生ビールを2杯グイと飲み、引き続いて「じゃぁ、サワーを一つ」と注文するこの方。
マズイ、マズイ。本当にマズイ。
何がマズイって、こんな狭いところに、自ら大酒をかっ食う人と差し向かいで座っているんですよ。
しかも、他の出席者が来る様子はまるでない。
孤立無援・・・
この方は、注文した料理をワシワシと掻き込み、大酒をかっ喰らい、「もう一杯!」とサワーを注文し続ける。
お酒を全く飲まないオイラから見れば、まるで別の生き物、別の国の人のように思える。
そして、「オイラさん、私って営業に向いてないんですかねぇ」と唐突に問い掛けてくる。
「私、こんなに頑張っているのに、どうしてなんでしょうね」とも言う。
いや、向いているかどうかオイラにはわからないです。あなたは営業職をサポートする役割の営業事務を担当とする方ですよね。営業職とは異なる職種です。どの職種に向いているか、上司に膝を交えて聞くべきでは、と言いそうになったのだけれど、そこは我慢する。
「私の同期の子も、何人かが営業職に異動になっているんですよ。それなのに私だけ異動にならないんですよ!どうしたらいいんですか!!」と結構大きな声で言い、周りから「何事?!」という視線で見られる。
そうして「今度はハイボールちょうだい。濃い目の」と追加の飲み物を注文する。
「主任にも異動の希望をずっと出しているんですよ。それなのにいつまで経っても私の希望を聞いてくれないんですよ・・・。これだけ頑張っているのに認めてくれない・・・もう、どうしたら良いのかわからないんです・・・」と泣き出す。
いやいや、オイラは社外の人間だし、オイラに言われても困るし・・・。
このまま酔っ払いの文句いい放題状態が続いてしまったら、どう対応すべきか。まるでわからない。
そういえば、以前勤務していた会社の先輩から「女性社員から相談を受けるときは、決して一対一で対応するな」と日頃から言われていたことを思い出した。
「女性からの相談事は、100%トラップだ。仮にその女性が酔っ払ったふりをして何かを言ってきたら、もうこれは赤信号。仮に酔っ払って酔い潰れた女性を親切心で介抱して、自然の流れで肉体関係になってしまったとしたら、どうなると思う。事後、その女性が「無理やり酔わせて私を犯した」と男を糾弾したらどうなる。男は何を言っても信じてもらえないし、そもそも反論できない。それがこのトラップの怖いところ。だって誰もが「女性は弱い者で、女性への被害は男の側に非がある」というバイアス視点で判断してしまうものから。考えてみろ。女性がオッサン連中の前で嘘泣きして「お酒を飲まされて、ベットに連れ込まれた」と言ったらトラップに掛かった男はジエンドだよ。女性の嘘泣きは男に対する必殺のカードだ。でもね、女の敵は女。女のトラップを見破り、嘘泣きを見破れるのは女だけ。だから、女性から相談事を持ち掛けられたら、まずはベテランの女性社員に話をして、一緒に聞いてもらわなきゃだめだよ。自分の身を守るためにね」ということだった。
今回の場合は、「相談がある」とは言っていなかったけれど、一対一の状態だ。
それに、この方が話していることは「相談事」だ。さらに酔っ払いだ。
これはまさにオイラの先輩が言っていた「トラップ」に付合する。赤信号が点滅している!
ヤバイ、ヤバイ。
そうだ、こうなってしまったからには、援軍を呼ぶしかない。
誰を呼べばいいのか。
そして、オイラと最も頻繁にやり取りをする、お取引先の営業の方の顔が思い浮かんだ。
そして祈るような気持ちで電話をかけた。(続く)