この作品を読んだ理由はただひとつ!

メフィスト賞受賞作だから(笑)」です。

 

そして古野まほろさんの作品を読むのも初めてでとても楽しみにしてました。

 

今回は図書館で借りました。

最初、図書館で本を見たときの感想は「ぶ厚い!」です。

まさか800ページもある本とは知らなかったので驚きました。

 

そうして読み終わるのに2週間以上かかりました。

感想としては・・細かいことは後述しますが、結論から言うと、1度は読んでおいた方がいい作品だと思います。

 

またこれは玄人好みの作品なのかもしれないとも思います。

私にはこの作品は理解しきれませんが、プロの作家、熱烈なミステリマニア、古野さん同じくらい博識な方をうならせる威力はありそうです。

 

古野さんは中井英夫さんの「虚無への供物」に影響を受けたそうですが、『日本三大奇書』の「虚無への供物」より奇書っぽいです(汗)。

しかし決して悪い意味ではありません。

 

そして『新・日本三大奇書』があるなら、これを入れてもいいのではと思えます。

奇書と言っても、私自身はとても楽しめ、“1粒で3度おいしい”作品であったと思います。

 

さてここからネタバレ的な感想に入ります。

 

この作品はとにかく独特だと感じます。

文章、登場人物の語り口、物語の世界観、展開などとにかくすべてが独特でした。

 

順を追って書くと、最初から奥平が死ぬまでの約200ページは読むのが大変でした。

ここまで来るのに2週間かかりました。

 

とにかくカタカナのルビが振ってある漢字や専門用語が飛び交う文章と会話、豊富な知識や外国語を織り交ぜて平然と会話をする優秀で恵まれた登場人物たち。

 

その中でも突出して不思議な存在の主人公の「古野まほろ」(以下「まほろ」)。

作者と同名の主人公の物語は久しぶりな気がします。

 

文章の衒学的さは『日本三大奇書』のひとつ、小栗虫太郎さんの「黒死館殺人事件」を思い起こさせます。

 

奥平が殺されるまではステキな高校生たちと、まほろの自慢のような青春物語かと思ってましたが、ここから面白くなってきます。

読むペースも一気に早くなりました(笑)。

 

首切り殺人の謎や暗号文の謎、学園の七不思議、過去の首切り殺人との関連など、ミステリ的にワクワクするような事柄がだいぶ出そろい、ミステリがどんどん加速していきます。

 

そして中盤は謎とともに、音楽要素も欠かせない要素です。

特にアンコン本番の描写を読んでいると、私も吹奏楽部に入りたいと思うくらいです。

 

そんなアンコン本番後に瀬尾が殺されてからのアンコンメンバーによる推理合戦は、おそらく「虚無への供物」のオマージュでしょう。

 

思い返すとこの推理合戦は、古野さんなりの“アンチミステリー”を表現したのではないかと思います。

”ミステリおける最高意志決定者である探偵”の判断が正解とされるミステリー小説へのアンチテーゼでしょう。

 

そして推理合戦の最後に探偵役であるまほろが敢えて誤った推理を披露して、しかもそのどさくさに紛れて仲間である切間を殺して口を塞ぐ・・とんでもない奴です。

 

いよいよ終盤に入るともう展開がナナメ上すぎて、それが面白くなってきます。

 

姫川市文化会館での本格ミステリの後は、学校の地下でファンタジーに変わる急展開には、私には説明する言葉が思いつきません。

 

そして由香里は帝都の魔人(ここでは姫川の魔人(汗))だったんですね。

私は詩織が犯人だと思っていたので、由香里がラスボスだったのには驚きですが、それでもきっちり学園の七不思議の謎、奥平が死んだ謎などが解かれたので、物語としては何となく落ち着いたような気がします(笑)。

 

ざっと私の感想を書いてきましたが、古野さんはこの物語を書けば読者からどういう反応が返ってくるかおそらく理解していたでしょうし、実際の読者の反応は当然想定の範囲内であったでしょう。

 

これから書く私のどうでもいいツッコミも古野さんには想定の範囲内でしょうが、それでも書かずにいられません(笑)。

 

♬♪♬♯♭♪♬♪♯♭♩♩♪♬♪♩♯♭♬♪♬♯♭♪♬♪♯♭♩♩♪♬♪♩♯♭

作者と同名のキャラを主人公に据え、周りから愛されている・・そんな自分の分身を描くというのはどういう気持ちなんでしょうか。

 

実際愛されキャラは世の中にはいますが、こうも表立ってとにかく老若男女誰からも愛され一目置かれるまほろは、正直気持ち悪いくらいです(笑)。

 

頭脳明晰で博識であり、洞察力にも優れ、会話もウィット(?)とユーモア(??)に富むからなのでしょうか。

 

さらにまほろは自分の都合で友人を殺しておきながら、ラストで銃弾が胸に当たりながらも十字架が都合よく防いでくれて生き残る。しかも詩織は殺人を犯したまほろを待っていてくれる・・まほろは作者という神にひいきされています。

 

しかしまほろは魅力がないのとはまるで違います。

これがまほろの魅力です!

 

好きか嫌いかと言われれば、また別問題なんですけどね。

 

まほろの魅力とともに、この作品の魅力に衒学的要素があるのは、読んだ誰もが思うことでしょう。

 

語学、文学、哲学、歴史からアニメにいたるまでとにかく知識の量がすごいのは、古野さんが博識だからなのは間違いないと思います。

 

そしてストーリーとは関係ない記述が多いのも特徴です。

もっともそれは物語を鮮やかに彩る必要な記述であるとは理解できますが・・装飾などの言葉や記述を減らしたらだいぶページ数が減ると思います。

 

でもそれを取ったらこの物語の魅力は半減してしまうので、やっぱり今のままがいいと思います。

 

これは伊坂幸太郎さんの作品や麻耶雄嵩さんの作品の感想でも書いていますが、登場人物が

みなものすごい博識で、そして表現が豊かです。

 

勁草館高校は進学校で生徒は優秀なでしょうが、とにかく吹奏楽部の生徒はとてつもなく優秀です。

私と彼らでは、私が彼らの言っていることを理解できずに会話が成立しません。

 

まほろは親友である奥平と柏木の心が読める設定ですが、奥平と柏木のセリフの「 」の中に( )を入れて、話し言葉と心情を並べて語るのは斬新でした。

 

推理合戦と上述しましたが、いくら「虚無への供物」のオマージュとはいえ仲間同士の告発合戦が必要なのかと疑問に思いました。

 

しかも顧問の先生が殺され、自分の仲間を殺人犯に仕立てる推理をみんなが冷静に行うのは、いくら物語とは言えあり得ないな~と思います。

 

読者としては推理した側はツッコまれて自説を引っ込めるのがオチと分かっているし、トリでまほろが解決するんだからと、何の緊迫感もなく読んでました。

 

♬♪♬♯♭♪♬♪♯♭♩♩♪♬♪♩♯♭♬♪♬♯♭♪♬♪♯♭♩♩♪♬♪♩♯♭

 

さて読み終わってから知ったのですが・・私が図書館で借りた本は2007年1月に講談社から発刊ですが、2011年に出版社を変えて発刊し、それに伴って内容も少し手を入れているようですね。

 

そちらも読んでみたいと思いますが・・また800ページを読むのはちょっとキツいです。

 

最後に・・これは図書館で借りた本なので帯は表紙の内側に貼り付けてあります。

 

そして読み終わった後に帯を見ると、「奥平が斬首死体となって発見される。」と序盤(といっても200ページ目くらい)のネタバレが書いてあったり、最後の一文が「本格と幻想とSFが奇跡のように融合した青春ミステリ。」とすがすがしいくらい盛大にネタバレ!!!

 

先に帯を読まなくて本当に良かったです。

 

小説を読むときは極力事前情報を排除した方が圧倒的に楽しめると思うので、この作品も事前情報をほぼシャットアウトして読み始めてよかったと思います。

 

おかげでメフィスト賞受賞作を思う存分楽しめました。

 

(個人的評価)

登場人物 ☆

面白さ  ☆☆☆

衒学的  ☆☆☆☆☆

奇書的  ☆☆☆☆☆