原田マハ 著 『あなたは、誰かの大切な人』
講談社文庫 定価:(本体580円+税)
書店で目に留まりました。原田マハさんの本は読んだことがありませんでした。帯に「疲れた心に必ず効く、読む特効薬。まだまだ人生、捨てたもんじゃない。六つの小さな幸福の物語。」とありました。この帯の言葉で読みたくなりました。
講談社の紹介文です。
「勤務先の美術館に宅配便が届く。差出人はひと月前、孤独のうちに他界した父。つまらない人間と妻には疎まれても、娘の進路を密かに理解していた父の最後のメッセージとは……(「無用の人」)。歳を重ねて寂しさと不安を感じる独身女性が、かけがえのない人に気が付いたときの温かい気持ちを描く珠玉の六編。」
講談社BOOK倶楽部に、それぞれの短編に「人生に疲れたときは、本書を開いてください。こんなときに効く!」と紹介されています。
<男の人に嫌気がさしたとき>
「最後の伝言 Save the Last Dance for Me」
夫婦愛のお話。他人同士が夫婦となり、いろいろあって最後に訪れる別れ。私は娘にどんな男に見られているのだろうと思いながら読みました。ラストは素敵な“最後の伝言”でした。
<お腹と心、両方が寂しいとき>
「月夜のアボガド A Gift from Ester's Kitchen」
友人エスターの愛の物語。エスターの言葉「でもね、一番の幸福は、家族でも、恋人でも、友達でも、自分が好きな人と一緒に過ごす、ってことじゃないかしら。大好きな人と、食卓で向かい合って、おいしい食事を共にする。笑ってしまうほど単純で、かけがえのない、ささやかなこと。それこそが、ほんとうは、何にも勝る幸福なんだって思わない?」(P77)
<大切なものを見失いそうなとき>
「無用の人 Birthday Surprise」
娘に本で影響を与え、「だって、こんなにうつくしい絵に、毎日触れてるんだから、幸せじゃないか」(P99)と、現代アートと娘の職業を理解する父は、決して無用の人ではなかったという、心温まる物語。
<母の味が懐かしいとき>
「緑陰のマナ Manna in the Green Shadow」
マナとは「それは、旧約聖書に登場する、奇跡の食物。飢えに苦しむ人々を救いたまえとの預言者・モーセの祈りを聞き入れて、神が天から降らせた。霜のように薄く、白く、甘い。この食物のおかげで、人々は四十年間飢えることがなかったという。」(P132) 主人公とエミネさんのマナの物語。
<話し相手がほしいとき>
「波打ち際のふたり A Day on the Spring Beach」
大学時代の同級生ナガラとの近場の波打ち際の温泉宿への旅物語。
「仕事をすることも、仲間と付き合うことも、私らふたりで旅することも…どれも人生にかかせない大切なことやと思う。だけど、いままでずっとひとりで過ごしてきたお母はんに、ふたりで過ごす時間を返してあげることは、きっとどんなことより大切なんとちゃうかなあ。」(P169)ナガラの言葉に反応。
<自分は誰かに必要とされているのだろうか、と思うとき>
「皿の上の孤独 Barragan's Solitude」
咲子がメキシコを代表する建築家、ルイス・バラガン邸にやってきて、語られる人生、青柳との関係。「青柳君は、ヤバいです、と言いつつ、まだ見えている。私は、片方の乳房を失い、再発を恐れながらも、どうにかこうにか、生き延びている。」(P202) 「人は、孤独になれる空間を必要としている。バラガンの言葉を、アマンダが教えてくれた。」(P198)
文庫版刊行によせて、著者が述べています。
「あなたがもしも、いま、なんということのない日々を生きているとしたら、それはきっと、あなたが誰かの大切な人であることの証しだ。」
そうなんだろうなあと思う短編集でした。