米ベライゾンが英ボーダフォンからベライゾンワイヤレス(VZW)の持分45%を取得し、完全子会社化するとのことで、正式にプレスリリースされました。
前回は報道ベースで記載していましたので、今回、プレスリリースを踏まえ、何点か追記したいと思います。
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まずはVZWのValuationについて。
買収価額は1,300億ドル(約13兆円)という超巨額の案件ですが、これはVZW45%の株式価値ですので、100%ベースでは2,889億ドルです。これにVZWのnet debtを加算すると企業価値(EV)は約2,997億ドル(約30兆円!)です。
VZWの業績は、親会社のベライゾンより、むしろボーダフォンの方が詳細を開示しています。それによればVZWのEBITDAは2012/12期で297億ドル、当期純利益で209億ドル(VZWの事業は米国のGeneral PartnershipであるCellco Partnershipが行っており、税務上はPass throughを選択していますので、実質的に税前利益=純利益です)。EV/EBITDA倍率で10倍です。
ボーダフォンのプレスリリースでも、LTM(直近12ヶ月)のEV/EBITDAで9.4倍とされていますので、こんなもんでしょう。まあ、それなりに十分に高い値段という印象です。
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そして、ボーダフォンのVZWへの投資は、オランダの持株会社から米国の株式会社(VAF1)を経由してCellco Partnershipの持分を保有するストラクチャーになっています。
プレスリリースによれば、VZWの売却はVAF1株式の譲渡として行われます。その前に米国VAF1が保有するVZW以外の資産の移転を行い、これに伴い50億ドルの課税が生じるものの、VAF1株式自体の譲渡益に対する課税は生じないとのことです。
VAF1株式の譲渡を行うオランダの持株会社ですが、オランダでは資本参加免税の適用により株式譲渡益は非課税、所得の源泉地である米国においても不動産化体株式等の場合を除いて非課税です(国内法、米蘭租税条約ともに)。そして英国のボーダフォン本体は、売却当事者ではなく、また英国のSSEというキャピタルゲイン非課税の制度があることから非課税とのことです。
売却益の金額はわかりませんが、仮にVZWの簿価純資産=連結簿価としても会計上の売却益は822億ドル(約8兆円)、税務上の所得はもっと大きいでしょうから、これに課税出来ないのは各国の税収に響きますね。
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1,300億ドルの対価の内訳も公表されました。
現金589億ドル、ベライゾン株式602億ドル、その他ベライゾンへの貸付金やベライゾンの保有するボーダフォン子会社の株式等で110億ドル、合計で1,300億ドルです。
先日の記事に書いた通り、ベライゾンが602億ドルの新株を発行した場合、ベライゾンは株式の約31%をボーダフォンに保有される関連会社になります。しかし、どうやらボーダフォンは取得するベライゾン株式全てを株主に分配するので、そうはならないようです。
これはベライゾンの強い希望によるものなのか、ボーダフォンが米国事業から撤退するという意思の表れなのかわかりませんが、なるほど、という感じですね。
ボーダフォンはこの602億ドルの株式と239億ドルのキャッシュの合計841億ドルを株主に分配するとしています。同社の時価総額は約1,600億ドルですので、時価総額の半分以上を分配することになります。これまたすごい規模です。
ボーダフォンの個人株主の皆さんの課税関係も気になるところです。詳細は承知していませんが、この配当はCourt-approved scheme of arrangement and associated reduction of capitalという手法で実施され、受領方法について株主にいくつかの選択肢を用意しているようですので、それによって課税関係にも影響があるのかも知れませんね。
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次にベライゾン本体についてです。
前回の記事にも書きましたが、ベライゾンによるVZW完全子会社は子会社の追加取得であり、会計上は資本取引になります。
2012/12末のベライゾン連結財務諸表におけるVZWのNCI(=ボーダフォン持分)の簿価は515億円。これに対して資本取引により1,300億ドルの対価を支払いますので、差し引き785億ドルだけ資本金等が減少する一方、602億ドルの新株を発行しますので、資本金等の純粋な減少額は183億ドルです。
ベライゾンの非支配持分を除く純資産は332億ドルでしたので、183億ドル減少すると149億ドルになります。非支配持分も含めた純資産の異動としては、856億ドルから157億ドルへの大幅減少です。
とはいえ、602億ドルの新株発行により債務超過は免れていますね。
「大規模な新株発行に嫌気」という理由でベライゾン株の下落を説明するニュースもありましたが、新株発行がなければ債務超過ということでもっと問題になっていたでしょう。
結局、新株発行で債務超過を避け、同時にボーダフォンにベライゾン株を株主分配してもらうことで同社の関連会社になることも回避できたわけですね。
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最後にベライゾン本体の株価について見ておきたいと思います。
同社の株価は案件公表前で1株46.6ドル、その後若干動きましたが現状でも46.5ドル付近で、時価総額は1,332億ドル程度です。
同社の純利益は、VZWの非支配株主であるボーダフォンへの帰属利益を控除すると2012/12期で僅か(といったら怒られますが)9億ドルしかありません。これでPERを計算すると約150倍という異常値になります。
とんでもない水準ですが、個人的にPERという指標は好きではありませんので、EV/EBITDAで見てみます。
すると、2012/12期のEBITDAは296億ドル、EVは2,345億ドル(時価総額1,332億ドル+net debt489億ドル+非支配持分524億ドル)で倍率は7.9倍です。
これを見ると、多少高いにしても、とんでもない水準ではありません。
ですが、この数値はVZWの連結によってかなり歪んでいます。
そこで、VZWへの出資55%を比例連結という形に調整してみます(つまり、VZWの資産・負債・収益・費用の100%ではなく55%だけを連結財務諸表に合算させ、非支配持分を削除する)。
すると、EBITDAは163億ドル(296億ドルからVZWのEBITDAの45%である134億ドルを控除)、EVは1,790億ドル(2,345億ドルから、VZWの非支配持分515億ドルと同社のnet Debtの45%分の39億ドルを控除)で倍率は11.0倍に増加します。
こう見るとかなり高いですね。VZWの買収Deal以上のValuationです。
これはVZWの簿価ベースのEV/EBITDA倍率が4倍程度である為(ボーダフォン帰属として控除したEV554億ドル÷EBITDA134億ドル)、結果としてベライゾンの連結財務諸表に基づくEV/EBITDA倍率が水増しされていたことを意味しています。
逆に、今回のDealによるVZWの完全子会社化を反映するとどうでしょう。
その場合、EBITDAは296億ドル、EVは3,131億ドル(Deal前のEV2,345億ドル+新株発行・借入金1,300億ドル-NCI減少515億)で10.6倍です。
EV/EBITDAで10倍のValuationでVZWを買収しますので、Deal前の11倍から10倍にちょっと近づきますが、やはりかなり高い水準です。
では、2012/12期の業績に異常値があるのでしょうか?
この点、いわゆる巨額の減損等は見当たりませんが、退職金・年金費用には留意が必要です。
というのも、VZWは年金資産や退職給付債務等の保険数理差異について、発生年度に一括でPL認識する会計方針を選択しているのです。
この一括PL認識による赤字が過去2年連続して60~70億ドル程度発生し、EBITDAを押し下げています。
すごい金額です。確かにこれは今後も毎期続くわけではないでしょうから、EV、EBITDAから退職給付関係を調整してみましょう。
EBITDAに2012/12期の数理差異としてざっくり60億ドルを加算します。この場合、EVは3,131億ドル、EBITDA356億ドルで、倍率は8.8倍です。
ようやく10倍は切りましたが、それでも市場株価としてはかなり高いような気がしますが、どうなんでしょうね。
もしかすると、VZWの完全子会社化がベライゾンの連結財務諸表に反映されたら、これまでの株価の高値っぷりが明るみに出て、株価が下がる可能性も・・・、あるかも知れませんし、ないかも知れません。
ま、事業の分析はしてません(≒できません)し、こんな指標1つで株価がわかるなら誰も苦労しませんね。
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ということで、今回はベライゾンによるVZW完全子会社化について、プレスリリースを踏まえて色々考えてみました。
Dealの実行は2014年らしいので、答え合わせは随分先になりますね。
ではでは。
追記:退職給付の調整がおかしかったのでちょっと直しました。