俺が育った所の近所に変わった由来の明神さまがあったよ。
戦国時代の終わりごろ、天下統一という頃。ある村に落ち武者が
救いを求めてきた。落ち武者狩りという言葉がある通り誰も助けないが
ある一軒の家だけは彼らを匿った。
どのくらい匿われていたのかわからないが、その落ち武者が死ぬ際
「おれはこの家の守り神になる」と言ったという。本当に守られていて、
そこの家は今でも続いてる。豪族でもない農民で戦国時代からルーツが
判る家ってそうない。そこの家宝はその落ち武者のものであろう甲冑。
家の造りは普通の農家って感じだけど、石垣がすごくて八つ墓村に
出てくる家みたいな感じ。
ここの家、後日談がある。
この家の土地の隅に、件の武者の墓と思われる祠があって、この家の
ばあさんがいつも花やら水を供えていた。ある日、台風が多く上陸した
年のこと、木造だった祠がひっくりがえってしまった。
一度めは元にもどしたが、ニ度め以降そのままにしていた。
そのころ婆さんは倒れ入院。時同じくして当主は事業失敗。
兼業農家だったから自宅を手放し、農地に新たに住んだ。
ここの家の伝承はもうひとつあって、代々、口が聞けないこが
生まれるというのがある。
たぶん、武者が助かった理由はこれではないかと思う。
普通ならねずみ算で子孫がいるはずなんだけど、子孫は
二軒ぐらいだった。そこの家の子なんかと仲良くてよく遊んだ。
ただ、口が聞けないというか、どもりというか、なんとなく
違和感はあった。ここの家は売却後、二人のオーナーが住んでるが、
土地のいきさつは知らないから供養なんてしてない。
オーナー一人目は事業がうまくいかなくなって転居。
オーナー二人目はサラリーマンだったけど芳しくない。
母が昭和三〇年代に土地の古老から聞いたんだそうな。
そこの土地ではタブーとされていて一部の人しか知らない。
そのての家人が出ると総じて晩婚になるから、子供は一、二人しか
出来ない。昔は5人とか普通だったから一族は増えるんだけど、
この家は四〇〇年間一軒のみ。戦国時代は残党狩りの褒美が
年収ぐらい出るし、匿えば同罪だったから、普通の人だったら
匿うのは無理に近い。
村社会って結構残酷で、白状するまで尋問するから、喋れなければ
最初から聴かないと思う。この落ち武者の口伝は大分はしょって書いてる。
事の経緯が本当はもっと細かくある。
書き物がないけど、多くの物証からほぼ実際にあった出来事だろうと
いわれていた話。この地域は里山指定地区に指定されたりして
すごい田舎。某映画で撮影に使われたところがあったりする。