Accounting, Tax and M&A -21ページ目

Accounting, Tax and M&A

会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。


三菱自動車工業(三菱自)が2,000億円の公募増資を行い、経営支援を受けていた三菱グループの各社から優先株を買い取るとの報道がありました。

ということで、本件に関わる財務インパクトを見てみました。

・・・

三菱自の経営支援の為に三菱グループ(三菱重工、三菱商事、三菱東京UFJ銀行等)が引き受けた優先株で現時点で残っているのは、第1回A種優先株、第1回~第4回G種優先株の計5種で、総株数は386,193株、発行単価は全て1百万円なので払込総額で3,862億円相当になります。

まず、これらの優先株の設計を整理します(表にしておらず、見難くてすいません)。

まず全て共通の条件として、①優先配当は普通株への配当を実施する際に5%(1株5万円)、②非参加型、③非累積型、④議決権なし、⑤普通株式への転換請求権あり(株数は払込価額÷転換価格(後述))、となっています。

転換請求権の転換価格は転換権行使前20営業日の売買高加重平均価格(VWAP)ですが、上限と下限が設定されています。基本的に上限価格は優先株発行時の市場株価水準、下限価格はその50%といった感じです。

A種優先株についてのみ、転換請求権の行使期限が定められており(2014年6月)、その後は発行者である三菱自による強制転換が可能となります。G種については強制転換条項はありません。

・・・

さて、これらの優先株の設計は、いずれも将来的に可変数の普通株と交換される為、IFRS上は資本の定義を満たさず、三菱自において負債として取り扱われます(但し、転換請求権消滅後のA種については資本となる可能性があります)。

三菱自は日本基準を採用しており、2013/3末の連結純資産(NCIを除く)は3,402億円です。もしIFRSを採用していた場合、単純計算では3,862億円が資本から負債に振り替えられ、債務超過になってしまいますね。

危なかったですね。

でも、日本基準における資本は経済実態ではなく株式という法形式で決まりますので、問題にならないわけです。

・・・

さて、報道によれば三菱自は2,000億円程度の公募増資を検討しており、「三菱グループは発行額を下回る価格で買い入れに応じる方向」(日刊工業新聞)だそうです。

発行額を下回る買い入れに応じて問題ないのでしょうか??

三菱自の株価は、経営支援か行われた2004年6月時点で1,000円(2013年の株式併合考慮後)、その後一時は3,000円近くまで上昇したものの、現時点ではまた1,000円前後になっています。つまり経営支援時と同程度の株価水準です。

優先株の転換価格の下限は520円~770円となっており、株価がこれを下回らない限り、優先株主にとって不利な転換は生じません。

一方、転換価格の上限は概ね1,050円~1,430円(第4回G種のみ2,580円と突出)で、株価がこれを上回る場合は、優先株主にとって有利な転換となります。

優先配当条項により、普通株主に配当しようとすると、その前に優先株主に193億円の配当を支払う必要が生じます。三菱自の連結純利益は過去2期で239億円、380億円です。これでは思うように普通株主への配当もままなりませんね。

以上からすると、事実上、優先株の価値が払込額より低下しているとは考えられません。

従い、三菱グループ各社が払込額を下回る金額での買い入れに応じた場合、グループ各社においては寄附金認定の税務リスクが生じると思います。寄附金見合いの課税は払込額に相当する分までは株式譲渡損の取消しになります(それを上回る部分はみなし配当課税)。

またこの場合、三菱自においても受贈益認定の税務リスクが生じます。三菱自においては自己株式の取得という資本取引であり、損益取引としての受贈益が認定されるのか?という議論がありますが、それでもリスクは十分にあると思われます。

実際のところ、三菱グループ各社さんはどうされるのでしょうね。

・・・

ちなみに日経の報道では、「12日の三菱自の株価は増資による1株利益の希薄化を嫌気し、前日比8%安い1028円まで下げた」そうです。

信じられません。

株主の皆さんの普通株は、ほとんど配当も受け取れない状態だったところ、優先株主が自身に不利な(=普通株主に有利な)自己株式の買取に応じてくれる上、配当までし易くしてくれるんですよ??

・・・

とりあえず三菱自はお決まりの「現時点で決定した事実はございません」ですが、今後どうなるか楽しみです。

今回はこんなところにしておきましょう。

米ベライゾンが英ボーダフォンからベライゾンワイヤレス(VZW)の持分45%を取得し、完全子会社化するとのことで、正式にプレスリリースされました。

前回は報道ベースで記載していましたので、今回、プレスリリースを踏まえ、何点か追記したいと思います。

・・・

まずはVZWのValuationについて。

買収価額は1,300億ドル(約13兆円)という超巨額の案件ですが、これはVZW45%の株式価値ですので、100%ベースでは2,889億ドルです。これにVZWのnet debtを加算すると企業価値(EV)は約2,997億ドル(約30兆円!)です。

VZWの業績は、親会社のベライゾンより、むしろボーダフォンの方が詳細を開示しています。それによればVZWのEBITDAは2012/12期で297億ドル、当期純利益で209億ドル(VZWの事業は米国のGeneral PartnershipであるCellco Partnershipが行っており、税務上はPass throughを選択していますので、実質的に税前利益=純利益です)。EV/EBITDA倍率で10倍です。

ボーダフォンのプレスリリースでも、LTM(直近12ヶ月)のEV/EBITDAで9.4倍とされていますので、こんなもんでしょう。まあ、それなりに十分に高い値段という印象です。

・・・

そして、ボーダフォンのVZWへの投資は、オランダの持株会社から米国の株式会社(VAF1)を経由してCellco Partnershipの持分を保有するストラクチャーになっています。

プレスリリースによれば、VZWの売却はVAF1株式の譲渡として行われます。その前に米国VAF1が保有するVZW以外の資産の移転を行い、これに伴い50億ドルの課税が生じるものの、VAF1株式自体の譲渡益に対する課税は生じないとのことです。

VAF1株式の譲渡を行うオランダの持株会社ですが、オランダでは資本参加免税の適用により株式譲渡益は非課税、所得の源泉地である米国においても不動産化体株式等の場合を除いて非課税です(国内法、米蘭租税条約ともに)。そして英国のボーダフォン本体は、売却当事者ではなく、また英国のSSEというキャピタルゲイン非課税の制度があることから非課税とのことです。

売却益の金額はわかりませんが、仮にVZWの簿価純資産=連結簿価としても会計上の売却益は822億ドル(約8兆円)、税務上の所得はもっと大きいでしょうから、これに課税出来ないのは各国の税収に響きますね。

・・・

1,300億ドルの対価の内訳も公表されました。

現金589億ドル、ベライゾン株式602億ドル、その他ベライゾンへの貸付金やベライゾンの保有するボーダフォン子会社の株式等で110億ドル、合計で1,300億ドルです。

先日の記事に書いた通り、ベライゾンが602億ドルの新株を発行した場合、ベライゾンは株式の約31%をボーダフォンに保有される関連会社になります。しかし、どうやらボーダフォンは取得するベライゾン株式全てを株主に分配するので、そうはならないようです。

これはベライゾンの強い希望によるものなのか、ボーダフォンが米国事業から撤退するという意思の表れなのかわかりませんが、なるほど、という感じですね。

ボーダフォンはこの602億ドルの株式と239億ドルのキャッシュの合計841億ドルを株主に分配するとしています。同社の時価総額は約1,600億ドルですので、時価総額の半分以上を分配することになります。これまたすごい規模です。

ボーダフォンの個人株主の皆さんの課税関係も気になるところです。詳細は承知していませんが、この配当はCourt-approved scheme of arrangement and associated reduction of capitalという手法で実施され、受領方法について株主にいくつかの選択肢を用意しているようですので、それによって課税関係にも影響があるのかも知れませんね。

・・・

次にベライゾン本体についてです。

前回の記事にも書きましたが、ベライゾンによるVZW完全子会社は子会社の追加取得であり、会計上は資本取引になります。

2012/12末のベライゾン連結財務諸表におけるVZWのNCI(=ボーダフォン持分)の簿価は515億円。これに対して資本取引により1,300億ドルの対価を支払いますので、差し引き785億ドルだけ資本金等が減少する一方、602億ドルの新株を発行しますので、資本金等の純粋な減少額は183億ドルです。

ベライゾンの非支配持分を除く純資産は332億ドルでしたので、183億ドル減少すると149億ドルになります。非支配持分も含めた純資産の異動としては、856億ドルから157億ドルへの大幅減少です。

とはいえ、602億ドルの新株発行により債務超過は免れていますね。

「大規模な新株発行に嫌気」という理由でベライゾン株の下落を説明するニュースもありましたが、新株発行がなければ債務超過ということでもっと問題になっていたでしょう。

結局、新株発行で債務超過を避け、同時にボーダフォンにベライゾン株を株主分配してもらうことで同社の関連会社になることも回避できたわけですね。

・・・

最後にベライゾン本体の株価について見ておきたいと思います。

同社の株価は案件公表前で1株46.6ドル、その後若干動きましたが現状でも46.5ドル付近で、時価総額は1,332億ドル程度です。

同社の純利益は、VZWの非支配株主であるボーダフォンへの帰属利益を控除すると2012/12期で僅か(といったら怒られますが)9億ドルしかありません。これでPERを計算すると約150倍という異常値になります。

とんでもない水準ですが、個人的にPERという指標は好きではありませんので、EV/EBITDAで見てみます。

すると、2012/12期のEBITDAは296億ドル、EVは2,345億ドル(時価総額1,332億ドル+net debt489億ドル+非支配持分524億ドル)で倍率は7.9倍です。

これを見ると、多少高いにしても、とんでもない水準ではありません。

ですが、この数値はVZWの連結によってかなり歪んでいます。

そこで、VZWへの出資55%を比例連結という形に調整してみます(つまり、VZWの資産・負債・収益・費用の100%ではなく55%だけを連結財務諸表に合算させ、非支配持分を削除する)。

すると、EBITDAは163億ドル(296億ドルからVZWのEBITDAの45%である134億ドルを控除)、EVは1,790億ドル(2,345億ドルから、VZWの非支配持分515億ドルと同社のnet Debtの45%分の39億ドルを控除)で倍率は11.0倍に増加します。

こう見るとかなり高いですね。VZWの買収Deal以上のValuationです。

これはVZWの簿価ベースのEV/EBITDA倍率が4倍程度である為(ボーダフォン帰属として控除したEV554億ドル÷EBITDA134億ドル)、結果としてベライゾンの連結財務諸表に基づくEV/EBITDA倍率が水増しされていたことを意味しています。

逆に、今回のDealによるVZWの完全子会社化を反映するとどうでしょう。

その場合、EBITDAは296億ドル、EVは3,131億ドル(Deal前のEV2,345億ドル+新株発行・借入金1,300億ドル-NCI減少515億)で10.6倍です。

EV/EBITDAで10倍のValuationでVZWを買収しますので、Deal前の11倍から10倍にちょっと近づきますが、やはりかなり高い水準です。

では、2012/12期の業績に異常値があるのでしょうか?

この点、いわゆる巨額の減損等は見当たりませんが、退職金・年金費用には留意が必要です。

というのも、VZWは年金資産や退職給付債務等の保険数理差異について、発生年度に一括でPL認識する会計方針を選択しているのです。

この一括PL認識による赤字が過去2年連続して60~70億ドル程度発生し、EBITDAを押し下げています。

すごい金額です。確かにこれは今後も毎期続くわけではないでしょうから、EV、EBITDAから退職給付関係を調整してみましょう。

EBITDAに2012/12期の数理差異としてざっくり60億ドルを加算します。この場合、EVは3,131億ドル、EBITDA356億ドルで、倍率は8.8倍です。

ようやく10倍は切りましたが、それでも市場株価としてはかなり高いような気がしますが、どうなんでしょうね。

もしかすると、VZWの完全子会社化がベライゾンの連結財務諸表に反映されたら、これまでの株価の高値っぷりが明るみに出て、株価が下がる可能性も・・・、あるかも知れませんし、ないかも知れません。

ま、事業の分析はしてません(≒できません)し、こんな指標1つで株価がわかるなら誰も苦労しませんね。

・・・

ということで、今回はベライゾンによるVZW完全子会社化について、プレスリリースを踏まえて色々考えてみました。

Dealの実行は2014年らしいので、答え合わせは随分先になりますね。

ではでは。


追記:退職給付の調整がおかしかったのでちょっと直しました。

米ベライゾンが英ボーダフォンよりベライゾンワイヤレス(VW)の持分を買収するという報道がありました。

買収額は1,300億ドル(約13兆円)!!

とてつもない金額ですね。

本当はプレスリリース等でもう少し詳細な情報を得てからと思いますが、とりあえずベライゾンの10-K(いわゆる米国の有価証券報告書のようなもの)を見てみたので、ちょっとだけ記載します。

・・・

ベライゾンは米国の大手通信事業者で、VWはベライゾンが55%出資する子会社です(残り45%はボーダフォンが保有)。ベライゾンのオペレーティングセグメントは携帯(≒事実上、VWのこと)と固定通信からなります。

ベライゾンの連結PLを見ると、、、

まず、携帯(≒VW)と固定通信を比較すると、利益のほとんどは携帯が稼いでいることがわかります。

2012/12期を見ると、EBITDAでは携帯297億ドル、固定通信85億ドル、本社費用▲86億ドルで連結296億ドル、営業利益で携帯218億ドル、固定通信1億ドル、本社費用▲87億ドルで連結132億ドルです。VW以外はほとんど儲かっていないわけです。

次に、連結純利益のほとんどはVWの非支配株主であるボーダフォンに帰属する利益で、ベライゾン株主に帰属する純利益はわずかだとわかります。

2012/12期を見ると、連結純利益106億ドルの内、ベライゾン株主帰属利益9億ドル、非支配株主帰属利益97億ドルです。(ちなみに2011/12期では連結純利益102億ドルの内、ベライゾン株主帰属利益24億ドル、非支配株主帰属利益78億ドル)

すごいですね。

ベライゾンは固定通信事業はほとんど儲からず、携帯事業=VWの利益で本社費用を賄って黒字となっているものの、残った黒字のほとんどは非支配株主に持っていかれ、ベライゾンの株主にはほとんど利益が残っていないのです。

純資産の内訳を見てみましょう。

2012/12末の純資産は856億ドルですが、この内、非支配株主持分(NCI)が524億ドル(その内、VW分は515億ドル)で、ベライゾン株主帰属額は332億ドルです。

ここからも、利益のほとんどがVWのものであることがわかりますね。

・・・

さて、今回の報道では、VWのボーダフォン持分45%の買収価額は1,300億ドルと言われています(1,000~1,300億ドルで交渉中との情報も)。

この買収は、ベライゾンとしては既存の子会社の買い増しですので、米国会計基準上は資本取引として取り扱われ、買収額がNCIの簿価を上回る部分は暖簾ではなく資本剰余金の減額となります。

もし、1,300億ドルの現金を支払ってVWの非支配株主持分515億ドルを取得すると、資本剰余金は785億ドル減少することになります。

あれ、債務超過になっちゃいますけど??と思ったら、ロイターの報道によれば、買収は現金と株式発行の組合せで行われ、買収額の内、600億ドルは複数の銀行からの融資で賄うとのこと。

とすると、連結会計上の仕訳はこうなります。

借方)
非支配持分 515億ドル
資本剰余金  85億ドル
貸方)
借入金 600億ドル

仕上りの連結純資産は256億ドルになります(その内、NCIは9億ドル)。

さすがに債務超過にするわけありませんね。融資契約のコベナンツに引っ掛かってデフォルトになる可能性だってありますし。それでも純資産の目減りはすごい金額ですが。

・・・

ちなみにベライゾンの時価総額は、今回の買収報道の前日終値で1,332億ドルでした。その翌日で1,368億ドルです。

上述の通り、ベライゾンはVWの55%を保有していて、今回、VWの45%の取得に自分の時価総額と同じくらいの金額を支払うわけです。

当然ながらベライゾンの時価総額にはVWの55%分があるわけですから、逆にいえば、VW以外の固定通信事業と本社部門にはほとんど価値が残っていない(むしろマイナス?)ということなんでしょうかね。

で、買収価額の内700億ドル分を新株発行してボーダフォンに交付したとすると、単純計算でベライゾンの時価総額は約2,000億ドルに増加し、その内、700億ドル分をボーダフォンが保有することになります。

持分比率で35%。

とすると、ベライゾンはボーダフォンの関連会社になります。(ベライゾンの提示したという買収額1,000億ドルでも、400億ドルは新株発行になり、ボーダフォンの持分は400億÷1,700億=24%で、やはり関連会社です)

これだと、会計処理はともかく、どっちが買収者かよくわからなくなってきますね。

この当りが実際にどうなるのか、開示資料が出てこないと何とも言えませんが。

・・・

10-Kを見ていてもう1つ不思議だったのは、ベライゾンの法人税です。

2012/12期は、税前利益99億ドル、税後利益106億ドルですので、実効税率は▲7%です。

税効果の開示によれば、実効税率が法定の35%から乖離する理由として、非支配株主帰属利益の影響で▲34%が挙げられています。

これは一体何でしょう?

この税前利益も税後利益も非支配株主帰属利益を控除する前の金額ですので、実効税率には影響しないと思うんですけど。。

これは、もう少し考えてみて、何かわかったらまた書きたいと思います。

・・・

さて、今回はこんな感じです。

とりあえず10-Kを30分ほど眺めて書いただけなので、間違いがあったらすいません。

本件については今後、色んな情報が開示されると思いますので、時間に余裕があればまたアップデートしたいと思います。

では。

昨日のエントリーで大事な点を記載し忘れていたので補足します。

テーマは非適格合併における税務上の事業譲渡益のグロスアップです。

税務のとてもテクニカルなお話です。

・・・

おさらいですが、ITCNによるパナソニックテレコムの合併は、合併対価にITCN株式と現金が含まれる為、税務上適格要件を満たさず、非適格合併となります。

昨日のエントリーでは、この非適格合併における事業譲渡益とITCNが認識する税務暖簾(資産調整勘定)の金額が143億円であると記載しました。この金額はITCNの税効果の開示からの推定です。

一方、合併対価は総額165億円、パナソニックテレコムの会計上の簿価純資産は2012/3末で64億円でした。合併時の簿価純資産は不明ですが、暖簾・無形資産を除く時価純資産は55億円程度ではないかと試算しました。

税務上の純資産と会計上の純資産はもちろん一致しませんが、合併対価165億円から64億円程度の純資産を控除しても譲渡益は100億円程度ですが、これに対し、資産調整勘定/譲渡益が143億円もあるのは何故でしょうか。

実は、この差異は税務上の非適格合併の事業譲渡益のグロスアップによるものと思われます。

法人税法上、非適格合併の譲渡益を計算する上での譲渡原価には、当該譲渡益に対する未払法人税・住民税を含むこととされています。

つまり、譲渡対価が165億円、譲渡前の純資産が65億円だとすると、譲渡益は一義的には100億円になるわけですが、この100億円の譲渡益に対する未払法人税・住民税30億円(税率30%と仮定/事業税は含まれません)が譲渡原価である純資産に(マイナスとして)含まれます。

すると、その分譲渡益は30億円増加して130億円となり、その増加分に対する未払法人税等がまた譲渡原価のマイナスになって、、、という循環計算になります。

この答えを得るには、「譲渡益G=譲渡対価165億円-(譲渡前純資産100億円-譲渡益G×30%)」という方程式を解けばいいわけです。

その結果は、譲渡益は当初の100億円を0.7(1.0-税率30%)で割り返した143億円(=100億円÷0.7)となります。要するに、100億円の譲渡益というのは、その譲渡益に対する法人税をマイナスした税後の値であり、それを税前利益に戻す(=グロスアップする)と143億円になるということです。

こう考えると、資産調整勘定/譲渡益143億円はグロスアップ後の数字で、グロスアップ前は100億円、譲渡対価165億円との差額である税務上の純資産は65億円と推測されます。この純資産の金額であれば、会計と大きな乖離もなく、納得できる水準ですね。

くどいですが、循環計算の仕上りは以下の通りです。

①譲渡益143億円=譲渡対価165億円-譲渡原価22億円
②譲渡原価22億円=譲渡前純資産65億円-未払法人税等43億円
③未払法人税等43億円=譲渡益143億円×税率30%

・・・

いやいや、面倒ですねぇ。

でも本来、株式価値は企業の将来獲得する税後CFの現在価値ですから、合併対価である株式価値は、事業譲渡益に対する法人税を支払った後に残る金額でないと、理論的にはおかしいわけです。

そういう意味で、このグロスアップは理に適った規定と思います。

以上、補足でした。

ドコモの2トップ戦略から漏れて携帯事業で苦戦しているパナソニックですが、携帯販売代理店業を営む関連会社であるアイティーシーネットワーク(ITCN/東証一部上場)から、同社の自己株取得により撤退したようです。

あれ、パナソニックの携帯販売代理店事業は昨年ITCNと再編したばかりだよね?

ということで、ITCNの再編を巡る関係各社の会計・税務を分析してみます。

・・・

まずは一連の再編を整理します。

2012年10月、ITCNが同業のパナソニックテレコム(パナソニックの子会社)を吸収合併により買収。

合併の対価はITCN株式と現金であり、税務上非適格合併になります。この買収対価の受領によりパナソニック(正確にはパナソニックの100%子会社のパナソニックモバイルコミュニケーションズですが、わかりやすくパナソニックとします)はITCNの20%株主となり、一方、元々ITCNの60%親会社だった伊藤忠商事の出資比率は48%に低下しました。

そして2013年8月8日、ITCNがToSTONeT3を活用しパナソニックの保有する全ITCN株式を自己株取得。

その結果、パナソニックはITCNから撤退し、伊藤忠商事の出資比率はまた60%に戻りました。

ということで、本件の関係者はITCN、パナソニックテレコム、パナソニック、伊藤忠商事です。では、各社の会計・税務インパクトを見てみましょう。

・・・

まず、ITCNです。

ITCNは2012年10月1日に吸収合併によりパナソニックテレコムを買収。合併対価はITCN株11百万株と現金99億円。合併直前の株価(9月28日終値)は590円でしたので、買収対価の総額は株式66億円、現金99億円、諸費用1億円の合計166億円です。

合併の対価に現金が含まれている為、税務上は適格要件を満たさず、非適格合併になります。

従い、税務上、パナソニックテレコムは時価で資産・負債をITCNに譲渡したものとして事業譲渡益を認識し、ITCNはパナソニックテレコムの資産・負債(差額暖簾である資産調整勘定を含む)を時価で取得した扱いになります。

ITCNの有報における税効果の開示から推定すると、合併で認識した資産調整勘定は143億円と思われます。資産調整勘定は税務上5年で償却されますので、将来減算一時差異として税効果の対象になります。1年分の償却が進んだ13/3期末の資産調整勘定に係る税資産が41億円になっていることから、合併時の税資産は52億円と推定され、ここから逆算できるわけです。

尚、13/3期首時点でも資産調整勘定に係る税資産が5億円計上されていますが、これは過去の日立モバイルの買収時に認識されたもので、13/3期で償却が完了することから、期末の残高は全てパナソニックテレコムに関連するものと思われます。

ということは、パナソニックテレコムにおいては143億円に近い事業譲渡益が税務上認識されたことになります。パナソニックテレコムの業績は簡易な開示しかなされていませんが、繰越欠損金が多額あるようには思えませんので、かなりの法人税の負担があったと思われます。

この点、ITCNの有報を見ると、ITCNの2013/3期のPL税前利益58億円、法人税等27億円に対し、CF計算書における法人税の支出は80億円という不自然な金額になっています(前期2012/3期はPL税前利益49億円、法人税等27億円、CFの法人税支出17億円で、異常値はありません)。

正確な金額はわかりませんが、おそらく事業譲渡益に係る課税が50~60億円程度あり、ITCNにおいては買収時の会計処理にて負債(未払法人税)として認識することから、PLにはチャージされないものの、合併後にITCNが支出するということでCF計算書に反映されたものと考えられます。

事業譲渡益に対する課税が生じる一方、将来の資産調整勘定の償却による節税効果も生じますので、基本的にはnetのインパクトはゼロ(税金の前払い)ということでしょう。

ITCNはこの合併により、会計上、暖簾22億円、キャリアショップ運営権という無形資産138億円(税効果後88億円/20年償却)の合計110億円のプレミアムを認識しています。

上述の通り、買収時に認識する資産調整勘定に係る税資産と事業譲渡益に係る未払法人税の金額が同程度と仮定すると、買収対価166億円に対して無形資産を除く純資産が56億円、プレミアムが110億円となります。パナソニックテレコムの12/3末の簿価純資産が62億円ですので、まあ違和感のない感じですね。

そして、2013年8月の自己株取得ですが、これはITCNにおいては92億円の対価(11百万株×8月8日終値822円)を支出し、そのまま自己株式が純資産のマイナス科目として計上されます。

・・・

次に、パナソニックにとってのインパクトです。

非適格合併によりパナソニックテレコム株式はITCN株式と現金の合計165円に転換されました。おそらく譲渡益が会計上認識されていますが、詳細な開示はありませんので不明です。

税務上は165億円の対価の内、パナソニックテレコムの資本金等の額を上回る部分は配当とみなされ、パナソニックにおいては子会社からの配当として益金不算入のメリットが生じます。これもパナソニックテレコムの詳細な情報がありませんので何とも言えませんが、おそらくそれなりのインパクトと思われます。

結局、上述の通り、この非適格合併によりパナソニックテレコムでは譲渡益課税が生じるものの、ITCNの資産調整勘定の償却によりこれを取り戻すことができるのでnetのインパクトはゼロである一方、株主であったパナソニックにおいてみなし配当による税メリットがあったと考えられます。

合併の対価が株式と現金の混合になっている点については、おそらく仕上りの出資比率を20%にするという事業上の目的がはっきりしており、意図的な非適格合併として否認されるリスクは小さいと思われます。

そして、この合併からわずか1年、パナソニックは自己株取得によりITCN株を売却します。

これはToSTONeT3という、自己株式の売買を目的とした立会外の市場取引として行われました。通常、自己株取得においては、1株当りの資本金等の額を上回る対価は税務上配当とみなされますが、市場取引の場合はこのみなし配当の対象外とされています。

これは、市場取引の場合は買い手/売り手の紐付けができず、みなし配当計算が困難という技術的な問題によるものですが、ToSTONeT3の場合はそのような技術的な問題がありませんので、趣旨からするとみなし配当を認識してもいいようにも思えます。この点を争った国税不服審判の裁決事例もありますが、税法の文理解釈から、市場取引ではみなし配当は認識されないという結論となっています。

従い、今回の自己株取得ではパナソニックはみなし配当を認識せず、譲渡対価92億円と合併時の取得価額66億円との差額26億円がシンプルに株式譲渡益となります。

・・・

最後にITCNの親会社である伊藤忠商事です。

伊藤忠商事は2012年10月のITCNとパナソニックテレコムの合併により、ITCNへの出資比率が60%から48%に低下しました。

同社は米国会計基準を採用していますが、米基準における連結の判定はかなり厳密な形式基準ですので(変動持分事業体の規定を除き)、48%出資の上場会社でも議決権の過半に満たず連結対象外となり、持分法投資に切り替わりました。

尚、IFRS上は、株主総会への一般株主の出席比率等を勘案し、上場会社に対して48%の議決権があれば事実上過半数決議を支配できることから、連結子会社に該当すると思われます。連結の範囲には米基準とIFRSで会計基準差異があるということです。

米基準上、子会社から持分法投資への移行に伴い時価評価損益が計上されますが、伊藤忠商事の有報によればそのインパクトは税効果後で25億円とのことです。この時価評価後のITCNの簿価は、27百万株×合併時の市場株価590円で159億円と思われます。

そして、今回の自己株取得により、伊藤忠商事の出資比率は再度60%に高まり、ITCNは持分法投資から連結子会社に切り替わります。この場合も米基準上、時価評価損益が認識されます。

自己株取得が行われた8月8日が支配獲得日だとすると、同日の株価は822円、伊藤忠商事のITCN株の時価は222億円です。従い、1年前に時価評価した159億円から、その後の持分法利益による変動を無視すると税効果前で63億円の利益が当期に認識されます。(税効果後の金額の想定は難しいですが)

なるほど、子会社⇒持分法⇒子会社で2年連続で時価評価を行い、市場株価の上昇の恩恵をそのままPL認識できたわけです。

しかも、伊藤忠商事は2014/3期からIFRSに移行するようです。IFRS上はITCNは子会社からステータスの変動がないということになると思われます。つまり、IFRSの初度適用において過去2回の時価評価益を取り崩し、ITCN株の簿価を減額する可能性があります。そうすると、将来的にITCNを売却等した際の売却益がその分増加するわけです。

一粒で二度おいしい。巧いですねぇ。

ちなみに税務上は、合併においては合併法人ITCNの株主であり、また今回の自己株取得にも関与していませんので、伊藤忠商事には何のインパクトも生じていないと思われます。

・・・

ということで、今回はITCNのパナソニックテレコム合併、パナソニックからの自己株取得に係る関係各社の会計・税務を見てみました。

各社の会計・税務戦略も垣間見えて面白いですね。