※※ この本を読んで一言 ※※

久しぶりに感じる真偽ワールド!

凄惨な事件や出来事で、登場人物たちは大真面目であるのに、全体的にコミカルでバカバカしく感じてしまうその作風は井上さんにしか出せない味でしょう(笑)。

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井上真偽さんの作品は「その可能性はすでに考えた」「探偵が早すぎる」「恋と禁忌の述語論理」を読んでいます。

 

今、その3作品を思い返して思うことは、「どの作品も屁理屈がすごかった気がするな~」といったものです。

 

実際、屁理屈がすごいのは前作の「その可能性はすでに考えた」だけですが、他の2作品も負けず劣らず事件の説明が長々とされていたような気がします。

それで「事件の説明が長い=屁理屈がすごい」と脳内で変換されたのかもしれません。

 

そんなわけでこの「聖女の毒杯」も屁理屈がすごそう!と思いながら読み始めました。

 

読み終わって、やっぱり屁理屈はすごかったです(笑)。

それでも前半は俵屋家での結婚式で聯が俵屋家相手に活躍する話から、後半はシェンの船に舞台が移り上苙がマフィア相手に活躍するという2部構成なので展開としては飽きずに読むことができました。

 

特に聯は前作は敵として登場したので、掘り下げが少なかったですが、今回の探偵役で可愛げがあるので応援したくなりますね。

それでいて探偵役でありながら、結局解決に導くことができないところもご愛嬌と言ったところでしょう。

 

また今回は後半のフーリンが自分への嫌疑が向くかもしれないという緊張感が伝わってきて、読者の私までどうなるのかドキドキしながら読んでいました(笑)。

 

しかし・・それでもやっぱり屁理屈がすごいので、事件の説明を読むのに苦労します。

各人が相手を否定をするにも重箱の隅にあるような事実を組み合わせて否定するので、理解するのに時間がかかります。

 

それが作品のキモなので、私もそれは受け入れているつもりですけどね(汗)。

 

その他にも作中で感じた雑感を書いていきます。

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探偵が早すぎる」の感想でも書いていますが、最終的に否定されることが分かっているのに屁理屈をこねる敵役(悪役?)はどうしても小物感を感じてしまいます。

 

そしてシェンやリーシーが残酷なことをしようとしても、寸前のところで邪魔が入って残酷なことは行われないので、結局悪役もコミカルな感じで終わってしまいます。

 

まあそれが井上さんの作風であり、いいところなんですけどね。

 

最終的には「花嫁父が替え玉を使って、自分がフリーになっている間に毒を仕込んだ」とのことですが、これは否定できないのでしょうか?

 

もっとよく検証したら否定できるのではないか・・と思いますが、私ではとても思いつきません。

 

エリオは最後に仮死状態になる毒を飲んだようですが、飲んで数秒で心肺停止するような毒薬があるのでしょうか。

 

また仮死状態になったエリオが、後に何らかの方法で脱出したようですが、愛犬(?)を殺されたシェンが仮死状態のエリオをそのままにしておくものでしょうか。

 

死体であっても念入りに残酷に処置しそうなものですが、まあこれはご都合というものかもしれません。

 

フーリンも家政婦を実行役にして砒素で俵屋家を殺そうと画策していましたが、上苙が言うようにフーリンらしくない方法だと思います。

そんな面倒な殺し方をなぜ選んだのか疑問です。

 

そもそも上苙が証明しようとする「奇蹟」とは何なのでしょうか。

作中では人為的な可能性をすべて否定し、「奇蹟」としか言いようのない事象であることを証明するとのことです。

 

もし世の中に「奇蹟」はあるという前提とした場合、人が死んでいて、それが殺人か事故死であっても「人知の及ばない超自然的な力(もしくは意志)により引き起こされた」ものだった場合はどうなるのでしょうか。

 

その場合は「奇蹟」を目にしていながら人間ではそれを「奇蹟」と認識できないでしょう。

奇蹟があるという前提であれば、どんな死に方であっても「これは「奇蹟」によって死亡した」という可能性は否定できないのではと思いますが・・。

 

また風に乗って夾竹桃の花びらがたまたま口に入って、誤って飲み込んで中毒死してしまった場合、普通は「自然現象による不幸な事故死」でしょうが、「奇蹟」があるなら「カズミ様による奇蹟だ!!」と屁理屈をこねることができると思います。

 

というわけで普通に考えればフーリンの言うとおり、上苙がやっていることは不可能だと思いますが、上苙のような天才はそれでもできるという確証があるのでしょう。

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最後になりますが、今まで読んだ井上さんの作品に共通して言えることですが、

・とにかく完成度が高い。

・一つの作品で登場する解釈やトリックが多い。

です。

 

特に「解釈やトリックが多い」は一つの作品で大盤振る舞いしすぎて、ネタ切れになってしまわないのでしょうか。

そして高い完成度を求めるあまり、ネタが集まるまでの間隔が長く、そのせいで寡作の作家になっているとかなど、いらぬ心配をしてしまいます(汗)。

 

次にどの井上さんの作品を読むのか決めていませんが、楽しみで仕方ありません。

 

(個人的評価)

面白さ  ☆☆☆

トリック ☆☆☆

登場人物 ☆☆☆☆

屁理屈度 ☆☆☆☆☆