乾くるみさんの作品はイニシエーション・ラブ」「セカンド・ラブ」「嫉妬事件」に続く4作品目になります。

 

どれも衝撃的な結末であり、独特の読後感があったため、乾さんの作品は”読むのにパワーがいる”という印象を持っています。

 

それなのでこの「リピート」も買ってから”よし!読むぞ!!”という気になるまでに時間がかかりました。

 

そんなわけで読みはじめると・・やっぱり最初から面白くて引き込まれます。

 

また面白いと思いながらも、今まで乾さんのさん3作品を読んだ経験から、途中の記述に何かオチに関係する仕掛けがあるのでは?と思いながら読んでいました。

 

それにしても「タイムリープもの」というツッコミどころの多い題材をよく選んだなと思います。

 

嫉妬事件」の感想でも書いていますが、乾さんが取り上げる題材は常人にははかり知れなのでしょう。

 

もちろんSF的な題材は読者からのツッコミが多いのは乾さんも想定済みだと思うので、それだけにその読者の想定をどう裏切ってくれるのかがポイントだと思って読んでいました。

 

この物語は文章にはアッと驚く仕掛けはないようでしたが、やはりイヤミスとも違う読後感が残ります。

ちなみに読んでいる最中、毛利にとって都合のいい人生になればなるほど、最終的に毛利が不幸になるという”読み”は当たりました(笑)。

 

それにしても小説を読んでこんなにハラハラドキドキしたのは久しぶりな気がします。

それくらい先が読めず、先が気になり、真相が分かるたびに驚きっぱなしでした。

 

この作品はミステリーではないと思っていますが、リピーターたちが相次いで死んでいく状況は、風間たちがネタバレするまではどうなるんだろうと、通常のミステリー以上にドキドキしました。

 

そして作中でミステリーの名作「そして誰もいなくなった」に言及されてましたが、それも絡めてくるとは脱帽です。

 

また人間ドラマとしてもとても面白いです。

 

毛利は女性にモテるダメ男かというと・・ダメな部分はもちろんありますが(笑)、基本は常に誠実であろうとしているので、同じ男としては応援したくなります。

 

むしろ由子のわがままさや鮎美のしたたかさの方が怖いと思うのは私が男だからでしょうか(汗)。

 

「常連」の風間と池田のやっていることは、リピーターの常連ならではの発想だと思います。

しかしそれを毛利の前でゲストたちが生き残るかどうかを見ることに対して、平然と『要するに、退屈しのぎだったんです。』と言えるメンタリティはもはや普通の人間ではありません。

 

だから普通に生きている人からすると、その考え方は傲慢だと感じたり、人の人生をゲーム感覚で楽しむなと思うのは当然です。

 

だからこそR10でつらい経験をしてR11に来た瞬間の毛利がラストで『僕がリピーターとして来たからには、この世界のみんなを幸せにする。してやる。』の決意もよく理解できます。

 

結局、毛利がその決意した瞬間に死んでしまい読者を唖然とさせたまま終わらせるのが乾さんのすごいところです(汗)。

 

物語の性質上、当然過去に戻ったとしても幸せになれるものでもないと思っていましたが、ここまで私の予想のはるかナナメ上の展開で、いい意味で裏切ってくれました。

 

さすがハズレなしの乾さんだと思いました。

 

さてここから私個人の愚にもつかない独り言を書いていきます。

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この作品は2004年に発表されていますが、時代的には1980年代後半から1990年代前半のようです。

 

今の時代の話だったら、天童が黒いオーロラの位置をスマーフォンを使用して測定したり、由子が知った情報をSNSで拡散するエピソードとかありそうです。

 

また由子の失踪もスマートフォンの位置情報とかで履歴を辿られて毛利が早々に逮捕されるということも考えられますね。

 

私が今から10か月前に戻れるなら何をするかと考えた時に、たぶん私ならミニロトやロト6をやると思います。

なぜならせいぜいそれくらいしか覚えられないからです(笑)。

 

作中ではみんな競馬で当てると当たり前のように言っていますが、私の場合、日付、第何レース、着順もいくつも覚えらないですし、10人分の電話番号も覚えていられるか怪しいです。

 

もし私が1990年代前半にリピートするならその時はミニロトはないので、競馬を覚えるかもしれません。

 

10か月前に戻ったら何をするかと考えた時に上の2のように小銭稼ぎは思いつきましたが、他になにか人生をよくしたいとかそういうことは全く思い浮かびませんでした。

 

大人になって、(水準の高い低いは別にして)安定した生活になると10か月くらい前に戻っても大きなターニングポイントがあるわけではないですし、どうしても是正したいような出来事もありませんでした。

 

では新しいことに挑戦してよりよい人生を送ろうと努力するものアリかなとも思いますが、そのせいで失敗をしてより悪い方に転がるかもしれないので、失敗してもダメージならないような小さな挑戦しかできないような気がします。

 

こういう物語にはやはり出てきました。バタフライ効果!!

 

私が思うに、1人だけリピートしてもかなり影響が出ると思うのですが、10人もリピートすればものすごい影響が出ると思うのですが・・

 

作中では競馬は予想通りの結果になるし、たばこの不始末で予定通り火事になるし、ヘリコプターは予定通り墜落するし・・歴史の復元力と書かれていましたが、世の中の大筋は変わっていないようです。

 

こんなことを考えたところで実際の生活においては永遠に確認のしようがないんですけどね(笑)。

 

作中で「思考実験」という言葉がたびたび出てきましたが、その中で天童の語る胎児の話は非常に考えさせさせられました。

 

たしかに鮎美が妊娠したままリピートしたら、その胎児の意識はどこに行くのでしょうか?

胎児には意識はないのでしょうか?

もし10か月未満の嬰児が生まれる前にリピートしたら意識はやっぱり母親の胎児の中に戻るのかな等、疑問は尽きません。

 

また黒いオーロラをくぐった人間はその後どうなるのでしょうか。

意識が抜けて気絶状態か脳死状態になるのか、意識がコピーされリピートする意識と肉体に残る意識に分かれるのか・・

 

しかしこれは10月30日にリピートするヘリコプターを観察していれば判明するでしょう。

もし意識が抜けてヘリコプターが墜落したなら10月31日の新聞に載るはずなので、R0かR1に行ってR1で10月31日を経験した大滝と渡辺はどうなるのか知っているかもしれませんね。

 

天童がメインキャラクターで登場して驚きましたが、態度は悪いですが魅力的なキャラでした。

 

そしてまさか天才的な頭脳まで持ち合わせていたとは驚きです。

ぜひとも天童の探偵役のミステリー小説を読んでみたいです。

 

表紙は「女性の斜め後ろ姿」とその女性と手をつないでいる「手」ですが、私はパッと見て女性は「子供(女の子)」で手をつないでいるのは「父親」だと勝手に思っていました。

 

だからこの作品は少女を中心としたどろどろの人間模様かなと思ったくらいです。

結果全然違ってよかったです(笑)。

 

読み終わってから表紙をよく見ると、線路の上(?)を歩く大人の女性に思えるので、「手」は男(彼氏)ではないかと思いました。

これは鮎美と毛利を表しているのでしょうか。

 

おそらく乾さんは何か意味を持たせているのでしょうが私には読み取れません。

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さてやはり乾さんの作品は面白いと再認識したので、次は何を読むのか決めていませんが、その時が楽しみです。

 

(個人的評価)

面白さ     ☆☆☆☆

登場人物    ☆☆☆☆

ハラハラ    ☆☆☆☆☆

読後のモヤモヤ ☆☆☆☆☆