自宅から歩いて行ける文学名所シリーズ・・というわけではありませんが。こちらも別の散歩道。

露 天神社(「ろてんじんじゃ」と読まないように。「つゆのてんじんしゃ」)通称「お初天神」です。

 
 
 

普段ならば夜に歩けばちょっといい雰囲気の呑み屋街が境内から連なってるんですけどね。昼間来るのは久しぶり。いつの間にか「恋人たちの聖地」になってました。個人名が書いてあるのでここにはアップしませんが、絵馬もハートマークで恋の願掛けが大半。その中に「コロナウイルスが広がりませんように」という絵馬もあって、ちょっとじんときました。

もちろんここは、近松門左衛門『曾根崎心中(曽根崎心中)』のお初徳兵衛が最期を遂げた場所。作品の最後の言葉が「戀(恋)の手本となりにけり。」なので、まぁ恋人たちの聖地となっても不思議ではないわけか。しかしラストで凄惨な相対死つまりは心中を遂げるわけだから、これも悲劇です。今で言えば週刊誌ネタみたいに人口に膾炙した実際の心中事件を近松が脚色したもので、大当たりの芝居になったのだとか。

そういえばイタリア旅行でヴェローナを訪ねたとき、そこにも「恋人たちの聖地」がありました。ヴェローナはシェイクスピアが『ロミオとジュリエット』の舞台に設定した街。「ジュリエッタの家」はジュリエット(イタリア名ではジュリエッタ)のモデルとなった女性の家とされているんだとか。お初天神にもお初と徳兵衛の銅像がありますが(すみません。似合わない・・)、「ジュリエッタの家」にはジュリエッタの銅像だけあって、その右の乳房に触ると恋の願いが叶うんだそうで、観光客みんな盛大に触りまくっていましたよ。(実はわたしも触ってきました。)しかしヴェローナも北イタリア。どれほどの被害が出たのだろうと思うと心が痛いです。

右上がバルコニー。左下に両の乳房が(みんなに触られて)ぴかぴかのジュリエッタの半身が見えるのがわかりますか?
    *

『曾根崎心中』に戻ると、わたしは道行の場面冒頭の名調子が大好きです。

「此世(このよ)の名殘(なごり)夜も名殘、死に(しにに)行く身を譬ふれば、仇しが原の道の霜、一足づつに消て(きえて)行く、夢の夢こそ哀れなれ。あれ數(数)ふれば曉の、七ツの時が六ツ鳴りて、殘る一ツが今生の、鐘の響きの聞納め、寂滅爲樂(じゃくめついらく)と響くなり。
鐘ばかりかは草も木も、空も名殘と瞰上れば(みあぐれば)、雲心なき水の面、北斗は冴て影映る、星の妹脊(いもせ)の天の川、梅田の橋を鵲(かささぎ)の橋と契りて何時(いつ)までも、我と和女(そなた)は夫婦(めおと)星、必ず添ふと縋(すがり)寄り、二人が中に降る涙、河の水嵩も増るべし。・・」

昔は大阪の空にも天の川が見えたわけか・・。

文楽(人形浄瑠璃)の方が好きですが、歌舞伎もいいですよね!成駒屋さんの当たり狂言です。