あの後、自分は高校に進学して、高校を卒業するとそのまま就職して
町を出ました。Aは高校卒業後は大学に進学して、自分と同じく町を出ました。
自分たちは同棲という形で一緒に暮らして、Aの大学卒業後に結婚しました。
それからさらに月日が経って、自分たちに娘が出来て、その子が五歳に
なった時に、実家で法事がある為に帰省する事になったのです。
実家に帰る途中。自分たちはあの神社の前を通りました。鳥居や神社自体も
新しくなり、昔と全く違う様子でした。あの事件。一人の死者が出てしまった事件。
あの時、自分がMの死を確認しなければならなかった理由、それは……
「ねぇ・・・T・・あの時さ・・私たちがここで襲われてる時・・・あの悪霊の中に・・・
Mがいたよね?それを見たから、あの時確認に行ったんでしょ?」
Aは思い出した様に言いました。
「うん・・・」
そう答えると、二人とも黙ってしまいました。
「ママ・・おトイレ行きたい」
娘のEがそう言い出し、自分たちは実家へ急ぎました。
実家に帰って少しくつろいでいると
「E、お外で遊んでくるー」と娘が言ってきたので、
「車に気をつけてなーあんまり遠くに行くんじゃないぞー」と声をかけました。
そしたらなかなか娘が帰って来ないので、心配して探しに行こうとしたら、
半ベソかきながら帰ってきました。
「どこに行ってたんだ。心配してたんたぞ」と言うと、娘の口から信じ難い
言葉が出てきたんです。
「あのね。変なお兄ちゃんが、こっちにおいでって言ってきたの。
E行かないって言ったら、お手々引っ張られたの・・・。
それでね、後ろから違う人に引っ張られて、お寺(あの神社の事)に
入れられて、出れなくなってたの」
自分は驚愕しました。まさか・・・と。隣にいたAも顔が真っ青になっていました。
「それで?どうなったの?何にも見なかった?体はなんともないの?」と
Aが慌てて確認すると、
「うん・・・なにも見てないよ・・。少し待ってたら、ドアが開いたから、
帰って来たの・・・パパ、ママ、ごめんなさい」
泣き出したEを、Aが抱きしめて必死でなだめました。
自分はすぐに兄に連絡を取りました。
兄はあの後に、そのまま本山に戻り修行をしたいと申し出たのです。
兄に色々思う所があったらしく、両親や退魔士の方たちの了承を
得て本山に行きました。兄は直ぐに電話に出ました。
『おぉ、Tか。久しぶりだなー。俺も明後日くらいに戻る・・・
お前・・なんでそんな状況になってるんだ?なんだそれは!!お前何があった!!」
兄は何か気づいたみたいで、自分が状況を説明すると、
『いますぐ町から逃げろ!!いや・・手遅れか・・・
いいか?いますぐ両親やあの神社の管理人に言って、あの神社に
立て篭もるんだ。絶対に出るなよ!!俺らもすぐに行くから』
「は?冗談だろ?なんであの神社に・・・どういう事たよ!!」
自分はサッパリ状況が掴めず困惑していると、
『お前らを狙ってる奴な、マジで洒落にならん!!怨霊とか邪霊とかそんな
レベルじゃない。まさに魔物だよ!!
信じられん・・どうやったらそんな風になれるんだ・・・。
いいか。すぐに神社に行くんだ!!』
と言って電話が切れました。
自分は困惑しながらも皆に事情を話し、また大騒ぎになりつつも
神社に立て篭もりました。そして、ご神体のある部屋で朝を待つ事に
したのです。深夜遅くなり、そろそろ眠気がきた時、
「おい!!俺だ!!来てやったぞ!!開けてくれ!!」と、兄の声が正面の入口から
聞こえてきました。しかし、自分たちは兄のはずがないと思い、
「入りたいならそっちの方から入ればいいだろう」と言いました。
自分とAは、そいつが誰だか判っていました。
「M・・・Mなんだろう?判っているんだよ・・どうしてなんだ?どうして俺たちを・・・」
と言った瞬間に入口が開き、そこには当時のままのMがいました。
「あ・・・Eを連れて行こうとしたお兄ちゃん」とEが言いました。
やっぱり・・・。自分はそう思いました。
そしておそらくは、Eを後ろから引っ張って神社にいれたのは、この神社に
祭られている神様なんだと思いました。正常に戻った神様は、あの事件の
被害者である自分たちの娘を守ってくれたのだと感じました。
この神社に入ってご神体のそばにいて、そんな気がしていたのです。
「あのお兄ちゃん、どうして体が真っ黒でお目々がないの?」と娘が言いました。
そしてMを再び見てみると、全身がどす黒いオーラのように包ままていました。
目もないのではなく、真っ黒な目だったのです。
そして此処にいるだけで気を失いそうになるくらいの憎悪、怨念、殺意などの
波動が溢れ出ていました。魔物。
兄が言った事を思い出しました。まさに魔物でした。
どうやったら、人間だったものがこんな風になれるのか・・・。
自分は家族を守る使命感と、目の前の存在に対する恐怖心で
震えていました。自分たちとMはしばらく睨み合ったままでした。
おそらくMは、自分たちに襲い掛かろうにも、ご神体が邪魔して入る事は
出来ないのだろうと思いました。自分は二人の盾になるように前に出て、
AはEをしっかりと抱きしめていました。そして、朝になればMの力も弱まり、
駆け付ける退魔士たちに今度こそ浄化される・・・。
Mはそれを解っているかの様に、自分たちとご神体を凄い形相で
睨みつけていました。そして何かを口走り、真っ黒な目で自分とA、Eを
交互に睨みながら、消えていきました・・・。朝日が昇っていたのです。
自分は終わった・・・と安堵しました。Aは泣いていました。Eは寝ていました。
しばらくして兄たちが駆け付けて来て、改めて浄化を行う事になりました。
相手が相手なだけにかなり手こずってたみたいですが、無事に浄化が
終わったと告げられました。
そして自分たちはご神体の部屋に呼ばれて、今回の事、そして前回の
事件の発端と真相を語られる事になりました。まずMですが、あそこまで
魔物化してしまうと浄化や浄霊は不可能との事で、消し去るしかなかったと
言われました。魂の消滅。
それは、前世から続いてる魂をなかった事にされ、あの世に行く事はおろか、
生まれ変わる事も出来ない、本当の死。これ程恐ろしい事はないと思いました。
そして、前回の事件でMは変死だと聞かされてましたが、真相は自殺だったそうです。