※※ この本を読んで一言 ※※

「本当にあった怖い話」の人間が一番怖い系の話を小説版にしたらこんな感じになるんだろうな~と思える作品です。

それぞれの短編はとても面白かったです。

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この本はインターネットでミステリー小説を探しているときにオススメとして結城真一郎さんの「#真相をお話しします」が出てきた作品で、面白そうと思って買ってみました。

 

タイトルからして、以前読んだ長江俊和さんの「出版禁止」や「放送禁止」的ないわくつきな人や不可解な出来事を取り扱い、「実は真相はこうでした」といった作品かなと思っていました。

そして読んでみて、その予想は当たらずとも遠からずでした。

 

この作品は短編集で共通しているのは「秘密を抱えた人間」を描いていることです。また「子どもも大人と同じように犯罪をする」というもの最初と最後の短編に共通するテーマです。

 

またどの短編でも内容にその時の世相、技術、道具などを反映させているのも特徴でしょう。

しかしその分、数年後にこれを読んだ読者は「そんなこともあったな~」とやや古臭く感じることでしょう。

 

さて次からそれぞれの短編の感想を書いていきます。

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【惨者面談】

オープニングを飾るだけあってこれはなかなか面白かったです。

最初は家庭教師の派遣会社が何かやらかすかと思ったら、「そうきたか!」と思える展開で凝ってるなと思いました。

母親は最初から怪しかったですが、それがまさか隣の奥さんだったとか、矢野家の子どもだと思っていたはまさかたまたま家に侵入した空き巣だったとか、殺された矢野家の母親がまさか自分で殺される原因を作っていたとか、まさかの連続です。

 

【ヤリモク】

この短編では「ケント」は連続殺人犯で「マナ」は美人局の実行役というのはすぐにわかりましたが、まさか美雪が美人局のグループの一員かと思わせるラストは驚きました。

ただ「ケント」のマッチングアプリ殺人事件を犯す理由が、美雪に似た女性を殺して美雪を警戒させるという、何とも回りくどいわりに効果も怪しい方法を取ったと判明した時はズッコケる思いでした(笑)。

 

【パンドラ】

この短編は他と違い事件とか殺人はない話で、綺麗にまとまっています。

子どもができない夫婦の苦悩、殺人犯の子かもしれないという美子の苦悩、もしかしたら殺人犯も冤罪かもしれない、など複数の問題を精子提供でまとめ上げた、これまた凝った内容で読み甲斐があります。

 

そして最後まで、真夏は本当に翼の子なのか、香織は翼以外の男の精子で真夏を妊娠したのかなど謎が残ったままなのでモヤモヤします。

 

結局、翔子も真夏もDNA鑑定をすれば真相は分かってしまうのですが、皆がしないという選択をしているので、ここではそれがベターなのでしょう。

 

【三角奸計】

この短編は本作品の中で、読み進めると一番予想のしやすいものでした。

リモート飲み会という段階でメンバーは実はその場にいないとか、背景をごまかしているとかいくらでもやりようがありますからね。

 

ちなみに「オンライン飲み会」こそ、一時世相を賑わせたツールであり、今は死語となっていそうですが、なかなか会えない遠方の友人とかと話すのに需要はありそうですね。

そしてラストの宇治原のセリフ『やっぱり”大切な話はリモートじゃなく対面(リアル)ですべき”だな』は、結城さんのリアルな感想なのでしょう(笑)。

 

【#拡散希望】

これは今の時代にマッチしたYouTuberの話で、ラストを飾るのにふさわしい話でした。

そしてミステリ要素も5つの短編の中では一番だったと思います。

 

YouTubeにありがちな、「話題づくりのための壮大な悪ふざけ、迷惑行為及び犯罪行為」が題材であり、モラルのないYouTuberがやりそうではありますが・・現実ではここまでやる奴はいないと信じたいです。

 

ちなみに【#拡散希望】でも最初の【惨者面談】であった『俺たちが思っている以上に、小学六年生は大人だぜ』もテーマの一つです。

大人も子供もモラルのない奴はいるという事ですね。

 

しかしラスト1行前の『さあ、選べ。これぞ、視聴者参加型エンタメの完成系。』というのは、現実であれば恐ろしい事であり、許されることではありませんが、真実であると思います。

 

中世の日本やヨーロッパでも死刑は見世物または娯楽の一つだったということでしたから、現在では形を変えて、動画配信で人の死が見世物になったときに、視聴者がそれに熱狂することは避けられないでしょう。

 

ちなみこの短編を読んで、以前に私が読んだ渡辺浩弐さんの「1999年のゲームキッズ」という作品で、ネットの向こう側の人間が裁判員となって被告の罪に対して意見を言い、多くの意見のなかで一番支持された意見により判決が決まる、という視聴者参加型裁判員裁判を思い出しました。

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最後になりますがこの本は1日の通勤の往復の電車の中だけで読み終えてしまうくらいサクサク読めますし、1ページ辺りの文章もあまり多くないので、普段読書をしない若い方におススメできる作品だと思います。

 

(個人的評価)

面白さ   ☆☆☆☆

恐さ    ☆☆

ミステリ  ☆☆ 

読みやすさ ☆☆☆☆☆