ヘルムート・ヤーンが亡くなったのを今朝の新聞で知った。
世界と人類のあり方を建築家として、明快で明確な表現をする人だった。
ベルリンの壁が崩壊する少し前に、
当時ベルリン中央駅であったツォー駅に降り立った時の印象は強烈だった。
コンコースというコンコースに世界中からの人々がごろごろと横たわり、
壁の崩壊、悪夢の20世紀と決別し、新しい時代の幕あけを騒然という感じもしたが、
じっとその時を息を凝らして待っていた。
私自身も20世紀産業革命以後
、経済力の格差や帝国主義による欲望の歯止めの効かない爆発が、
地球規模であらゆる秩序をずたずたに破壊した残骸と痕跡を実感出来るのはベルリンだと
長年思っていたからだ。
ブランデンブルグ門から西へ1kmほどのポツダム広場に建つ
複合施設ソニーセンター(2000年)は壁崩壊後のベルリンを代表するとともに
ヘルムート・ヤーンの代表作の一つである。
大きな広場の上には、富士山を思わす真っ白なテント屋根の頂上部の穴からは、
地球の地軸の傾きを表現したというより、地球を傾けた中心がベルリンだったという表現だろう。
大きい白い傘の下にはドイツ国鉄ビルやアミューズメント施設や
高級マンションなど、新しく生まれ変わったベルリンを象徴した小さな都市であった。
そして、もう一度世界の中心になるという野望も見えた。
ドイツでのヘルムート・ヤーンの代表作のもう一つに
ミュンヘン空港と空港内のケンピンスキーホテル(2007)がある。
世界の自動車産業のメッカでありながら、ミュンヘンオリンピックの映像に見るように、
自然溢れる環境そして、世界を代表する芸術文化都市である。
ミュンヘン空港は太陽信仰の神殿かと何度も訪れても思ってしまうほど。
空港すべてをガラスで構成した。構内のパブリックアートは
アーチストが光に関する様々な素材と表現が人工的でありながらも
ナチュラルな自然感を演出している。
ミニマル的で機能的な表現を軸にしながらも、
一方で自然やあらゆるものとの共存、出合いの場を力強くデザインする人だった。
1997年2月鹿島出版会 樋口正一郎著 「都市景観と造形の未来」
160頁 ヘルムート・ヤーン 太陽信仰とテクノロジーの使い方
ミュンヘン/ケンピンスキーホテル、シカゴ/イリノイセンター