、どこから見ても万全の幸福に見えますよ」 紗弓の

質問を待っていたかのような笑顔が返ってくる。詩話に埋もれそうな瞳に雪を映して、タキは万全の幸福、という言葉を使った。」(「幸福論」P271)

 

 

文庫版の解説は「友近」さんでした。「このすべての章を、自分の家族や身の周りで起こっていることに照らし合わせ、夢中になって読んでしまった。まるで結婚や夫婦の教科書を読んているような感覚にさえなった。」と述べられています。

 

ほんわかと、心が温かくなる読後感でありました。

 

 

お読みいただき、ありがとうございます。