何しろ墓地までの道のりは長いから、十分な時間がある。

車内を見渡してみる。

 

どれどれ。

ステアリンングの真ん中にニッサン のマークがある。やっぱりニッサン車 だ。

フロントシートの背もたれは高め。サイドサポートの張り出しも大きい。

運転手さんの姿は全く見えない。

後席からは前方はよく見えない。尻が沈み込んで、背もたれの角度も寝ている。

タクシーなのに4人乗車が適している後席シートの形。オイラは後席左側に座っているのだが、寝そべる感じのシートポジションは好きではない。

後席に3人乗れなくもないが、後席の真ん中に乗ったら体のホールドが維持できないから、お客さんからは不評だろう。

 

それにしても、このサイズのニッサン車って何だ?

そもそも、実際のところ、個人タクシー車でニッサン車を見かけたことはない。

今のニッサン にはセドリックもグロリアもない。クルーもない。ブルーバードもプリメーラもない。ましてやローレルもプレジデントない。生き残っているセダンはティアナくらいか。でもティアナは、今乗っているタクシーに比べると、少し小さいように思う。

 

そうだ。そういえば、北米ニッサン にマキシマ、アルティマとセントラの三兄弟がある。オイラがかつてアメリカに住んでいた時は、一時期アルティマに乗っていた。日本ではアルティマはブルーバードと呼ばれていたけれど、いつの間にか日本からは消滅した。セントラはサニーか。でもサニーも日本から消えた。マキシマの日本名は何だったけ?そう、セフィーロだ。でも、セフィーロも日本から消えた。三兄弟全滅だ。これら「アメリカ産」が日本で、しかもタクシー車として走ることはまずない。そもそも日本国内で見たことない。

 

それと、インフィニティに大型セダンがあったな。確かQとかGとかっていうシリーズ。そうそう、何故かインフィニティのマークをつけたまま、日本では「スカイライン」として売られていたインフィニティのセダンがあったんじゃなかったっけ。インフィニティ印のスカイライン。意味不明だ。

 

それにしても、ニッサン ってどんな車を作りたいのかさっぱりわからない。

ブランドへの尊敬というか、過去からの車名への思いとか、ファンを維持する大切さとか、そういうことを一切合切無視して金儲けだけに執心するやり方は、オイラには全く理解できない。

でもまぁ、過去、英BMCからオースチンをノックダウン生産していた時に、BMCのAタイプエンジンをマルパクしておいて、サニーにA10とかいってシラっと乗せちゃうあたりで、ニッサン という会社の泥棒体質がよく分かるけどね。そもそも自力開発するよりも他社から盗んだ方が手っ取り早い、という発想しか無いのだよね、あの会社。プリンスからもミツビシ(の軽)からも、エンジン技術「だけ」を掠め取ってポイしたし、ジヤトコ(トランスミッション)も、ニチラ(冷却系)も、しゃぶり尽くして売っぱらったし。

女衒じゃあるまいし。今の姿は、自らがやって来たことへの天罰だよ。

 

運転手さんに「この車、新しくしたんですか。」と聞くオイラ。

「わかります?そうなんですよ。この車、手に入れたばかりでね。」

「やっぱり。新車の匂いがするから、そうかなぁと思ったんです。」

「新車の匂いが分かるの?ハハハ。嬉しいねぇ。普段は「回送」にして乗っているんだよね。ほら、今、こんな世の中でしょ。街を流していても、駅前で客待ちしても、誰も乗らないから、営業に出るのが億劫になっていたんだよね。でさ、どうしても乗りたい時は「回送」してる。(笑)」

「でさ、さっきの婆さん、俺のお袋なんだけどさ、駅まで乗せろって言うから乗せてきた。そしたらお客さんがいて、○○墓地までなんてさ。いいタイミングだよな。これで営業も出来る、なんてね。ハハハ」

「インフィティですか?」とカマを掛けてみる。すると、「車、知ってるの?詳しいね。嬉しいなぁ。最近の人、車好きじゃないでしょ。全然、興味なさそうだもんね。お客さんの仕事、車関係?そう、これ、スカイラインなんだけど、ちょっと前まではインフィニティのマークが付いてたんだよね。でね、最近、ニッサン のマークが付いたから買っちゃったんだよ。」

「へぇ〜。スカイラインのタクシーって珍しいですよね。見たことないです。足回りもタクシー向けに変えてあるんですか。」と聞くと、「ううん、全然。左後に自動扉をつけたくらい。そのほかはノーマルだよ。でもね、実はこの車、特別な車なの。400Rって聞いたことある?」

「えっ!400R!?確かV 6の3リッターツインターボの400馬力の車でしたっけ?」

「そうそう、その通り。よく知ってるね。いや、俺さ、昔からニッサン 車が好きでさ。若い時はZに乗っていて、タクシー乗るようになってからはセドリックとかクルーとかを乗り継いできたんだけどさ。ニッサン のタクシー車両って全滅しちゃったでしょ。NVなんて、あんな宅配便みたいなのにお客さん乗せるのは嫌だね。格好悪すぎるよ。」

「でもさ、何かの記事でさ、ニッサン のバッジのついたスカイラインが出ててさ、しかも400馬力の車が出るっていうじゃない。GTーRじゃないのに400馬力だよ。信じられないよね。で、どうしても気になって、買っちゃったんだよね。ローン組んで。この時期に。馬鹿だよね。ハハハ」

「今ってさ、こんな時期だからタクシーも営業上がったりなんだよね。で、個人タクシーを廃業する人が多くてさ。それなのに、サラリーマン辞めてタクシー業界に入って来て、それから個人タクシーを開業する人が結構いるだよね。で、そういう人はさ、廃業する人から車両ごと引き継いで改めて開業するんだけどさ、その車両のほとんどはクラウンなんだよね、トヨタの。たまにセルシオとかあるけど、ほぼ100%トヨタ車。ニッサン 車なんて走行距離30万キロ超えのセドリックくらいしかないから、間違いなく廃車。」

「俺の場合はクルーを使っていたんだけどさ。結構乗ったんだよね。あれってローレルのシャーシーとエンジン使っているでしょ、RBの6発。だから楽しかったのよ、乗ること自体が。後輪駆動でマニュアルって最高でしょ。営業してても楽しかったもんな。それなのに、もうニッサン には個人タクシーで使えるような車を売ってないんですよ。おかしいでしょ。どうしちゃったんだろうか、って思ってた。」

「そんな時に、あの記事を見ちゃったから、気持ちが踊ってさ。で、店に行って、スカイラインある?って聞いても良い返事がないのよ。スカイラインって、全然売れてないから置いていないなんて言うんだよね。ニッサン の営業は酷いよね。売る気がまるでない。」

 

運転手さんの独白は続く。(続く)