※※ この本を読んで一言 ※※

メフィスト賞受賞作としてはまっとうなミステリ&サスペンス的な作品だったと思いますが・・なかなかに難解&屈折したある意味メフィスト賞らしい作品でした。

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浦賀和宏さんの作品は「彼女は存在しない」以来2作品目になります。

彼女は存在しない」は5年前に読んだ作品ですので、自分で書いた感想を読んでみても内容はほとんど思い出せません(汗)。

 

果たしてこの作品は私の印象に残るのか・・読み終わりましたがなかなか判断は難しいです。

 

根底には安藤の持つ音楽の知識と生い立ちや心情の葛藤を絡めた、安藤の鬱屈とした青春物語だと思います。

 

そして安藤の出生の秘密を中心にしたミステリも展開されます。

 

しかし安藤の語りに乗っかるようにいろいろな哲学問題や思考実験が物語の大半を占めています。

作中でも語られる「胡蝶の夢」「チューリング・テスト」「道具主義」だったり、他にも金田や萩原が語るエピソードは「世界5分前仮説」「哲学的ゾンビ」「自由意志」などがベースになっているのは明白でしょう。

 

そこにさらにコンピュータの中に存在すると思われる『裕子』の存在、人の脳から信号を取り出す、ラストで裕子が世界中に「解放」され、被害が世界的に出るなど科学的、というよりSF的要素もあります。

 

また「本格的ミステリ」を揶揄するかのように、安藤は推理小説が、名探偵が嫌いと言い、名探偵役になりうる金田を殴り倒す様は、アンチミステリの要素もあるように思います。

 

いろいろな要素がこれでもかと詰め込まれていて、これが19歳の時に浦賀さんがメフィスト賞に応募し、20歳でデビューとなったのですぐれた作品であることが分かります。

 

読み始めたら一気に引き込まれて読み終わりましたが、ラストが結局夢オチ??、それとも安藤が見た幻??なのかよく分かりません。

 

また主役の安藤は自分で「ワガママ」「自分勝手」を自覚をしているくらいで、実際に本当に自分勝手だと思うので感情移入もできず、読み終わって「う~ん・・」という感じでした。

 

それでもこの作品の中で安藤のセリフで一番面白いのが

『俺は名探偵が嫌いなんだ。完全無欠で、小説内の世界で絶対的な権力を持ち、最後には容疑者を集めて得意そうに犯人を指し示す名探偵が、俺はそんな名探偵が登場するたびに思っていた。お前が最初に殺されればいいのに。』

 

これはある意味至言だと思います。

もっとも最初に名探偵が殺されていたら、その時点で名探偵ではなくなってしまうんですけどね(笑)。

 

読み終わった後に浦賀さんの事をインターネットで検索したら、もうお亡くなりになっているのを知ってびっくりしました。

 

もうこれ以上は浦賀さんの作品が増えないのは残念ですが、それでも未読の作品はまだまだあるので、浦賀さんの他の作品も読んでみたいです。

 

(個人的評価)

面白さ   ☆☆☆

登場人物  ☆☆

音楽知識  ☆☆

完成度   ☆☆☆☆