52ヘルツのクジラたち | さめちゃんのブログ

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紫微斗数占いを始めて早や10年。
わかることが増えてきたので、勉強したことを世の中の役に立てたいです。
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・主人公;母とその再婚相手から虐待を受けて育つ。紆余曲折あってようやく実家から逃れるも、良からぬ男に引っかかり危うくお妾さん状態に。多大なる犠牲を払って男との関係は清算できたが、心に大きな傷を負い、祖母の住んでいた大分の港町に流れてくる。

・祖母;粋な芸者だった。いわゆる「日陰者」で、惚れた男には本妻さんがいた。大分の港町に家を持っており、後に主人公がそこに住まう。幼少期の主人公を可愛がってくれた唯一の人。

・母;最初の男(主人公の父)に捨てられた後、再婚。再婚相手との子ども(主人公の弟)を溺愛するも、主人公には虐待を繰り返す。

・義父;母の再婚相手。母と一緒になって主人公を虐待するものの、後に難病を患い、主人公に自らの介護を押し付ける。

 

 

…ざっと主人公の周辺の人間関係をまとめてみましたが、とにかく不幸のオンパレード。不幸というか、過酷。自分ではどうにもならない理不尽な苦難が、これでもかと襲い掛かります。読んでいてずっと息苦しい。

 

 

更に、祖母の家を相続して住み始めた大分の田舎町では、自分と同じように親から虐待を受ける少年と出会います。

少年は母親から「ムシ」と呼ばれており、さすがに「虫」とは呼べないため、主人公は彼を「52」と呼びます。

この「52」は、タイトルにもある「52ヘルツ」からきているのですが、

物語の核心に触れるため詳細は省きます。

 

 

・少年;13歳。母親譲りの端正な容貌をしているが、実の母からは虐待を、同居の祖父からはネグレクトを受けている。学校には行っていない。本名「愛」。

・琴美;少年の母。中学校の校長であった父に甘やかされて育つ。よからぬ男に引っかかり、身を持ち崩す。以降、色々なことがうまく行かないイライラを、虐待という形で少年にぶつけ続ける。

・品城さん;琴美の父。中学校の校長をしていた。現在は老人会の会長。自分の価値基準からはみ出す者は理解しようとしない狭量な人。少年のことは徹底的に無視。

 

 

…少年サイドの人間関係。自分の母親から「虫」と呼ばれ、存在を否定され続けたらどういう気持ちになるのか。あまりにも過酷な設定で、心情を想像するのも難しいけれど、彼の境遇は涙なしには読めません。

 

 

なんでこの本を手に取ったかというと、

息子の学校の生徒会長さんが校内演説で、

「私のお気に入りの本です。この本に書かれているような、52ヘルツの声を発している人たち。そういう人たちを誰一人取りこぼさないような施策をこの1年考えてきたつもりです。」

と、言ったらしいんですね。

 

そこで息子は

「へ?そんな大層な施策、なんか制定されたっけ?…」

と思ったらしいのですが(←美談に水を差すノリの悪い男)、

とにかく面白そうな本だということは感じたらしいので、一度読んでみたいと言ったんですね。

 

早速買って、まずは私が読んでみたのですが…。

 

いやいやいや、これ、めっちゃヘビーな話ですやん???滝汗

 

 

少なくともお気に入りにはできんなぁ…。会長さん、すごいです。

 

 

登場人物たちがヘビーなものを背負いすぎていて、自分のこととして引き付けて考えることが難しいのです。

ひたすら辛く、可哀そうだという気持ちにはなる。なんとかしてあげたい!と思う。

でも、こうした理不尽な現実があると知っても、どうしたら不幸の連鎖が止まるのかは全然わからない。

自分の無力さに悲しくなるだけ。

そして、社会的に成功しているその他の登場人物(まぁ、主に主人公を虐げる側なのですが)たちは

結局報いっぽいものを何も受けずにのうのうとその後の人生を暮らしていくんだろうなと思わせるフェードアウトの仕方に、

「なんだよ、フィクションの中で現実を見せつけるなよ!」

と言いたくなります。

 

 

ただ、最後は救いがあって良かった。

傷を持つもの同士(52ヘルツの声で鳴き合う者どうし)で新たなコミュニティを形成する。

現実だったら警察や児相が介入して、施設に入るなり里親をあてがわれるなり、するんでしょうけど、

でもそこに虐待を受けた本人の意思はないじゃありませんか。

里親は見ずしらずの人だし、施設は「緊急避難先」であって、それ以上でもそれ以下でもない。

 

でも、小説の中では愛君には選択肢が授けられる。

 

自分が選んだ、共に生きていきたい人と、今後の人生を送れるかもしれない。

 

そのことが一番の救いであり、

結末の清々しさは「読んで良かった」と思わせるものでした。

 

もうね、ほんとに読んでてずっと胸が苦しかった。

登場人物たちが早く救われて欲しいと願わずにはおれず、

幸せなラストが早く見たいばっかりに、ページを繰る手が止まりませんでした。

 

 

この間読んだ川上未映子さんの「黄色い家」もそうだったけど、

 

今の日本は格差が固定されてしまって、

生まれ落ちた瞬間からもう結果が決まってるというか、

一度はみ出したら安全圏には中々行けないんだなと思ってしまう。

 

底辺であがく人々が幸せになろうが不幸になろうが、

世界にとっては痛くもかゆくもなくて、

生きづらさを抱える人たちを置いてきぼりにしながら、

人間社会は日々発展を続けます。

 

理不尽な苦難は個人の魂を成長させるのかもしれないし、

苦難を背負った人々がそれに負けずに立派に生きる姿は多くの人を奮い立たせるかもしれず、

だからこそ「52ヘルツのくじらたち」はベストセラーになったのでしょうが、

 

…今後の日本が心配でたまらなくなりますね。

 

 

超少子高齢化はもう目前なのに、ってか、もう高齢者の方が多いのに、

大切な未来を担う若者がこんな風に粗略に扱われる現実って…。

 

 

こんなんだったら、

オルダス・ハクスリー著の「すばらしい新世界」みたいに、

生まれた子供はみんな国家の管理下に置く、

という方式の方がよほど優れているんじゃないかと思ってしまいます…。

間違いなく「ディストピア」を扱った小説なのですが、

実はそっちの方が正しいんじゃないかしら。

 

興味のある方は是非ご一読を。