久しぶりにメフィスト賞受賞作を読みました。

 

これを読むきっかけは岡崎隼人さんの「少女は踊る暗い腹の中踊る」を読み終わった後、他の方の感想で「舞城王太郎的」と書いてあり、そこで舞城さんを知りました。

この時は「煙か土か食い物」も殺人鬼が残酷に人を殺しまくる作品だと思っていました。

 

そこで舞城さんを知り、調べたらデビュー作がメフィスト賞受賞作だったので、これは読むしかないと思っていました。

 

それから1年以上経ち、今年の1月に本屋で舞城さんの「好き好き大好き超愛してる。」を見つけ、それを見た瞬間、全く中身や表紙も見ないように手に取り、併せて「煙か土か食い物」もあったので2冊を買って帰りました。

そして「煙か土か食い物」を読み始めました。

 

読み終わってみて「少女は踊る暗い腹の中踊る」との比較をすると、共通するところありましたが両作品とも特徴的なので、全く別物だと言えます。

 

そしてこの「煙か土か食い物」は自分の中でなかなか評価が定まらない不思議な作品です。

まずこの作品は既存のジャンルに分類ができない気がします。

強いて言えば「舞城作品」というジャンルなのでしょうか(笑)。

 

そして表紙の帯に「圧倒的文圧を体感せよ」と書いてありました。

確かに文章量は多く文圧がすごいといえばすごいです。

そして文体(語り口)が独特ですが一気に読めましたが、これはこれで好き嫌いが分かれると思います。

このノリが好きかと問われると・・私はまだどちらとも言えません。

 

内容も面白かったとも言えるしつまらなかったとも言えます。

ミステリー要素もあるしアクション要素もあるし暴力的描写もありますが、根底あるのは四郎の家族愛、人間愛の希求であると思っています。

 

ただ要素が多くあったため全体に物語が散逸している印象が残ります。

一つの作品に統一したテーマが必要である必要はないのですが、読み終わると何が言いたかったのかな~という気になります。

その原因はこの作品はデビュー作だったのでまだ荒削りっだのかもしれません。

 

その荒削りさは読者的には重要と思えたルンハバをあっさり殺してしまったことや、またラスト近くで二郎の現在を何の脈絡もなく紹介しておいてあとは放置しておくところなど随所にあります。

 

しかしこれは舞城さんは狙ってやっていたのではとも思います。

なぜなら作中では上記以外でも物語と関係のない人物(ルパンやウサギちゃんなど多数)が出てきますし、物語とは結果的に関係がなかった(と思われる)マリックのエピソードや、物語では使われなかった暗号解読によるドラえもんのキャラクターの名前など、物語と関係ない記述が多いです。

 

もしかしたら舞城さんは四郎と同じように優秀な頭脳を持ち、時には天啓のようなひらめきがあるので、物語を書く上でプロットとか考えずライブ感覚で書いているのではないかと(笑)。

 

なおこれは私が以前当ブログで伊坂幸太郎さんの「ゴールデンスランバー」の感想の中で「物語に無駄な部分がないのが伊坂さんの作品であり、記述の全てに意味があり、全てがつながっていると思わせるくらい緻密です。」と評しているのと対照的であると思います。

 

さてここからはどうでもいい細かいツッコミのような事を書いていきます。

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この物語は四郎の一人称の文で「俺は旗木田阿帝奈の胸の上や脇やらで赤ん坊のように深々と眠り続けて十五時間たったのにまだ起きない。よっぽど疲れていたんだね。」で終わります。

普通、自分が寝ている所を一人称では語れないから少し不自然に感じてしまいます。

まさか四郎が死んでしまって魂が自分の肉体を見ているのではないか・・と不安になるのは私だけでしょうか。

または満身創痍の四郎が物語の中で語られたNDEを体験しているのでしょうか。

 

そもそも四郎も魅力的なのかそうでないのかというのも評価が私の中で定まりません。

 

自信家で粗野で暴力的ではあるけど、四郎自身は育ちのせいで今は粗暴かもしれませんが根が善良なので、今の状況をいいとは思っていないようなのです。

そして支離滅裂なキャラクターですが、人間というのはそんなに分かりやすく分類できないので、実に人間らしいキャラクターともいえるでしょう。

 

さて私がずっと気になっていた事は・・舞城王太郎さんの名前が「ジョジョの奇妙な冒険」の「空条承太郎」からつけられたのでしょうか。

奈津川家の男は全員180cm以上の身長があり(ジョースター家の男は190㎝以上ですが)、四郎たち兄弟は日本人と外国人(この物語ではユダヤ人)のクォーター(空条承太郎はハーフですが・・)であるし、全体のテーマは”家族愛”だったり”過去から続く一族の血の因縁”であったりと、ジョジョとの関連はありそうです。

 

そう考えると四郎が作中で言った「グッド」も英語では当たり前の表現かもしれませんが、これもジョジョをヒントに使ったのではと勘ぐってしまいます。

 

そして舞城さんが「JORGE JOESTAR」を執筆することになったのは舞城さんがジョジョ好き故に実現したのか、それともジョジョが好きとかは全く関係ないところで決まったのか・・調べてもよく分かりませんでしたが、読者には面白ければ関係がないことですね(汗)。

 

二郎の悪行は小学生や中学生であっても逮捕されているのではないでしょうか。

それとも丸雄の政治力で逮捕は免れていたのでしょうか。

そもそも丸雄の場合、二郎の素行がここまで悪いとそれが政治的スキャンダルになって政治家でいられないのではないのではないか・・と思うのですが、実際にはあまり表ざたにならないのでしょうかね。

 

町田康・・私にとっては懐かしい名前です。町田康名義の著書は読んだことありませんが、町田町蔵名義で活動していたころの音楽は聞いていました。

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さて最初に想像していたよりも残酷さはなく、他の作品ではあまり感じることのない戸惑いが強い作品でした。

さすがメフィスト賞受賞作!!一癖も二癖もあります。

次はそのうち「好き好き大好き超愛してる。」を読もうと思います。

それを読み終わったときにどう感じるのかが楽しみです。

 

(個人的評価)

面白さ       ☆☆

登場人物      ☆☆

疾走感       ☆☆☆☆

メフィスト賞っぽさ ☆☆☆☆☆