オーナーさんが手術・入院されてから、しばらく経った。

オーナーさん不在の間、牧場には、大型動物を専門とされる獣医師さんからの紹介で、若い獣医師さんが牧場の面倒を見てくれるということになり、オイラが牧場に行く機会は少なくなった。

正直に言えば、馬たちや牛、犬のことは気になっていたのだけれど、トカゲのような冷たい目をした坊主頭の獣医師と関わることが何よりも嫌だったし、一方で、(自称)「プロの獣医師」が紹介する若手獣医師なのだから、動物たちのことは心配なかろうという気持ちもあった。(自称)プロという「看板」を信じていただけなのかもしれない。これはオイラの慢心だが。

そんなことで、牧場に行くことなく、いくつかの週末を過ごした。

 

そうしているうちにゴールデンウィークの時期が近づいて来た。

早いものだ。今年も3分の1が過ぎてしまった。

今年は新型コロナウィルスも以前ほど騒がれなくなった。インフルエンザと同じく「普通の季節性の病気」と分類されることになり、今年のゴールデンウィークは賑やかなものになるだろうと新聞、テレビは挙って報じていた。

 

でも、オイラは、どん詰まり感を抱えたままの日々を過ごしていた。

実は、あるお取引先が資金繰りに苦労しているという話は以前伝え聞いたことがあった。

何だったかうろ覚えだけど、確か中小企業向けの低利の融資を受けているとかで、返済には困らないとお取引先は言っていたのだけれど、昨今の円安の影響か、それとも物価の高騰が原因か、一気に手持ち資金が少なくなった。しかもこのお取引先の主要取引銀行はいわゆる地方銀行で、資金力が弱いところだったということも災いして、一気に、連鎖的に資金が枯渇したらしい、という話だった。

超弱小個人事業主のオイラにとって、いかにその取引額が小さいとはいえ、お取引先からの支払いが滞ることはオイラの生活を直撃することになるので、ハラハラしながら毎日を過ごしていた。

おかげさまで、お取引先からの支払いは、滞ること自体はなかったけれど(複数回に分けて支払われた)、同時に将来的な取引は現時点では予定していないと伝えられたので、実のところ厄介払いをされた、それがお取引先の現状を表している、と優等生オイラは理解した。

 

そんなある時、牧場のオーナーさんから連絡が来た。

オイラは電話は受けない主義なので、多くの場合は放置するのだけれど(要件があれば伝言を残すはず)、オーナーさんからの電話ということはもしや何かあったのかもしれないと思い、電話に出た。

オーナーさんの声はとても元気そうで、ひとまず安心した。

そして、「今度の週末牧場に来てくれや。俺も行くし」と声を掛けてもらい、しばらく行っていないこともあり、季節的にも気持ちが良い時期になって来たので、行ってみることにした。(続く)